ChatGPTは、どんな複雑な質問にも瞬時に答えを返してくれる便利なAIツールです。
もちろん、その答えが必ずしも正しいとは限りませんが、そのスピードと手軽さは多くの人にとって大きな魅力となっています。
そんな中、アメリカで「ChatGPTを活用して裁判で勝訴した女性」が現れ、大きな話題を呼びました。
「弁護士を雇わず、AIを“法廷のパートナー”として使った」というこの事例は、AI時代の社会の可能性と危険性を同時に浮き彫りにしています。
目次
- ChatGPTを使って自分を弁護した女性が逆転勝訴
- 法の世界でAIに頼ることの危険性
ChatGPTを使って自分を弁護した女性が逆転勝訴
カリフォルニア州のリン・ホワイトさん(Lynn White)は、家賃の滞納を理由に立ち退き訴訟を起こされ、最初の裁判では敗訴しました。
通常ならここで弁護士に依頼するのが一般的ですが、ホワイトさんは自分ひとりで判決に不服を申し立てること(控訴)を決意しました。
ここで彼女が頼ったのがChatGPTやPerplexityといったAIツールでした。
彼女は以前、小規模な音楽制作会社でAIを使った動画生成を行っていたため、法的な分野でもこれらが役立つと考えたのです。
ホワイトさんはChatGPTに対し、「ハーバード大学法学部の教授になりきって、自分の主張の穴を徹底的に指摘してほしい」とお願いし、論点の弱点や矛盾点を何度も洗い出しました。
納得がいくまで議論を繰り返し、AIが「A+」をつけてくれるまで主張の精度を高めていったといいます。
AIは、あたかも仮想の弁護士のように振る舞いますが、実際には人間の弁護士のような資格や法的責任は持っていません。
ただ、膨大な情報をもとに論理の穴を指摘する「練習相手」としては大いに役立ったようですようです。
この粘り強い取り組みの結果、控訴審ではホワイトさんが逆転勝訴。
立ち退きを回避し、約5万5千ドルの罰金と1万8千ドルを超える未納家賃の支払い義務も免れることができました。
ホワイトさんは、この体験について次のように語っています。
「AIが私のケースでどれだけ役立ったか、言葉では言い尽くせません。ChatGPTがいなければ、私はこの控訴に勝つことは絶対にできなかったでしょう」
彼女の法廷での弁論は、相手側の弁護士からも「もし法律の分野で働くつもりなら、あなたはきっと成功できるだろう」とメールで称賛されるほど説得力のあるものでした。
この例を知ると、「自分も弁護士ではなくAIに頼ろう」と考えるかもしれません。
しかしそれは非常に危険な考え方です。
なぜなら、裁判でAIを用いたケースの多くで、致命的な問題が生じているからです。
法の世界でAIに頼ることの危険性
ChatGPTのようなAIを法廷で活用することには大きなリスクもつきまといます。
AIは「ハルシネーション」と呼ばれる現象、つまり「それらしいけれど実際には存在しない判例や論拠」を作り出してしまうことがあります。
アメリカの法曹界では、AIの誤用による深刻なトラブルも続出しています。
たとえば、ある弁護士がAIの提案をそのまま法廷文書に記載したところ、23件中21件の判例が“完全な架空のもの”であると判明し、裁判官から厳しく糾弾されたというケースも報道されています。
AIを提供する企業側も「法的アドバイスには使わないでほしい」と警告していますが、実際の現場ではその“ガードレール”は簡単に乗り越えられてしまいます。
誰でもAIに頼ることで、それっぽい法律文章が出てきてしまうのが現状です。
弁護士のロバート・フロイント氏は、AIと法廷の関係について次のようにコメントしています。
「弁護士がいない人や経済的な理由で弁護士に頼れない人がAIツールに頼りたくなる気持ちはよく分かります。
しかし、専門家である弁護士がAIの誤った情報をそのまま使い、クライアントを危険にさらすなど、決して許されることではない。理解できません」
AIの法廷利用は、「一発逆転」のギャンブル的な面を否定できません。
ホワイトさんの事例は確かに魅力的な成功例であり、「家にハーバード大学法学部の教授がいる」という夢のような話にも見えます。
しかし、まさにこれは「夢のような話」です。
今回ホワイトさんは大きな賭けに勝ちましたが、多くの場合は「同じやり方で失敗に終わる」リスクの方がはるかに高いのです。
ChatGPTなどAIツールの法廷利用は、現状では非常に高いリスクを孕んでいます。
現在、AIは万能の弁護士ではなく、人間には到底及びません。
今後も、こうしたAI活用の課題と可能性の両方を冷静に見つめ、私たち自身が賢く使いこなす力が求められます。
参考文献
Woman Actually Wins Legal Case Using ChatGPT
https://www.zmescience.com/future/woman-actually-wins-legal-case-with-chatgpt/
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部