骨を噛み砕く「地獄ブタ」が3000万年前の北米に実在した

古生物

もし3000万年前の北米にタイムスリップすると、恐ろしく凶暴なブタに遭遇するかもしれません。

それは研究者らが「地獄ブタ(hell pig)」と称する古生物「アルケオテリウム(Archaeotherium)」です。

米ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)らは最近、歯の微細な摩耗痕を分析し、地獄ブタが骨さえもバリバリと噛み砕いていたことが判明しました。

研究の詳細は古生物学の年次総会『Society of Vertebrate Paleontology 2025 annual meeting』にて報告されています。

目次

  • 噛む力はライオン並み、脳の大きさはトカゲ並み?
  • なぜ「地獄ブタ」と呼ばれるのか

噛む力はライオン並み、脳の大きさはトカゲ並み?

アルケオテリウムは、新生代古第三紀(約3700万年前〜2300万年前)の北アメリカに広く分布していたエンテロドン科に属する大型草食動物です。

最大体重は1000キログラム(1トン)を超え、4本足で立ち上がると人間と同じかそれ以上の背丈に達しました。

特徴的なのは、全長の約3割を占めるほど巨大な頭骨と、側頭部や下顎の骨に発達した瘤(こぶ)や突起です。

この頭部構造は、強力な咬筋を支え、硬いものをかみ砕くのに適していたと考えられます。

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全身骨格/ Credit: ja.wikipedia

さらに歯の形状と摩耗痕の分析により、アルケオテリウムは植物だけでなく、動物の肉や骨も食べる「雑食性のスーパープレデター」だったことがわかってきました。

特に大型個体は、骨を噛み砕くことができるほど強力な顎を持ち、他の捕食者が食べ残した死骸の骨までしっかり食べつくしていたと推定されます。

一方、小型のアルケオテリウムは、やわらかい肉や植物などをメインに食べていた可能性があり、同じ属の中でも生態的な役割分担があったようです。

この点は、現代のイノシシやペッカリー(南北アメリカに生息するブタに似た動物)に似ていますが、咬合力の強さはむしろハイエナやライオンに近いものです。

頭骨は巨大ですが、脳の大きさは爬虫類と同程度で知能は高くなかったと推定されています。

その代わり、嗅覚をつかさどる部分は発達しており、腐肉を探し出す能力には長けていた可能性があります。

なぜ「地獄ブタ」と呼ばれるのか

「地獄ブタ」という俗称がついた理由は、その恐ろしい風貌と生態にあります。

分厚い頭骨、突き出た頬骨や下顎の突起、そして何より骨まで砕く力強い歯。

さらに、肩の筋肉を支えるために発達した隆起は、遠目に見るとアメリカバイソンのようにも見えたと言われています。

近年の歯の微小摩耗分析(顕微鏡で歯表面を3Dスキャンし、摂食時にできる細かなキズを解析する手法)では、特に大型個体の歯がライオンやハイエナと区別がつかないほど硬いものを噛み砕いていたことが証明されています。

これは単に植物や肉だけでなく、死骸の骨をも食料として利用していた証拠であり、当時の生態系の「掃除屋」としても重要な役割を果たしていたことを示唆しています。

一方で、小型個体の歯はよりやわらかい素材(肉や草など)を主に切り裂いていたことが判明しており、同じ「地獄ブタ」でも体格や歯の構造によって食性が異なっていた可能性が高いです。

この多様な食性の進化的背景には、当時の北米大陸で激しい捕食競争や環境変動があったことが影響していると考えられます。

骨を噛み砕く能力を持つことで、他の肉食動物が手を付けない「最後のごちそう」をも独占できたのです。

現在、研究チームはさらにカルシウム同位体の分析など、より直接的に「骨食」の証拠を探るプロジェクトも進行中です。

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参考文献

Giant North American ‘hell pigs’ could crunch bones like lions 30 million years ago, tooth analysis reveals
https://www.livescience.com/animals/extinct-species/giant-north-american-hell-pigs-could-crunch-bones-like-lions-30-million-years-ago-tooth-analysis-reveals

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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