「難しい目標に挑むと、途中で挫折してしまう」「頭では分かっているのに、なかなか行動できない」
こんな経験は誰しもあるのではないでしょうか。
しかし一方で、困難な課題を前にしても、着実に前進し、最終的に目標を成し遂げてしまう人がいます。
その違いはどこにあるのでしょうか。
独トリーア大学(University of Trier)の研究チームは最近、この点を調査。
その結果、「行動志向型」という性格特性が困難な目標達成に大きく関わっていることを実証的に示しました。
研究の詳細は2025年1月18日付で学術誌『Motivation and Emotion』に掲載されています。
目次
- 「やる気」だけじゃない、困難な目標を達成できる人の“決定的な違い”
- 「難しい目標」こそ、性格の違いが明暗を分ける
「やる気」だけじゃない、困難な目標を達成できる人の“決定的な違い”
これまでにも「なぜ目標達成できる人とそうでない人がいるのか」は、多くの心理学者が関心を寄せてきた疑問です。
やる気や時間管理、努力といった要因が注目されがちですが、今回の研究では「行動志向」という性格的な傾向がクローズアップされました。
研究チームは、主に大学生199人(女性が85%、平均年齢22歳)を対象に、4週間で達成したい個人的な目標を6つずつ設定してもらい、その難易度も自己評価してもらいました。
4週間後には、各目標についてどの程度達成できたかを報告してもらい、さらに心理尺度を使って「行動志向型」か「状態志向型」かも評価しています。
この「行動志向型」とは、気持ちの切り替えや感情のコントロール(自らの感情調整)が得意で、決断力を持って行動に移せる人を指します。
一方、「状態志向型」は、感情に引きずられたり、プレッシャーに弱かったりして、行動に踏み出すのに時間がかかるタイプです。
「難しい目標」こそ、性格の違いが明暗を分ける
分析の結果、全体として目標が難しいほど達成率が下がる傾向が見られました。
これは「高い目標を持てば成績も上がる」という従来の理論と逆行するようですが、「自己設定目標」かつ「実生活の長期観察」というリアルな条件だからこそ浮かび上がった現象です。
さらに注目すべきは、「行動志向型」の人ほど難しい目標の達成率が高いという事実でした。
簡単な目標なら性格の違いによる効果の差はほとんど現れませんが、困難な目標に挑んだときこそ、“行動志向”の強さがはっきりと成果につながったのです。
逆に状態志向型の人は、困難な状況で感情や不安に足を取られ、なかなか一歩を踏み出せず、目標未達成に終わるケースが多くありました。
チームは最後に、エベレスト登頂を例に挙げてこう述べています。
「エベレスト山に登るのは誰か?まず、その人にとってエベレスト登山が簡単か難しいかが重要です。
もし簡単だと感じているなら、両者(「行動志向型」と「状態志向型」)に大きな違いはありません。
しかし目標が難しいと感じている場合、行動志向型の人のほうが達成しやすくなります。
これは、彼らが持つ高い自己調整能力のおかげです。
困難な目標――それがエベレスト登山であれ、兄弟姉妹と大喧嘩した後に電話をかけることであれ――に挑む際、この能力が決定的に重要となるのです」
参考文献
Researchers identify a psychological trait linked to conquering difficult goals
https://www.psypost.org/researchers-identify-a-psychological-trait-linked-to-conquering-difficult-goals/
元論文
Who climbs Mount Everest? Individual differences in achieving difficult goals
https://doi.org/10.1007/s11031-024-10106-w
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

