今や多くの人が仕事や勉強、日常の疑問解決にAIチャットボットを活用しています。
膨大な知識をもとに、瞬時に答えを返してくれるAIは本当に頼もしい存在です。
しかし実は「AIをよく使う人ほど、自分の力を過大評価しやすくなる」という現象があることが、フィンランド・アールト大学(Aalto University)の最新研究でわかってきました。
研究の詳細は2025年10月27日付で学術誌『Computers in Human Behavior』に掲載されています。
目次
- AIを使うと自信過剰になる?
- なぜAIを使うほど、自分を過大評価してしまうのか?
AIを使うと自信過剰になる?
人は自分の能力を正確に見積もるのが苦手です。
特に「自分は平均よりちょっと上」と考えがちで、これを心理学では「ダニング=クルーガー効果」と呼びます。
この心理効果は具体的にいうと、能力が低い人ほど自信過剰になりやすく、逆に優秀な人ほど自分を過小評価しがちという現象です。
しかしアールト大学を中心とした国際研究チームが行った最新の実験で、この常識がAIの世界では通用しないことがわかってきました。
実験では、約500人の参加者に難しい論理パズル(アメリカのロースクール進学試験で出される問題)を解いてもらい、その半分はAIチャットボット「ChatGPT」を使うことができました。
その後、参加者全員に「自分はどれくらい上手くできたか」を自己評価してもらいます。
その結果、AIを使ったグループでは、全員が自分のパフォーマンスを大幅に過大評価していたのです。
しかも「AIリテラシーが高い」と自負する人、つまりAIを使い慣れている人ほど、より強く「自分はうまくやれた」と思い込みやすい傾向が現れました。
AIを活用すると一見正解率が上がるように見えますが、その“結果”だけを見て「自分の力」と錯覚してしまう――そんなワナにはまる人が増えていたのです。
なぜAIを使うほど、自分を過大評価してしまうのか?
「AIは便利だけど、自分の頭で考えたつもりになってしまう」
この過信の背景には、AIの“答え”をすぐに受け入れてしまう私たちの行動パターンがあります。
研究チームによれば、ほとんどの人はAIに1回だけ質問を投げて、その答えを「正しい」と信じてしまうそうです。
追加で調べ直したり、他の観点から再度質問したりする人はごくわずかでした。
つまり「AIが正解をくれる」と思い込み、自分でじっくり考え直す機会が減っているのです。
このような状況を「認知的オフローディング」と呼びます。
本来なら、何度か試行錯誤したり、別の視点から再検証することが大切ですが、「AIが正しい答えをくれる」という安心感があるため、自分自身の判断力や知識を深くチェックしなくなります。
そうすると、AIをよく使う人ほど、「自分は新しい技術をうまく使いこなしている」「他の人よりも進んでいる」と自負しやすくなります。
この「自分はできている」という感覚が、実際の能力以上の自信につながると考えられるのです。
では、どうすればAIに頼りすぎて自信過剰にならずに済むのでしょうか?
研究者たちは「AIからの答えを一度で鵜呑みにせず、複数回質問したり、自分でもう一度考え直す習慣をつけることが大切」と指摘します。
また、AI自身が「この答えにどれくらい自信がありますか?」「他に考えられる可能性は?」など、ユーザーに再考を促す機能を持つべきだという提言もなされています。
AIは確かに強力な道具ですが、使う側の私たちが「本当に自分で考えているか」「その答えをどう評価するか」を忘れてしまうと、知らず知らずのうちに自分の実力を見誤ってしまう危険があるのです。
AIを活用する時代だからこそ、「自分で考える」ことの大切さ。それが、私たち一人ひとりに問われています。
参考文献
The more that people use AI, the more likely they are to overestimate their own abilities
https://www.livescience.com/technology/artificial-intelligence/the-more-that-people-use-ai-the-more-likely-they-are-to-overestimate-their-own-abilities
AI use makes us overestimate our cognitive performance
https://www.eurekalert.org/news-releases/1103616
元論文
AI makes you smarter but none the wiser: The disconnect between performance and metacognition
https://doi.org/10.1016/j.chb.2025.108779
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

