スーパーヒーローが目の前に現れると「親切行動」が促されると判明

バットマンが現れた瞬間、人はどう変わったのか

研究チームは今回、地下鉄で妊娠中に見える実験者を乗せ、その周囲の乗客が席を譲るかを観察するというシンプルな方法を採用しました。

まずコントロール条件では、一般的な車内での席の譲り合いを計測しました。

その結果、席を譲ったのは37.66%で、3人に1人程度でした。

次に実験条件として、別の扉からバットマンの衣装を着た実験者が乗り込むという“予期せぬイベント”を追加しました。

すると、親切行動の割合は 67.21% に急上昇。

コントロール条件のほぼ倍近い行動変化が起きたことになります。

【実験の様子の画像がこちら

研究者は、バットマンを見た瞬間に乗客が「正義感に燃えた」といった単純な解釈は避けています。

なぜなら、席を譲った人の44%が「バットマンを見ていなかった」「存在に気づいていなかった」と答えていたからです。

つまり、たとえ意識していなくても、車内の“空気の変化”が人の行動に影響していた可能性が高いのです。

チームは、予期せぬ出来事が人の“無関心モード”を解除し、周囲への注意を一時的に高めると考えています。

普段なら見過ごされる妊婦の存在に気づきやすくなり、その結果として親切行動が増えると考えられるのです。

なぜ「予期せぬ出来事」は親切心を生むのか

この現象の背景には「注意の切り替え」があります。

日常生活の多くは、意識しないまま進む“ルーティン”の連続です。

しかし、予想外の存在(今回で言えばバットマンの登場)が車内に現れると、人の注意は一気に現在へと向け直されます。

これは通常のマインドフルネス訓練で起こる「今この瞬間への注意の集中」と類似した効果を持つと考えられています。

ただし重要なのは、今回の効果は特別な訓練なしで、環境の変化だけで生じた点です。

さらに研究者は、もう一つの可能性にも触れています。

バットマンというスーパーヒーローの象徴が「正義」「助け合い」「騎士道的な行動」といった文化的価値観を想起させ、無意識のうちに親切行動を後押しした可能性です。

しかし、このスーパーヒーロー効果は再現性に限界があることも指摘されています。

そのため、今回の現象を生み出す主因は、やはり「日常の中断」がもたらす注意の変化であると研究者は慎重に位置づけています。

興味深いのは、注意の変化が“社会的に伝播した”可能性です。

一部の乗客が刺激を受けると、その雰囲気が周囲に広がり、最終的にはバットマンに気づかなかった人の行動まで変えてしまったかもしれません。

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参考文献

The Batman effect: The mere sight of the ‘superhero’ can make us more altruistic
https://phys.org/news/2025-11-batman-effect-mere-sight-superhero.html

元論文

Unexpected events and prosocial behavior: the Batman effect
https://doi.org/10.1038/s44184-025-00171-5

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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