記録にない「未知の人類の遺伝子」を発見、アルゼンチン

南米アルゼンチンで、失われた謎の人類の遺伝子が発見されました。

米ハーバード大学(HU)を中心とする研究チームは、1万年ほど前から現代に至る人骨238体を解析。

その結果、これまで人類学の記録に存在しなかった全く新しい系統の人類が見つかったのです。

その遺伝子は約8000年ものあいだアルゼンチンの地域に受け継がれていたようです。

研究の詳細は2025年11月5日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。

目次

  • 1万年分のDNAが語る「謎の人類」の存在
  • 謎の人類の多くは「独自路線」で生きていた

1万年分のDNAが語る「謎の人類」の存在

研究が行われたのは、南米南端「サザンコーン」と呼ばれる地域の中心部です。

アルゼンチンのパンパスや中央部は、ホモ・サピエンス(現生人類)が世界へ拡散する中で、最も遅く人が到達した地域の一つと考えられています。

しかし、この広大な土地では古代DNA研究がほとんど進んでいませんでした。

そこで研究チームは、アルゼンチン各地の遺跡から見つかった238体の古代人骨を精密に分析し、最大で1万年前までさかのぼる遺伝情報を復元。

その結果、研究者たちは驚くべき“空白”を見つけます。

約8500年前に生きていた個体のDNAが、既知のどの先住民系統にも当てはまらなかったのです。

これは、これまで古代南米の地図上に存在しなかった「未知の系統」の発見を意味します。

しかも、この系統はその後の何千年にもわたり、アルゼンチン中央部の主要な祖先成分として受け継がれ続けていました。

さらに、最も古い1万年前のサンプルが示したのは、この地域の集団が非常に早い段階から、周囲の他地域とは異なる特徴を持ち始めていたことです。

外部との交流はわずかで、遺伝的には孤立した状態が長く続いていました。

古代のアルゼンチンには「誰も記録していないのに、確かに存在した人々」がいたのです。

謎の人類の多くは「独自路線」で生きていた

この未知の人類系統は、中期完新世(約8200年〜約4200年前)の時代に、他の2つの系統と同時に存在していました。

しかしDNAを詳しく見ると、驚くほど地域間の混合が起こっていなかったことが分かります。

研究者が「群島のような」と表現するように、同じ祖先を持ちながら、島々のように離れた集団が独自の言語や文化を発展させていました。

一方で、すべてが変わらなかったわけではありません。

例えば、

・パンパス地域では約3300年前以降、外部系統の流入が増える

・北西アルゼンチンでは中央アンデス系統との混合が起こる

・チャコ地域では別の集団が加わる

など、地域ごとに異なる変化も確認されています。

しかし、それでも「中央アルゼンチン系統」と呼ぶべき祖先成分は失われませんでした。

その連続性は、約8000年という長い時間軸にわたって保たれていたのです。

チームは、大規模な古代DNA解析が進むことで、かつての南米に暮らした人々の人口規模や移動ルートを、ヨーロッパの歴史研究並みに精密に描けるようになると期待しています。

今回の研究は、その最初の大きな一歩となる成果です。

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参考文献

Genetic ‘Ghosts’ of a Long-Lost People Found in South America
https://www.sciencealert.com/genetic-ghosts-of-a-long-lost-people-found-in-south-america

元論文

Eight millennia of continuity of a previously unknown lineage in Argentina
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09731-3

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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