精神疾患をもつ人は「毎日コーヒー」で老化が遅くなる

毎日のコーヒー習慣が、精神疾患をもつ人の「細胞レベルの老化スピード」を変えるかもしれません。

英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)の研究チームは最近、うつ病、統合失調症、双極性障害などの精神疾患をもつ436人を対象に調査。

すると、1日3〜4杯のコーヒーを飲む人のテロメア(細胞老化の指標)が、コーヒーを飲まない群に比べて、“5年分若い”状態にあることがわかりました。

ただし、この効果は1日5杯を超えて飲むと消えるようです。

研究の詳細は2025年11月25日付で科学雑誌『BMJ Mental Health』に掲載されています。

目次

  • コーヒーで細胞が若返る?鍵は「テロメア」
  • 3〜4杯が若返りの上限、5杯以上は効果なし

コーヒーで細胞が若返る?鍵は「テロメア」

今回の研究の出発点は「精神疾患をもつ人は細胞レベルの老化が速い」という問題意識でした。

テロメアとは、染色体の端にある“キャップ”のような構造で、よく靴ひもの先端に付いたプラスチックに例えられます。

細胞が分裂するたびに短くなっていくため、テロメアの短縮は「生物学的な老化」を反映する指標として広く研究されています。

ところが、統合失調症や双極性障害、うつ病などを抱える人では、このテロメアの短縮が一般人口より速い可能性があることが、近年の研究で指摘されてきました。

では、その老化スピードを遅らせる方法はあるのでしょうか?

そこで研究チームが目を付けたのがコーヒーです。

コーヒーには抗酸化作用があり、体内の炎症や酸化ストレスを抑える働きがあるとされています。

酸化ストレスはテロメアを短くする要因の一つであるため、「適量のコーヒー摂取がテロメアを守るかもしれない」という仮説が生まれました。

そこで本研究に参加した436人について、

・コーヒーを毎日何杯飲むか(0杯、1〜2杯、3〜4杯、5杯以上)

・血液中の白血球から測定したテロメア長

の関係を調べたのです。

その結果、驚くべきパターンが見えてきました。

テロメア長は、コーヒー摂取量が1日3〜4杯のときに最も長くなるという明確な傾向が示されたのです。

3〜4杯が若返りの上限、5杯以上は効果なし

研究でもっとも注目されたのが、「1日3〜4杯」を飲むグループで、テロメアが最も長かったという発見です。

しかも、年齢・性別・喫煙・投薬・疾患の種類などを調整した後でも、非コーヒー飲用者と比べて“生物学的に5年若い” という結果が維持されました。

「重度の精神疾患をもつ人は老化が速い可能性がある」というこれまでの知見を考えると、この差は決して小さくありません。

しかし不思議なことに、コーヒーを5杯以上飲むグループでは、テロメアは再び短くなっていました。

つまり、コーヒーの若返り効果には「上限」があったのです。

この理由として研究者たちは、次のように考察しています。

・適量のコーヒーに含まれる抗酸化物質は、炎症や酸化ストレスを抑える

・しかし、過剰に飲むと活性酸素が発生し、細胞ダメージが増える可能性がある

世界保健機関が「最大1日4杯」とするのは、健康メリットとデメリットのバランスがちょうど分かれるラインである可能性があります。

今回の結果がまさにその「4杯の壁」を裏付けました。

この研究はあくまで観察研究であり、「コーヒーを飲むと必ずテロメアが伸びる」と因果関係を断定することはできません。

また、コーヒーの種類や淹れ方、飲む時間帯、実際のカフェイン量など、より詳細な要因は分析されていません。

しかし、重度の精神疾患をもつ人にとって、毎日のちょっとした習慣が細胞レベルの老化に影響する可能性を示した点は大きな意味を持つでしょう。

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参考文献

Daily coffee drinking may slow biological aging of people with major mental illness
https://medicalxpress.com/news/2025-11-daily-coffee-biological-aging-people.html

元論文

Coffee intake is associated with telomere length in severe mental disorders
https://mentalhealth.bmj.com/content/28/1/e301700

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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