古代ローマの道路網、従来推定の「ほぼ2倍」も長かった

かつて「すべての道はローマに通ず」と言われた巨大帝国。

その交通網は人類史に残る伝説ですが、実は私たちが知っていたローマ街道の姿は、ほんの“氷山の一角”に過ぎませんでした。

このたび、デンマーク・オーフス大学(Aarhus University)ら国際研究チームが発表した最新のデジタル地図「Itiner-e(イティネレ)」によって、古代ローマ帝国の道路網は従来考えられていた約2倍、総延長30万キロ以上にも及ぶことが明らかになったのです。

チームは膨大な歴史・考古学データ、古地図、衛星画像を総動員し、ヨーロッパから中東、北アフリカまで、ローマ帝国全域の道路網を一つのデータセットにまとめ上げています。

研究の詳細は2025年11月6日付で科学雑誌『Scientific Data』に掲載されました。

目次

  • 大都市だけじゃない、田舎道までつなぐ帝国ネットワーク
  • 「30万キロ」はまだ序章にすぎない?

大都市だけじゃない、田舎道までつなぐ帝国ネットワーク

これまでのローマ街道研究は、主要都市をつなぐ「幹線道路」、いうならばローマ帝国の“高速道路”にばかり焦点が当てられていました。

例えば「アッピア街道」や「フラミニア街道」など、今なお現代道路の基盤になっている主要ルートは、数多く記録や地図に残されてきました。

ところが今回の「Itiner-e」プロジェクトは、主要道路網だけでなく、無名の“田舎道”や地方路線も網羅

従来の地図では記載されていなかった膨大な支線や分岐路の存在が、最新のリモートセンシングや発掘調査で続々と明らかになっています。

調査の結果、確認されたローマ街道の総延長は約30万キロに達し、これは地球の円周(約4万キロ)の7倍以上にもなります。

従来の推定(約19万キロ)から一気に10万キロ以上増加し、その広がりは想像をはるかに超えるものでした。

【調査されたローマ帝国の道路網の画像化がこちら

このネットワークは単なる「道」以上の意味を持っています。

ローマの道路網は、都市や村落、軍事基地、農地、港湾をくまなく結びつけ、物資や人、情報、さらには疫病や新しい思想までもが、驚くほどのスピードで帝国内を移動できる仕組みだったのです。

たとえば、西暦165年に発生した「アントニヌスの疫病」が瞬く間に帝国全域に広がり、4分の1の人口が失われたのも、この強固な道路網の存在が大きく影響したと考えられています。

「30万キロ」はまだ序章にすぎない?

今回公開された「Itiner-e」は、200年以上にわたるローマ街道研究の集大成でありながら、全体のうち約3%に過ぎない可能性も指摘されています。

現存する道路の多くは都市化や農地開発の中で消滅・埋没し、いまだ見つかっていない「ロスト・ロード(失われた道)」が無数に眠っているのです。

チームは、歴史文献、考古遺跡の発掘記録、19世紀の地図、さらには現代の衛星写真など、多様な情報源を総合的に照合しました。

都市化前の地形図や、ダム建設前の航空写真から湖底に沈んだ道路跡を発見するなど、新技術も積極的に導入しています。

こうして出来上がった「Itiner-e」には、1万4000以上の道路区間ごとに出典や信頼度が記録されており、専門家はもちろん一般市民も自由に利用できるオープンデータとして公開されています。

チームは「Itiner-eはローマ世界を理解するための強力なツール」と評価しつつも、「いまだ多くの空白地帯や未発見の街道がある」と指摘しています。

今後の発掘や研究によって、更なる発見が続くことが期待されています。

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参考文献

Massive New Map Reveals 300,000 Km of Ancient Roman Roads
https://www.sciencealert.com/massive-new-map-reveals-300000-km-of-ancient-roman-roads

Roman road network was twice as large as previously thought, new mapping project finds
https://www.livescience.com/archaeology/romans/roman-road-network-was-twice-as-large-as-previously-thought-new-mapping-project-finds

元論文

Itiner-e: A high-resolution dataset of roads of the Roman Empire
https://doi.org/10.1038/s41597-025-06140-z

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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