新卒3年以内に離職しやすい職業ランキング 最も辞めやすい業界はどこか?

年末が近づき、1年を振り返って考える人も増えているのではないでしょうか? そんな中で、新卒だった人の中には、

「せっかく就職したのに、1年もたたずに辞めてしまった。自分は根性が足りないのかもしれない」

そんなふうに自分を責めている人もいるかも知れません。

しかし、厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」によると、2022年度卒の新卒社員では、大卒の約3人に1人、高卒の約4割が就職後3年以内に会社を辞めています。

それだけでなく、業種によって「辞めやすさ」には大きな差があり、ある業種では半分以上が3年以内に辞めてしまうことも分かってきました。

仕事が続かないのは、あなた個人の弱さではなく、「辞めやすい職場構造」の影響も大きいのです。

ここでは、公式統計をもとにした「離職率の高い業種ランキング」と、その背景事情をひもといていきます。

最後には、短期間で転職を繰り返すことのメリット・デメリットも整理し、これからの職業選択にどういう視点が重要かということを考えていきます。

目次

  • 新卒3年以内に辞めやすい業種ランキング
  • 「若者はすぐ辞める」は本当か?
  • 仕事を辞めたくなったときに意識すべきこと

新卒3年以内に辞めやすい業種ランキング

厚生労働省の調査を日本商工会議所がまとめたデータによると、2020年3月卒の大学新卒者の「就職後3年以内離職率」は全体で32.3%でした。

そのうち、業種別に見ると、離職率が特に高かったのは次の5つです。

  • 宿泊・飲食サービス業:51.4%

  • 生活関連サービス業・娯楽業:48.0%

  • 教育・学習支援業:46.0%

  • 医療・福祉:38.8%

  • 小売業:38.5%

全体平均が3割強であるのに対して、上位3業種は「新卒の2人に1人近くが3年以内に辞めている」計算になります。

特に宿泊・飲食は突出しており、「すぐ辞める人が多い業界」の代表格と言ってよさそうです。

一方で、電気・ガス・水道といったインフラ系の業種や情報通信業、製造業などは、3年以内離職率が3割前後にとどまり、相対的には低い水準にあります。

つまり、同じ「新卒3年以内」でも、どの業界に入るかで「仕事が続きやすいか・続きにくいか」がかなり変わってくるのです。

また、2022年度卒の最新データでも、宿泊・飲食や生活関連サービス・娯楽といったサービス業は依然として高い離職率を示しており、「辞めやすい業界の顔ぶれ」はほとんど変わっていません。

なぜ「宿泊・飲食」はすぐ辞める人が多いのか

では、なぜ宿泊・飲食や娯楽、教育、医療・福祉、小売といった業種では、短期間で辞める人が多いのでしょうか。

まず指摘されているのが、長時間労働と不規則な勤務シフトです。

土日・祝日や夜間も営業している職場が多く、シフトも変則的になりがちです。

体力的な負担だけでなく、生活リズムが乱れやすいことも、若い人が「続かない」と感じる一因のようです。

次に大きいのが、賃金水準の低さです。

宿泊・飲食サービス業の平均年収は、主要産業の中でも最も低い水準にあり、製造業などと比べて年収ベースで数十万円以上の差が続いています。

飲食店では、接客、調理補助、レジ、衛生管理とマルチタスクが求められるにもかかわらず、「仕事内容の大変さの割に給料が見合わない」と感じやすい構造になっています。

さらに、これらの業界は離職率の高さから慢性的な人手不足に陥りやすいと言われます。

イメージの悪さや労働条件の厳しさから人が集まりにくく、その結果として一人あたりの仕事量が増え、ますます辞める人が増える、という悪循環が起きてしまうのです。

同様に、教育・学習支援業、医療・福祉、小売業も、「人と向き合う仕事」であるがゆえにメンタル面の負担が大きく、クレーム対応や感情労働がストレスになりやすいことが、各種調査で指摘されています。

こうした状況を踏まえると、「宿泊・飲食やサービス業に入ったけれど、1年もたずに辞めてしまった」人が、自分の性格や根性だけを責めるのは筋違いです。

そもそも、その業界自体が「続けることが難しい設計」になっているという視点を持つことが、まず大切だと言えるでしょう。

「若者はすぐ辞める」は本当か?

メディアのコラムでも、ネット上の議論でも「最近の若者はすぐ会社を辞める」といった話題をよく目にします。

しかし、厚生労働省の長期統計をまとめた分析を見ると、大卒の3年以内離職率は1980年代後半以降、概ね「3割前後」で推移してきたことが分かります。

就職氷河期には一時的に35%前後まで上がり、景気回復期には32%前後まで下がるといった波はありますが、「最近の若者だけが極端に辞めやすくなった」という証拠はありません

直近でも、2021年卒の大卒3年以内離職率は34.9%と高めですが、過去最高だった2004年卒36.6%には届いていません。

また、3年以内離職率の内訳を見ると、高卒では「1年目」に辞める人が最も多く、大学卒でも1年目と2年目で離職が集中していることが報告されています。

グラフにすると、最初の1〜2年で生存曲線(job survival curve)がぐっと下がり、その後は緩やかになる形です。

つまり「最初の1年〜2年」が最大の山場であり、そこを越えると離職のペースは落ち着いていく、というのが実態です。

このことは裏を返せば、「合わない職場にいると、最初の数年で一気に脱落が起こる」とも解釈できます。

早期離職は、個人の忍耐力だけでなく、仕事内容・給与・労働時間・人間関係といった職場要因とのミスマッチの表れであり、研究でも離職理由の多くがこうした不満に集中していることが示されています。

