米セント・ルイス大学(SLU)の最新研究で、週3回プレイするとメンタルヘルスが改善する球技があることがわかりました。
その球技とは「ピックルボール」です。
ご存じない方も多いかもしれませんが、これはテニスと卓球とバドミントンを足して3で割ったような球技で、比較的シンプルなルールから、アメリカで急速に人気を伸ばしています。
研究の詳細は2025年10月1日付で学術誌『Frontiers in Psychology』に掲載されました。
目次
- ピックルボールがメンタル改善につながる?
- なぜピックルボールが心に効くのか?
ピックルボールがメンタル改善につながる?
今回の調査は、アメリカで実施されている「SPIN(Surveillance in Pickleball players to reduce INjury burden)」というプロジェクトの一環として行われました。
対象となったのは18〜89歳の1667名のアクティブなピックルボールプレイヤーで、平均年齢は約62.8歳と高齢層が中心です。
研究チームは、参加者に過去12カ月のプレイ頻度と1回あたりのプレー時間を尋ねると同時に、世界的に広く使われる心理指標「WHO-5ウェルビーイング指数」でメンタルヘルスを測定しました。
そして結果は明確でした。
・週3回以上プレイする人:平均77.5点
・週2回以下の人:平均73.5点
さらに「1回のプレイ時間」でも効果は同じ方向に動きました。
・1回2時間超:平均77.7点
・1回2時間以下:平均74.9点
どちらも、プレイ量が多い人のほうが数値が有意に高くなっていたのです。
研究者は「少ない量でも効果はありますが、より多くプレイするほど精神的なウェルビーイングが高まる」と述べています。
重要なのは、今回の研究は年齢・性別・けがの有無・他のスポーツ経験などの影響を統計的に調整している点です。
つまり、純粋に“ピックルボールのプレイ量と心の健康の関連”だけを見ても、この差が現れていたことになります。
では、なぜこのスポーツは心にこれほど効くのでしょうか。
なぜピックルボールが心に効くのか?
研究では、年齢がこの効果にどのように影響するかも調べられました。
結果、興味深い傾向が現れています。
・若者よりも高齢者のほうがウェルビーイングが高め
・特に「63〜67歳」で効果が最大
・78歳以上ではやや低下するが、それでも頻繁なプレーは有益
年齢を重ねるほど、ピックルボールのメンタル効果が“より強く”出ていたのです。
これは、運動と社会的つながりが高齢期のウェルビーイング維持に重要であるという既存研究と一致します。
ピックルボールには以下の特徴があります。
・誰でも始めやすい
・コートが狭く運動負荷を調整しやすい
・2対2のダブルスが多く、コミュニケーションが自然に生まれる
・技術よりも楽しさや交流が重視される
つまり、「身体が衰えても続けやすいスポーツ」であることが、高齢者の心の支えとして機能している可能性があります。
一方で、けがをした人はプレイ量に関係なくウェルビーイングが大きく低下していました。
運動習慣の喪失、痛み、コミュニティから離れることなどが、その心理的影響として考えられます。
また、性別による差は見られず、男性も女性も同じようにメンタルヘルスの向上が報告されました。
誰にとっても公平に“心の効能”があるスポーツだといえます。
研究では予想外の結果として「他のスポーツ経験がある人は、今回の文脈ではやや低めのウェルビーイングを示した」という点も見つかりましたが、この理由はまだ明確ではなく、さらなる調査が必要とされています。
チームは今後、ピックルボールを使った12週間の介入プログラムを立ち上げ、実際にメンタルヘルスを改善できるかを検証したいと述べています。
参考文献
Playing pickleball at least three times a week linked to better mental health
https://www.psypost.org/playing-pickleball-at-least-three-times-a-week-linked-to-better-mental-health/
元論文
The more you play, the better you feel: a dose–response analysis of pickleball and mental wellbeing in U.S. adults
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2025.1676695
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

