街で見かけるチワワやトイプードルのような小さくて愛らしい犬たちも、実はオオカミの名残を持っているかもしれません。
アメリカ自然史博物館(AMNH)の最新研究で、現代の犬種のうち6割以上から、はっきり検出できる量の「オオカミ由来のDNA」が見つかったのです。
研究の詳細は2025年5月27日付で科学雑誌『PNAS』に掲載されています。
目次
- 現代犬のゲノムに潜む「オオカミの痕跡」
- オオカミDNAが性格にも影響?
現代犬のゲノムに潜む「オオカミの痕跡」
研究チームは、更新世後期(約12万6000年前〜約1万1700年前)から現代までに発表されたオオカミ、各種犬種、その他のイヌ科動物を含む、2700以上のゲノムデータを徹底的に解析。
その結果、現代の犬種の約3分の2が、オオカミとの交雑に由来するDNAを持っていることが分かりました。
興味深いのは、その交雑が「犬の家畜化の最初期」ではなく、犬がすでに人間社会で暮らすようになったあとに起きたと推定されている点です。
つまり、犬とオオカミの関係は、家畜化の一度きりで終わったのではなく、その後も長いあいだ、細く続いていた可能性があるのです。
具体的な数字を見てみると、オオカミの血が最も濃いのは、意図的にオオカミとの交配で作られたチェコスロバキアン・ウルフドッグとサーロス・ウルフホンドで、オオカミ由来DNAは23〜40%にも達します。
一般的な犬種の中で特に“オオカミ寄り”だったのは、猟犬の一種であるグラン・アングロ・フランセ・トリコロール(4.7〜5.7%)でした。
しかし「オオカミのDNA=大型で野性的」というほど単純な話ではありません。
研究では、ナポリタン・マスティフやセントバーナードのような体格の大きい護畜犬の一部には、オオカミ由来DNAがほとんど検出されませんでした。
一方で、ポケットサイズのようなチワワでさえ、約0.2%のオオカミDNAが見つかったのです。
オオカミDNAが性格にも影響?
では、このわずかなオオカミDNAは、実際に犬の姿かたちや性格に影響しているのでしょうか。
解析によると、オオカミの祖先を多く持つ犬種は、全体としては体が大きい傾向があり、北極圏のソリ犬や、一部の狩猟犬、「パリア犬」と呼ばれる半野生的な犬種など、特定の仕事のために繁殖されてきたグループで高い値を示しました。
チームは、犬種ごとの性格を説明する際に用いる言葉と、オオカミDNAの量も比較しています。
その結果、オオカミDNAが少ない犬種では「フレンドリー」「従順」「訓練しやすい」「快活」「愛情深い」といった表現が多く使われていました。
一方、オオカミDNAが多い犬種は「見知らぬ人を警戒する」「独立心が強い」「威厳がある」「警戒心が強い」「忠実」「控えめ」「縄張り意識が強い」といった言葉で語られることが多かったといいます。
ただし、研究者たちは「これはあくまで犬種の一般的なイメージに基づく主観的な評価であり、オオカミの遺伝子が直接こうした性格を決めていると断定することはできない」と強調しています。
「賢い」「従順」「子どもに優しい」「献身的」「落ち着いている」「陽気」といった表現は、オオカミDNAの多い犬種・少ない犬種のどちらにも同じくらいの頻度で現れており、単純な線引きはできません。
研究者は「犬は私たちの相棒ですが、その姿を形作ってきた大きな一因はオオカミなのかもしれません」と述べます。
長い歴史の中で、犬は「人間と暮らす」という独特の環境に適応するためのさまざまな進化上の課題を解いてきました。
その過程で、オオカミ由来の遺伝子を“道具箱の一つ”として利用しながら、今の多様で愛すべき姿にたどり着いた可能性があるのです。
参考文献
Your Dog Probably Still Has Some Wolf DNA in Its Genome, Study Finds
https://www.sciencealert.com/your-dog-probably-still-has-some-wolf-dna-in-its-genome-study-finds
Study Finds that Most Dogs are a Little “Wolfy”
https://www.amnh.org/explore/news-blogs/wolfy-dogs
元論文
A legacy of genetic entanglement with wolves shapes modern dogs
https://doi.org/10.1073/pnas.2421768122
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

