R2-D2の電子音も再現⁉「鳥の声マネ限界を調査したユニークな研究」

人間のことばを真似して「おはよう」と話しかけてくるインコやオウムを見たとき、誰でも一度は「どうして鳥なのに、ここまで人間の声に似せられるんだろう?」と考えたことがあるはずです。

もちろん、彼らが言葉の意味を理解して話しているわけではありません。

聞こえてきた音そのものを学習し、自分の発声器官で“再現”しているのです。

では、人の声ではなく、もっと人工的な音──たとえば電子音や機械音のような、人間でも真似しにくい音を聞かせたらどうなるのでしょう。

オランダのライデン大学(Leiden University)生物学研究所を中心とした研究チームは、この疑問に対して非常にユニークな調査を行いました。

それが、スターウォーズのキャラクター「R2-D2」の電子音を飼っている鳥に真似させたという動画の分析です。

この一風変わった動画は世界中で投稿されていて、数多く見つけることができます。研究者はこの動画を用いて、モノマネが得意な鳥たちの種ごとに見られる驚くような模倣の才能を報告しています。

この研究の詳細は、2025年11月6日付けで科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次

  • 「R2-D2の声」は鳥の“音マネ能力”を調べる最適な素材だった
  • 「ムクドリの勝因」は“二重音”を操る特殊な喉にあった

「R2-D2の声」は鳥の“音マネ能力”を調べる最適な素材だった

人間の声を真似して話すオウムやインコの動画はよく知られていますが、彼らが人工的な電子音まで再現できるかどうかは、これまでほとんど調べられていませんでした。

研究者たちが興味を持ったのは、鳥が「意味」ではなく「音そのもの」を学習するという点です。

もし音を丸ごとコピーする能力があるなら、人間の言葉以外の人工音もそっくり再現できるはずです。

では、その限界はどこにあるのでしょうか

この疑問に対して、ライデン大学やアムステルダム大学の研究チームが着目したのが、世界中に投稿された「R2-D2の声をまねて鳴く鳥」の動画でした。

スター・ウォーズに登場するドロイドR2-D2の電子音は、単純な「ピッ」という音だけでなく、複数の周波数が重なった複雑な合成音も含んでいます。

実はこの「R2-D2の電子音をオウムに学習させてみた」というタイプの動画は、世界でそこそこ人気があり、投稿者の国籍も環境もバラバラで、それゆえに、家庭や飼育環境の中で比較的自然に鳥が人工音を学習したデータが集まっているのです。

実際、鳥にR2-D2の電子音を学習させるためのベースの動画というのも投稿されています。

この“音のバリエーションの幅”は、鳥がどくらい複雑な音を模倣できるのか調べるうえで非常に都合の良い素材でした。

研究者たちはYouTubeやTikTokなどから115本の動画を収集し、9種のオウム・インコとホシムクドリ(European starling)の個体がまねた音声をすべて切り出して比較しました。

解析では、音の高さや変化の仕方を細かく読み取り、どれほど“元のR2-D2音に似ているか”を数値として割り出しました。(このオリジナルの音は上の動画を参考にしている)

