化石の中に食物連鎖が保存されていました。
スイス・チューリッヒ大学の研究グループによって、食事中をサメに食べられた古代イカの化石が発見されました。
この化石はジュラ紀(約1億9960万〜1億4550万年前)の初期にあたり、イカは好物のエビを食べていたところをサメに食いちぎられ、エビを抱えたまま化石化したようです。
一体どうしてこんな状況で化石化したのかも気になりますが、大昔の1シーンが躍動感を持って伝わる興味深い化石です。
研究は、2021年4月29日付けで『Swiss Journal of Palaeontology』に掲載されています。
目次
- 3種の古生物が絡んだレアな化石
3種の古生物が絡んだレアな化石
この化石は、アマチュア化石収集家のディーター・ウェーバー氏が1970年に、ドイツ南西部シュトゥットガルト近郊の小村、ホルツマーデンにある採石場で発見したものです。
化石は調査されないまま保管されていましたが、2019年に、本研究チームのギュンター・シュバイガート氏がウェーバー氏のコレクションを訪れた際に発見し、買い取っています。
その後、チームが調査した結果、「べレムナイト(Belemnoidea)」という非常に有名な古代イカの化石が特定されました。
べレムナイトは、全長十数センチほどと小さく、外套膜の内側に硬い殻を持っており、全体的に矢のような鋭い形をしているため、化石を「矢石」と呼ぶこともあります。

研究主任のクリスチャン・クルーグ氏は「化石は約1億8000万年前のもので、今回のように軟組織まで状態良く保存されているべレムナイトの化石は、世界に10例ほどしかない」と言います。
驚きはそれだけでなく、べレムナイトはその足に「Proeryon属」に分類される古代エビを保持していました。
Proeryon属はべレムナイトと同時代に生息した甲殻類で、かなり横幅の広い平らなロブスターのような形をしています。

そして、今回調査された化石がこちらです。
左がべレムナイトで、右がProeryon属の残骸です。

さらに、べレムナイトの方を調べると、何らかの捕食者に体の軟組織を食いちぎられていることが分かりました。
それが致命傷になり、エビを抱えたまま海底に沈んだようです。
クルーグ氏は「捕食者は時に、自分のエサを食べるのに夢中で、周りの環境に注意を払うのを怠ってしまいます。
今回はその良い例であり、べレムナイトは体の柔らかい部分を食べられていました」と指摘します。
べレムナイトを食べた捕食者の正体は定かでありませんが、最も可能性が高いものとして「ヒボドゥス」が挙げられています。
ヒボドゥスは、約2億5000万年前のペルム紀末に出現し、白亜紀末に絶滅した古代ザメで、体長は約2〜2.5メートルほど。

べレムナイトを捕食していたことで知られ、以前にも腹部にべレムナイトの殻が詰まって死んだヒボドゥスの化石が見つかっています。
今回のケースでは、硬い殻を食べないよう、軟組織だけを狙って食い逃げしたのかもしれません。
参考文献
Jurassic squid got murdered mid-meal, leaving this epic fossil behind
https://www.livescience.com/jurassic-seafood-fossil.html
元論文
Fossilized leftover falls as sources of palaeoecological data: a ‘pabulite’ comprising a crustacean, a belemnite and a vertebrate from the Early Jurassic Posidonia Shale
https://sjpp.springeropen.com/articles/10.1186/s13358-021-00225-z
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部