小説家の半数は「AIに取って代わられる」と感じている

生成AIは現在進行形で人間の創作活動に影響を及ぼしています。

それは、小説という分野でも同様です。

こうした変化を明らかにするため、英ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の研究チームMinderoo Centre for Technology and Democracyは、英国の小説家と編集者や文学エージェントなどの出版業界関係者あわせて332人を対象に、生成AIが小説と出版の世界にもたらす影響を詳しく調査しました。

調査の結果、小説家の半数以上が「AIは最終的に自分たちの仕事を完全に置き換える可能性がある」と感じており、すでに収入が減ったと答えた人も少なくないことが分かりました。

この研究の詳細は、2025年11月20日に報告されています。

目次

  • 小説家たちの半数は「将来、自分の仕事がAIに取って代わられる」と感じている
  • 作家のAI利用の実態と著作権問題

小説家たちの半数は「将来、自分の仕事がAIに取って代わられる」と感じている

研究の背景には、生成AIが文章を自在に作り出し、物語のような長いテキストでさえそれらしく組み立てられるようになったという現実があります。

これまで人間の想像力と経験に支えられてきた小説の世界に、AIが入り込んできたことで、「人間の小説家はこの先どうなるのか」という不安が広がっていました。

研究チームは、こうした不安や実際の影響を数字と声の両方から確かめるために、英国で活動する小説家258人と、編集者や文学エージェントなどの出版業界関係者74人を対象に調査を行いました。

調査ではオンラインによる匿名アンケートに加えて、少人数の座談会形式のフォーカスグループや個別インタビュー、ケンブリッジでのフォーラム開催など、複数の方法を組み合わせて情報を集めています。

その結果、生成AIはすでに小説家の「収入」に目に見える影響を与え始めていることが明らかになりました。

小説家の39%が「生成AIの登場によって、自分の収入がすでにマイナスの影響を受けている」と答えたのです。

ここでいう影響には、小説そのものの売り上げだけでなく、小説家が生活を支えるために行ってきたコピーライティングや翻訳などの仕事がAIに置き換えられ、依頼が減ってしまったと感じるケースも含まれます。

さらに深刻なのは、未来に対する見通しです。

小説家の85%が「今後、AIの影響によって自分の収入はさらに下がっていくだろう」と予測しており、職業としての小説家が成り立つのかという根本的な不安が表れています。

加えて、小説家の51%が「AIが最終的に自分たちの仕事を完全に置き換える可能性がある」と感じていると報告されています。

特にロマンス小説やスリラー小説、犯罪小説などのジャンルフィクションは脅威が大きいと見なされており、ロマンス小説では66%、スリラー小説では61%、犯罪小説では60%の回答者が「AIによる置き換えリスクが極めて高い」と感じていました。

このように、生成AIはまだ「実験的な新技術」にとどまらず、小説家たちの現在の収入と将来の生活設計に直接関わる存在になりつつあることが分かります。

では、視点を変えて、小説家自身は、どの程度AIを使用しているのでしょうか。

作家のAI利用の実態と著作権問題

この研究は、小説家がAIをどのように利用しているのかという実態についても詳しく明らかにしています。

小説家のうち33%は、執筆プロセスのどこかで生成AIを使っていると答えています。

しかし、その多くは資料となる情報を調べるときや、簡単な要約や言い回しの確認などに限られており、物語の中身そのものをAIに任せる使い方はほとんど行われていません。

AIに「小説全体を書かせる」ことについては抵抗感が非常に強く、97%の小説家が「AIが小説を丸ごと書くことにはとても否定的だ」と回答しています。

短い一節だけであっても、AIに書かせることに強い否定的感情を持つ小説家が多いことも報告されています。

一方で、小説家たちの大きな怒りと不信感を呼んでいるのが、著作権と学習データをめぐる問題です。

小説家の59%は、自分の著作が許可も報酬もないままAIモデルの学習に使われていると認識していました。

多くの作家は「自分の文章が大量に取り込まれ、その結果として作られたAIツールに市場を奪われている」という構図に強い不公平感を抱いているのです。

文化的な影響についても、この研究は重要なポイントを示しています。

作家や編集者、エージェントたちは、AIが大量の過去の小説を学習することで、生成される物語がだんだん似通っていき、型にはまったストーリーばかりになるのではないかと心配しています。

多くの回答者は、小説の本来の役割を「人間の複雑さや矛盾をじっくり掘り下げること」にあると考えており、画一的なパターン生成が増えることは、その役割を弱めてしまうと感じていました。

さらに、AIの利用が読者にきちんと開示されない場合には、「この物語は本当に人間が書いたのか」「どこまでがAIなのか」という疑念が生まれ、作家と読者のあいだの信頼関係が傷つくおそれも指摘されました。

研究チームも、小説は社会や個人にとって想像以上に大きな価値を持っており、映画やドラマ、ゲームといった他の物語メディアの土台にもなっていると強調しています。

生成AIが急速に広がる今だからこそ、人間が書く物語の価値と、その背後にいる書き手の生活をどのように支えていくのかを、社会全体で考える必要があるのです。

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参考文献

Half of novelists believe AI is likely to replace their work entirely, research finds
https://techxplore.com/news/2025-11-novelists-ai.html

Impact of Generative AI on the Novel
https://www.mctd.ac.uk/impact-of-generative-ai-on-the-novel/

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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