様々なカップルには、浮気ができてしまう機会が訪れるものです。
それに対して「ありえない」と断固たる態度をとる人もいれば、状況に流されてその方向へ心が傾いてしまう人もいます。
では、この違いはどこから生まれるのでしょうか。
トルコのコチ大学(Koç University)の研究チームは、若い成人の恋愛関係において「浮気に踏み出してしまう意図」がどのように形成されるのかを明らかにするため、心の距離感や家族背景、恋人との親密性など複数の要因を丁寧に調べました。
研究成果は2025年10月7日付の『The Family Journal: Counseling and Therapy for Couples and Families』に掲載されました。
目次
- 「過去に浮気したことがある」「親が不倫していた」人たちは”浮気に踏み出しやすい”と判明
- どうして「浮気するかもしれない」と考えるのか?浮気を防ぐための秘訣とは?
「過去に浮気したことがある」「親が不倫していた」人たちは”浮気に踏み出しやすい”と判明
浮気は、多くのカップルがカウンセリングや夫婦療法にやって来るきっかけになる問題の1つです。
心の傷や信頼の崩壊を引き起こし、当事者のメンタルヘルスや関係の満足度を大きく下げてしまうことが、先行研究でも指摘されています。
カップルや家族を対象とするセラピーの現場では、浮気を単なる「裏切りの事件」としてではなく、その関係が抱えている深い問題が表面化した「サイン」としてとらえる見方も広がっています。
そこで今回の研究では、トルコに住む18〜30歳の若者280名を対象に、浮気に踏み出す可能性を自分でどれほど現実的に感じているかという「Infidelity Intentions(浮気の意図)」を中心に分析が行われました。
行動そのものではなく、浮気を選択肢として意識しやすいかどうかという心理的な傾向に焦点を当てることで、より根本的な特徴を捉えようとした点が特徴です。
参加者は全員、独身で子どもがおらず、交際1年以上の恋愛関係にあり、オンライン上の詳細な調査に回答しました。
調査では、親に浮気経験があったかどうか、本人の愛着スタイルがどのような傾向をもつか、恋人との間にどれほど情緒的または性的な親密性を感じているか、そして過去に自分自身が浮気した経験があるかどうかが尋ねられました。
その結果、過去に自分が浮気した経験がある人は浮気に踏み出す意図が強いことが明らかになりました。
また、親が浮気していたことを知っている人も浮気の意図が高い傾向にあると判明。
さらに、恋人との距離を保ちたいと感じやすい「愛着回避」型の人は、浮気の意図が高まる傾向が見られました。
一方で、恋人との情緒的なつながりや性的な満足度が高い人は、浮気の意図が低くなることが明らかになっています。
では、どうしてこのような結果になるのでしょうか。
より具体的な分析を見てみましょう。
どうして「浮気するかもしれない」と考えるのか?浮気を防ぐための秘訣とは?
研究によると、まず最も強い関連を示したのは「過去に自分が浮気した経験」でした。
一度浮気という行動を経験すると心理的なハードルが低くなり、同じ行動を将来も取りやすいという方向に意識が傾くと考えられます。
「過去に浮気した人は信じられない」という人も少なくないですが、今回の分析でもそのような結果が出たのです。
一方で「過去に浮気された経験」は浮気の意図とは関連していませんでした。
次に重要な要因として明らかになったのが、親の浮気を知った経験です。
研究に参加した若者の多くが、どちらかの親に浮気経験があったと回答しており、13歳前後という思春期にその事実を知っていました。
この時期は恋愛観の基盤が形づくられる時期であるため、家庭内の裏切りを目の当たりにすることは、「浮気は起こり得るものだ」という現実感や、信頼関係が壊れ得るという認識を強めてしまう可能性があります。
研究者たちは、こうした家族経験が成人後の恋愛行動に影響を与えることを、既存の概念である“世代間伝達”の一例として位置づけ、その影響力の大きさを指摘しています。
さらに心理的な側面として、恋人との距離が近づきすぎることを負担に感じる「愛着回避」の強さも浮気意図と関連していました。
愛着回避が高い人は、相手と深くつながることに不安や抵抗を感じやすいため、浮気が「今の関係から少し逃げるための行動」として働く可能性があるのです。
一方で、相手に見捨てられないかどうかを強く心配する「愛着不安」は浮気意図と関連しておらず、この点は研究者も「意外な結果だった」と述べています。
そして、恋愛関係における親密性については、情緒的なつながりの深さも性的なつながりの満足度も、どちらも浮気の意図を下げる方向に働くことが確認されました。
恋人との関係が心地よく安定しているほど、外部に新たな関係を求める必要が薄れ、浮気という選択肢が現実味を失っていくと考えられます。
ただし、この研究にはいくつかの限界があります。
調査は自己申告で行われたため、回答者の正直さや自覚に影響される可能性があります。
また、恋人との親密性が低いから浮気の意図が高くなるのか、それとも浮気を考えているから親密性が低くなるのかという「どちらが先か」までは明確にできない点があります。
研究者たちは、今後は恋愛関係を長期間追跡する縦断研究を行うことで、親密性や愛着の変化がどのように浮気意図に影響するのかをより正確に捉える必要があると述べています。
また、近年ではAIとの親密な交流を浮気に含めるべきかという新たな問題も生じており、研究領域はさらに広がっていく可能性があります。
浮気に踏み出しやすいかどうかは、家族背景や心の距離感、そして恋人との関係の質が複雑に関係していることが、この研究から見えてきます。
自分や相手の過去と向き合い、今の関係でどれだけ安心感とつながりを育てられるかが、浮気から関係を守る一つの鍵なのかもしれません。
参考文献
New research highlights the role of family background and attachment in shaping infidelity intentions
https://www.psypost.org/new-research-highlights-the-role-of-family-background-and-attachment-in-shaping-infidelity-intentions/
元論文
Emerging Adults’ Infidelity Intentions in Romantic Relationships: The Role of Parental Infidelity, Adult Attachment Insecurity, and Intimacy
https://doi.org/10.1177/10664807251384185
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部

