「1日23時間ラップを聴くのはBotだけ」と不正ストリーミングで訴訟

音楽ストリーミングサービスでは、利用者はどんな曲でも自由に楽しめます。

では、楽曲を提供するアーティストには正しく報酬が与えられているのでしょうか。

この素朴な疑問を大きな問題として提示したのが、アメリカ人ラッパーのRBXがSpotifyを訴えた今回の訴訟です。

訴状では、人間では不可能な「1日23時間の連続再生」や、説明のつかない再生パターンが示され、それらがBotによる不正ストリーミングだと主張されています。

こうした不正が他のアーティストの収益に影響を与えている可能性があるとして、音楽業界全体が注目する事態となっています。

目次

  • 米ラッパーが「不正ストリーミング」をめぐり訴訟を起こす
  • ボットが「特定のアーティストの曲を再生し続けている」との訴え

米ラッパーが「不正ストリーミング」をめぐり訴訟を起こす

訴訟の中心となっているのは、ストリーミングサービス上で起きる「不正ストリーミング」の存在です。

不正ストリーミングとは、人間のリスナーではなくBotが自動で曲を再生し続け、再生数を人工的に積み上げる行為を指します。

Botは短時間で大量のアカウントを作成でき、特定の曲を終日再生するよう設定されることがあります。

さらにVPNを利用してアクセス元を偽装することで、世界各地から再生されているように見せかけることも可能です。

こうして作られた膨大な“偽の再生”は、見かけ上の人気を押し上げるだけでなく、アーティストへの収益分配にも影響を与える構造になっています。

Spotifyでは、アーティストへの報酬は各曲の再生回数そのものではなく、一定期間内の総再生数に占める割合によって計算されます。

例えば、その期間に2億回の総再生があり、そのうち20万回が特定の曲だった場合、その曲の取り分は全体の0.1%になります。

しかし、もし不正なBotによって別のアーティストの曲が1億回水増しされた場合、総再生数全体が跳ね上がり、自然に再生された20万回の割合は相対的に小さくなります。

つまり、不正ストリーミングは特定のアーティストの数字を増やすだけではなく、他のすべてのアーティストの取り分を間接的に押し下げる可能性がある仕組みになっています。

ラッパーのRBXは、こうした構造の中で不正ストリーミングが発生すると、多くのアーティストの取り分が減少し、業界全体に大きな影響を及ぼしうると訴状で述べています。

この問題は、ストリーミングが主要な収入源となっている現代の音楽ビジネスにおいて、無視できないテーマだと考えられています。

では、実際にどんな不正ストリーミングが見られているのでしょうか。

ボットが「特定のアーティストの曲を再生し続けている」との訴え

RBXが訴状で示した“不自然な再生パターン”は、今回の議論の中でも特に強い注目を集めています。

訴状によれば、1日23時間ほぼ休みなくDrake(ラッパー)の楽曲だけを再生し続けるアカウントが複数確認されたとされています。

また、一般的に楽曲の再生数はリリース直後にピークを迎え、時間とともに下がっていくのが自然ですが、Drakeの楽曲はリリースから年月が経過した後でも説明のつかない再生数の上昇が何度も見られたと述べられています。

さらに、位置情報に関しても異常だとするデータが示されており、2024年の4日間で「No Face」という曲に対しトルコから25万回の再生が発生していたにもかかわらず、それらがVPNによってイギリスからの再生に見えるよう偽装されていたとされています。

加えて、人口の存在しない地域から大量のストリーミングが発生していたように見えるケースや、ユーザーの約1割が1カ月の間に15000km以上移動していたように見える再生パターンも報告されています。

RBX側はこうした現象が大規模なBotネットワークの関与を示唆しており、Spotifyが広告収益を優先して不正に目をつぶっているとも主張しています。

Spotify側は、不正ストリーミングが確認された場合には、再生数の削除や権利者への支払い停止、さらにはペナルティを科すこともあるとし、不正対策を軽視しているとの指摘には当たらないと反論。

また過去には、他のストリーミングサービスが大きな被害(1000万ドル規模)を受けた詐欺事件において、Spotifyの被害額が数万ドル規模に留まった例もあり、自社の対策が一定の成果を上げていると説明しています。

今回の訴訟は、ストリーミング時代の音楽収益の仕組みが抱える問題を浮かび上がらせるものです。

偽の再生がもし存在するのだとすれば、その影響は特定のアーティストだけでなく、多くのクリエイターの収入に広く関わる可能性があります。

そして、この問題にどう向き合うべきかという議論は、今後の音楽ビジネスの方向性を考えるうえで避けて通れないテーマになりつつあります。

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参考文献

Real humans don’t stream Drake songs 23 hours a day, rapper suing Spotify says
https://arstechnica.com/tech-policy/2025/11/real-humans-dont-stream-drake-songs-23-hours-a-day-rapper-suing-spotify-says/

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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