「ハチに“モールス信号”を読ませる」
そんな奇抜な発想が、実際の科学実験で証明されました。
英ロンドン大学クイーン・メアリー(QMUL)は、マルハナバチを対象にした実験で、光の「長い点滅」と「短い点滅」、つまりモールス信号の「ダッシュ」と「ドット」に似た信号を区別し、報酬にたどり着ける能力があることを世界で初めて明らかにしました。
これまで“ドット”と“ダッシュ”の区別ができるのは、人間や一部の脊椎動物だけと考えられていました。
マルハナバチの小さな脳には、驚きの能力が秘められているようです。
研究の詳細は2025年11月12日付で科学雑誌『Biology Letters』に掲載されています。
目次
- 光の長さを識別、マルハナバチで実証された「時間の認知」
- マルハナバチの謎めいた脳の力
光の長さを識別、マルハナバチで実証された「時間の認知」
マルハナバチは、世界中で見かける身近な昆虫ですが、近年その認知能力の高さが次々と報告されています。
たとえば、仲間と協力してパズルを解いたり、単純な計算ができる種類も存在します。
研究チームは今回、「時間の長さ」という抽象的な概念をハチがどこまで認識できるのかに注目しました。
実験は非常にユニークなものでした。
研究者たちは、マルハナバチ専用の“小さな迷路”を用意し、その一室ごとに二つの円形パネルを設置しました。
一方のパネルは長く点滅(ダッシュ)、もう一方は短く点滅(ドット)します。
どちらか一方にだけ、ハチが大好きな砂糖水が用意され、もう一方には苦味成分のキニーネが仕掛けられました。
さらにチームは、ハチが位置情報に頼れないよう、迷路の各部屋で「ダッシュ」と「ドット」の位置を毎回入れ替えました。
これにより、ハチは「点滅パターンの長さ」そのものだけを手がかりに判断する必要が生じます。
訓練段階では、まずハチたちが20回中15回以上の正解を出せるまで何度も挑戦させました。
やがて多くのハチが、砂糖水と結びついた点滅の長さを見分け、まっすぐ“正解”パネルへ向かうようになったのです。
本当に「点滅の長さ」を学習したのかを確かめるため、ご褒美を完全に除去した状態で最終テストが行われました。
その結果、砂糖水がなくても多くのハチが正しくパターンを選び、偶然以上の頻度で「長い点滅」と「短い点滅」を区別できていたことが示されました。
マルハナバチの謎めいた脳の力
しかし現段階では、なぜ彼らにこうした能力があるのか、どのように実現しているのかは謎のままです。
「自然界でハチが点滅する光に出会うことはほとんどないにもかかわらず、この課題をこなせたのは驚くべきことです。
視覚的な刺激の長さを追跡できるという事実は、本来は空間内の動きやコミュニケーションなど、別の目的で進化した“時間処理能力”が応用されている可能性も示唆します」と研究者は述べます。
「あるいは、こうした“時間の長さ”を符号化し処理する能力自体が、神経系のごく基本的な仕組みとして、神経細胞そのものの性質に根ざしている可能性もあります。
この点については今後の研究で明らかになるでしょう」
こうした研究は、マルハナバチが持つケシの種ほどの大きさの脳にも、高度な認知プロセスが存在し、人間にしかないと考えられてきた能力が、動物界全体で思っている以上に一般的であることを示唆しています。
参考文献
Scientists Have Trained Bumblebees to Understand a Form of Morse Code
https://www.sciencealert.com/scientists-have-trained-bumblebees-to-understand-a-form-of-morse-code
Bees learn to read simple ‘Morse code’
https://www.eurekalert.org/news-releases/1105054
元論文
Duration discrimination in the bumblebee Bombus terrestris
https://doi.org/10.1098/rsbl.2025.0440
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

