Z世代が無表情なのはなぜか?

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ソーシャルメディアでは、Z世代の人々の「無表情で冷ややかな視線」が話題になっています。

TikTokやInstagramでは、表情を動かさずに視線だけをカメラに向ける「Gen Z Stare(Z世代の視線)」が注目を集めており、その静けさと曖昧さに、上の世代は戸惑いや興味を抱いています。

アメリカ・コロンビア大学(Columbia University)に所属する心理学者タラ・ウェル博士は、そのようなZ世代の表情や視線が、Z世代の内面や社会的態度を反映した自己表現であると指摘します。

Z世代の無表情にはどんな意味があるのか、詳しく見ていきましょう。

目次

  • Z世代の「無表情」に隠された意味とは?
  • 「自己防衛」と「反抗」が無表情にしている
  • 情報過多と美意識の変化が「虚ろで冷ややかな視線」を生む

Z世代の「無表情」に隠された意味とは?

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Z世代特有の「無表情」「冷ややかな視線」の背後にある心理とは? / Credit:Canva

Z世代とは、おおよそ1997年から2012年の間に生まれた若者たちを指します。

彼らはスマートフォンとSNSの普及とともに育った「デジタルネイティブ世代」であり、コミュニケーションの在り方や自己表現の方法にも大きな違いが見られます。

その中で、彼らの特徴の一つとして挙げられているのが「Gen Z Stare」と呼ばれる無表情な視線です。

これは、相手やカメラを無感情な表情でじっと見つめるもので、笑顔や喜怒哀楽といった明確な感情をあえて出さない点が特徴です。

SNS上では「何を考えているのかわからない」「冷たい印象を受ける」「逆に自信がありそう」とさまざまな反応が見られます。

@dantejameesI’m used to being stared at but Gen Z’s hits different♬ original sound – Dante Elizabeth James

TikTokでは、教師や他者に話しかけられても返事をせず、無言で見つめ返す様子をとらえた動画がバズり、いわば“無表情なリアクション”そのものがミーム化して拡散されています。

では、なぜZ世代は無表情なのでしょうか。

ウェル博士は、こうしたGen Z Stareには、主に4つの心理的・社会的要因があると分析しています。

それら要因を1つずつ見てみましょう。

「自己防衛」と「反抗」が無表情にしている

まずはZ世代の無表情をつくる2つの要素を考慮しましょう。

1. 感情の自己防衛

Z世代は、SNSという常に他者の視線にさらされる空間で自己表現を行っています。

そのため、感情を露わにして人々に「恥ずかしい」と見なされることを恐れ、極力表情や反応を抑える傾向が見られます。

心理学者Vermaら(2023)の研究によると、無表情は感情の自己調整の戦略として機能し、過剰な評価や判断から自分を守る役割を果たすとされています。

Z世代の無表情は、まさにこうした「デジタル自己防衛」の表れと考えられるのです。

2. 演技的な文化への反抗

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「過剰な演出」に対する反抗 / Credit:Canva

かつてのSNS文化では「カメラの前では笑顔」が当然視されていました。

しかし、Z世代はこのポジティブな演技に強い違和感を抱き、それを「わざとらしく、信用できない」と感じています。

カーティン大学の研究(2025)は、インフルエンサー文化の変遷を分析し、今では「リアルで飾らない態度」や「無感動な表情」にこそ本物らしさが宿ると考えらえていることを指摘しています。

そのためZ世代の無表情は、作られた笑顔ではなく、むしろ何も演じない姿勢で共感を呼ぶ、新しいスタイルなのかもしれません。

情報過多と美意識の変化が「虚ろで冷ややかな視線」を生む

Z世代の無表情の背後にある心理の残り2つを見てみましょう。

3. 情報過多と感情の麻痺

Z世代は、SNSやネットメディアを通じて、日々大量の動画、写真、感情的コンテンツに触れています。

こうした過剰な刺激に長期間さらされることで、感情の起伏が乏しくなる「感情の平坦化」が起こりやすくなります。

Z世代の無表情は、情報過多による感情の疲弊が生んだ適応的な反応とも言えるでしょう。

4. 美的価値観の変化

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美意識の変化。ありのままの自分を受け入れる姿勢 / Credit:Canva

従来のSNSでは、明るく整った顔立ち、加工フィルターによる美しさが“良い写真”とされてきました。

しかしZ世代は、そうした「完璧な美」ではなく、「素のままの自分」に価値を見出しています。

過剰なまでの過剰なまでの華やかさを拒絶して、生々しさ、曖昧さ、ぎこちなささえも受け入れているのです。

Z世代にとっての無表情とは、単に無関心を装っているのではなく、「飾らない強さ」の象徴なのです。

ここまでで心理学者ウェル博士が分析する「Z世代の無表情」の理由を考えました。

彼らの「無感情な視線」は、感情の制御、文化的選択、デジタル疲労への適応、そして美意識の変革という、複合的な背景をもつ非言語的な表現です。

それは、上の世代の常識では測れない、新しい自己表現のかたちなのかもしれません。

Z世代の視線は、静かだけれども強く、「常に露出が求められる時代」を映し出すメッセージなのです。

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参考文献

The Psychology Behind the Gen Z Stare
https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-clarity/202507/the-psychology-behind-the-gen-z-stare

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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