誰もが最初から思い通りの職業につけるわけではありません。そのため、新卒の早期離職は就職マッチングの調整で起きる、昔からある当たり前の現象であり、最近の若者が特に根性がない、などの捉え方をするべきではないでしょう。

仕事を辞めたくなったときに意識すべきこと

一般的に、「短いスパンで転職を繰り返す」のは、キャリアにとって悪いことであるというイメージがあります。

新卒者で、職場に馴染めないことを家族などに相談したとき、「入ったからには、3年は頑張って続けなさいよ」という言い方をされた人も、多いかも知れません。

しかしさまざまな研究・分析をみてみると、早期離職が必ずしも不利に働くとは言えません

人材や雇用の実態を調査しているリクルートワークス研究所の分析では、若いうち(おおむね40代より前)に、賃金や仕事内容、会社の将来性などに不満があって転職した場合、短期的には年収が上がるケースも多いことが示されています。

また、海外研究でも、若年期に複数回の転職を通じて自分に合う職場や職種を見つけていくプロセスは、ごく一般的なキャリアの歩み方だとされています。

一方で、早期離職の要因を調べた日本の調査では、「給与への不満」「長時間労働」「仕事上のストレス」「会社の将来性への不安」といったネガティブな理由が多数を占めており、「キャリアアップのため」という前向きな理由は2割弱にとどまっています。

情報不足のまま勢いで辞めてしまうと、その後の職場でも似た不満を繰り返し、結果としてスキルも賃金も伸びにくい「転職の堂々巡り」に入りかねません。

「つらい職場から逃げること」自体は、心身を守るために悪い決断ではありません。

職種・職場とのマッチングを再考するなら、早期に実施して悪いことは何もないはずです。

ただし、「何が合わなかったのか」「どんな環境なら続けられるのか」という点を整理して次の職場を選ぶ基準を明確にしておかないと、転職しても結局前と同じ理由で辞める状況が繰り返されやすくなり、単にキャリアを損なうだけの結果に終わってしまいます。

重要なのは、合わない職場で無理して頑張ることでも、合わないなら無理せずとっとと辞めることでもありません。

データを味方にして、「自分に合う仕事」を探す

ここまで見てきたように、宿泊・飲食やサービス業など、構造的に「辞めやすい」業種は存在します。

そこで働いて続かなかったとしても、それはあなた個人の怠慢ではなく、「離職率が高い職場にいた」という事実が大きいのです。

一方で、電力やインフラ系、製造業、情報通信など、相対的に離職率が低い業種もあります。

そこに入れば必ず幸せになれるわけではありませんが、「続けやすさ」という観点で有利に働く可能性はあります。

これから仕事を選ぶとき、あるいは今の仕事を辞めるか迷っているときには、興味ややりがいだけでなく、「業種別の離職率」や「労働時間・賃金水準」といった客観的データを、ひとつの判断材料として見ましょう。

もちろん離職率が高い業界では構造的な要因が大きく働きますが、逆に離職率が低い業界に勤めていた人であっても「続けられなかった」と感じることはあります。

これは決して珍しいことではありません。同じ業界内でも、企業ごとに 労働時間・職場の文化・配置された部署・上司との相性・ストレス要因 は大きく異なり、その違いが個人の働きやすさに強く影響します。

研究でも「離職率の高低は、個人の性格よりも職場環境との相性の影響が大きい」とされており、業界平均が低離職率であっても、職場によっては人間関係や業務負荷の面で継続が難しいケースは多く存在します。

つまり、離職しやすい業界にいたかどうかにかかわらず、仕事が続かなかった経験を「自分の根性が足りなかったから」と解釈する必要はありません。

重要なのは、「自分に合わなかった理由」を個人の欠点として捉えるのではなく、環境とのミスマッチとして理解することです。

そう考えることで、次にどんな環境を選べば自分が働きやすいかが見えやすくなり、転職をより前向きに位置づけられるようになるはずです。

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参考文献

リクルートワークス研究所 「なぜ大学卒の“3年以内離職率”は高まっているのか」
https://www.works-i.com/column/hataraku-ronten/detail035.html?utm_source=chatgpt.com
厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」

Click to access 001580844.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11805001/001580844.pdf

元論文

「新規学卒者の就職先特徴の変化と早期離職の職場要因」日本労働研究雑誌, No.668, 38–58.
http://id.ndl.go.jp/bib/027148899
「若年労働者の離職と定着,その現代的論点」日本労働研究雑誌, No.767, 19–32.

Click to access 019-032.pdf
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2024/06/pdf/019-032.pdf

Research on Difficulties and Support for Young People with Atypical Careers
https://www.jil.go.jp/english/reports/jilpt_research/2022/no.214.html

ライター

亀岡 誠司: フリーランスの経済ライター。中立な視点から経済の複雑な動きをわかりやすく伝えることを使命とし、読者が直感的に理解できる記事作りを心がけています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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