ADHD起業家が編み出した「ゲームみたいに集中してタスクをこなす付箋ライフハック」とは?

ADHD

「ゲームならいくらでもできるのに、やらなきゃいけない仕事や家事は先延ばしにしてしまう」

そんな悩みを抱えたことのある人は、きっと少なくないでしょう。

これはただの怠けではなく、脳の仕組みが深く関係しているのかもしれません。

この問題に対して独自のアプローチで解決策を見出したのが、アメリカの自営業者ローリー・エロー(Laurie Hérault)氏です。

彼は長年にわたってADHDによる先延ばし癖に苦しんできましたが、「ゲームのようにタスクを処理する」という画期的な方法を考案。

ついにはレシートプリンターを使った習慣管理システムを確立して、生産性を爆上げすることに成功しました。

目次

  • ADHDで悩む男性の”先延ばし癖”との長い戦い――ゲームにヒントあり
  • ゲーム的集中力を現実に応用するテクニックとは?

ADHDで悩む男性の”先延ばし癖”との長い戦い――ゲームにヒントあり

ローリー・エロー氏は、21歳の頃に会計ソフトやPOSシステム向けのカスタムアプリを提供するビジネスを立ち上げました。

そして現在39歳となった彼は、20年近くもADHDに関連した先延ばし癖と戦い続けてきた人物です。

エロー氏の問題は「やるべきことを後回しにする」という極めてシンプルなものでしたが、それがもたらす影響は深刻でした。

納期に追われる仕事のストレスを原動力にしないとタスクをこなせず、最終的には健康を害して燃え尽き、ビジネスの破綻まで経験しました。

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FPSで集中できるのはなぜ? / Credit:Canva

その一方で、彼はゲームに対しては何時間でも集中できることに気づきます。

FPSなどのゲームに夢中になる自分の姿を見て、「自分の脳には集中力があるはずだ」と思い至ったのです。

そこで彼は、「なぜゲームには集中できるのか?」という問いに真剣に向き合います。

結果として分かったのは、ゲームには”フィードバックループ”と呼ばれる強力な心理的報酬システムが組み込まれているという事実でした。

彼が発見したゲーム集中の鍵は「短く繰り返されるループと強いフィードバック」です。

FPSゲームでは、照準を合わせ、弾を撃ち、当たるか外れるかという単純なループが何十回、何百回と繰り返され、そこに即時の視覚・聴覚フィードバック(効果音、敵の死亡アニメーション、ダメージ数値の表示など)が伴います。

もし、30分ごとに敵に遭遇するFPSがあったなら、それは決して魅力的ではありません。

プレイヤーは集中力が無くなり、ゲームを続けたいとは思わなくなるでしょう。

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ゲームでは、行動→結果→報酬の流れが極めてはやく、脳がそれを”快感”として処理している / Credit:Laurie Hérault

一方で、大人気のFPSでは、行動→結果→報酬の流れが極めてはやく、脳がそれを”快感”として処理しています。

プレイヤーに小さな報酬を頻繁に与え、”フロー状態”(深い集中)に導くのです。

さらにエロー氏は、自身の人生を振り返る中で、自分のADHD(注意欠如・多動症)とも向き合いました。

ADHDの人は特に、明確なフィードバックがない作業や、開始のハードルが高い作業に対して強い抵抗を感じやすいという特性があります。

こうした理解をもとに、彼は「ゲームの構造を現実のタスク管理に応用する」というユニークなアプローチに挑みます。

そして誕生したのが、彼独自の“付箋ライフハック”です。

ゲーム的集中力を現実に応用するテクニックとは?

ゲームに集中できるのは、「行動→結果→報酬」のループが短時間で繰り返されるからです。

この構造を現実のタスク管理に応用するために、エロー氏はまず、タスクを細かく分解しました。

例えば「部屋を片付ける」なら、「ベッドを整える」「机を拭く」「床を掃除機がけする」といった2〜5分で終わるマイクロタスクにまで細かく分けます。

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付箋に細かく分けたタスクを記入 / Credit:Laurie Hérault

これにより、1日に繰り返される“ループ”の回数が格段に増えるのです。

次に、フィードバックを強化するために使ったのが付箋でした。

彼はそれぞれのマイクロタスクを1枚の付箋に書き、終わったら紙をくしゃくしゃにして、透明な瓶に放り込むことにします。

この行動には「触覚・音・視覚」の三重の報酬があり、「達成感」がリアルに感じられるといいます。

そしてこの付箋ライフハックによって、日常のタスクでも「行動→結果→報酬」のループが短時間で繰り返され、エロー氏はなすべきことに集中できるようになりました。

しかし、実践していく中で、このライフハックにはひとつだけ欠点があると分かりました。

書くのが面倒くさいのです。

20枚、30枚と毎日手書きするのは時間がかかり、時には面倒でサボってしまうのです。

そこで登場するのがレシートプリンターです。

エロー氏は、POSレジで使われるサーマル式のレシートプリンターを活用し、自作スクリプトで日々の習慣やタスクを自動印刷する仕組みを作り上げました。

これにより、数十個のタスクを一瞬で印刷でき、1タスク1枚で手軽に使えるレシート紙が“付箋”の役割を果たすようになったのです。

サーマルプリンターはインク不要で低コストであり、ロール紙1巻で数千のタスクが出力できる実用性も魅力です。

さらに、曜日ごとに異なるルーチンを出力することで、生活のテンポに合わせた“習慣トリガー”も設定可能となりました。

結果として、エロー氏は「一度も習慣を抜かさず継続できている」と語ります。

しかも、彼はタスクの階層構造を表示する自作アプリも開発し、それをプリンターと連携させています。

これにより、タスクの”全体像”と”次にやるべきこと”の両方を視認可能にし、心理的ハードルをさらに下げることに成功しました。

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ADHDでも後回し癖をなくし、生産性を2~3倍できる「付箋ライフハック」 / Credit:Laurie Hérault

こうした工夫により、彼の生産性は「過去と比べて2倍、3倍になった」と語られています。

以前はほとんど作業できない日もありましたが、今では安定して毎日成果を出せるようになったのです。

「ゲームの中で得られる集中と達成感」を現実世界に持ち込むという発想は、一見奇抜に思えるかもしれません。

でも実際には、「私たちの脳は”報酬”に正直で、”快感”に導かれて動く」というごく自然な仕組みを活かしただけです。

たとえADHDの症状に苦しんでいたとしても、この方法を用いるなら、やるべきことを先延ばしにせずにすむかもしれません。

紙、ペン、空き瓶(可能であればレシートプリンター)さえあれば、あなたも今日からこのライフハックを始められます。

次にくしゃくしゃにするのは、あなたの“先延ばし癖”かもしれませんよ。

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参考文献

A receipt printer cured my procrastination
https://www.laurieherault.com/articles/a-thermal-receipt-printer-cured-my-procrastination

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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