つまり、ただ「聞いた感じが似ている気がする」ではなく、周波数の動きそのものをもとにした客観的な精度比較を行ったのです。

その結果、研究者たちを最も驚かせたのは、「勝者がオウムではなかった」という点でした。

人間の声真似をさせた場合、オウムはトップクラスの精度を持っていますが、電子音のモノマネとなると、多くのオウム類もホシムクドリが高いレベルで模倣していたのです。

しかも、ホシムクドリは複数の音が重なって鳴るようなR2-D2特有の“多重音”まで再現していたのです。

一方でオウム類はそのような複雑な多重音を完全に再現することはできませんでした。

さらに意外だったのは、オウム類の中でも、大型のアフリカン・グレーより、小さなセキセイインコやオカメインコのほうが、模倣精度が高かったという点です。

大きな脳を持つオウムが必ずしも“音マネ上手”とは限らず、むしろ小型種の方が、R2-D2の電子音の精密な模倣が得意だったのです。

こうした“意外な強者”と“見かけによらない苦手分野”が浮かび上がったことで、鳥の音マネ能力にはまだ知られていない奥深さがあると分かってきました。

では、なぜ種類によってここまで差がついたのでしょうか。

また、今回の研究にはどのような特徴や注意点があったのでしょうか。

次のパートではその背景に迫っていきます。

「ムクドリの勝因」は“二重音”を操る特殊な喉にあった

鳥が音を発する器官は、喉の奥にある「鳴管(syrinx)」と呼ばれる構造です。

この鳴管は、種類によって動き方が大きく異なります。

ホシムクドリの仲間は、左右の鳴管を独立して動かすことができ、左右それぞれで別々の音を同時に鳴らすことができます。

この仕組みは「バイフォネーション(biphonation)」と呼ばれます。

インコとムクドリの鳴管の解剖学上の相違点を示した図

R2-D2の声には、まるで鏡合わせのように複数の周波数が同時に変化する“多重音”が含まれています。

ホシムクドリは、鳴管の構造そのものがこうした多重音と相性が良く、電子音に近い不思議な音を物理的に再現できる珍しい鳥だったのです。

研究チームがムクドリの声を、音の周波数成分を可視化した「スペクトログラム」という図で比較したところ、R2-D2の元の音とほぼ同じ形のパターンが現れていました。

電子音ならではの複雑な動きが、高いレベルで一致していたのです。

R2-D2とムクドリおよびオウムの模倣を比較したスペクトログラムの図

オウム類は“下手”なのではなく、発声の得意分野が違っていた

では、オウムやインコは音マネが苦手なのでしょうか。

実際にはその逆で、人間の声の模倣能力に関しては世界トップクラスです。

ただし、得意なのは“単一の音を明瞭に発声する能力”であり、複数の音が重なった人工音になると構造的な制約が見えてきます。

オウム類の鳴管は、ホシムクドリのように左右で二つの独立した音を同時に出すことはできません。

そのため、R2-D2の多重音のように複数の周波数が同時に変化する音では、どうしても再現が単純化されてしまいます。

それでも、多くの個体はR2-D2の主な音の高さやリズムを正確に模倣しており、電子音の部分的な特徴は十分に再現していました。

さらに興味深い点として、アフリカン・グレーのような大型オウムより、セキセイインコやオカメインコのような小型種のほうが“音の正確さ”で上回る場面が多く見られました。

この理由について研究チームは、大型種は幅広いレパートリーを持つ一方で、小型種は限られた音に集中して学習し一つの音を丁寧に磨き上げる傾向があるからではないかと考えています。

ちょうど、たくさんの曲を少しずつ覚えるタイプと、ひとつの曲のフレーズだけを完璧に仕上げるタイプの違いに近いイメージでしょう。

この研究の限界と見えてきた“自然実験”としての価値

今回の研究は、世界中の投稿動画を素材とした、市民科学的なアプローチで行われました。

そのため、どれだけ練習したのか、どんな環境で音を覚えたのかといった「学習過程」は把握できていません。

飼い主が数日で教えた可能性もあれば、毎日何度も音を聞かせ続けていた可能性もあり、学習量の違いが結果に影響している可能性は否定できません。

それでも、100本を超える動画から得られたデータには、人工音を模倣する鳥の“自然な行動”が多く残されていました。

専門の研究施設で計画的に訓練された動物ではなく、多くは飼い主との日常生活の中で覚えたと考えられる鳥たちの実例を調査できたという点は、この研究の大きな強みでしょう。(ただし、論文中でも個々の訓練方法の詳細は不明とされています)

今後は、個体がどのような手順で音を学んでいくのかを追跡する実験を行うことで、模倣能力の発達や学習メカニズムがより明らかになると期待されています。

R2-D2がきっかけになった“鳥の声の奥深さ”

R2-D2というユニークな人工音を題材にした今回の研究から、鳥の音マネ能力は想像以上に多様で、種ごとに異なる特徴を持つことが見えてきました。

彼らが模倣する音の種類は年々広がり、スマホの通知音や家電の操作音など、人間の生活が作り出す音も取り込まれつつあります。

これからの時代では人の声マネよりも、電子音を自在に操る“ロボ声の達人”としての鳥たちの姿が当たり前になっていくのかも知れません。

日常の音をまねる鳥たちは、私たちが気づかないうちに、人工音の世界を着実に学び続けているのです。

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元論文

What imitating an iconic robot reveals on allospecific vocal imitation in parrots and starlings
https://doi.org/10.1038/s41598-025-23444-7

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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