語りづらい「運動誘発性オーガズム」の実態
インディアナ大学の研究チームは、運動中に“性的刺激なしでオーガズムに似た快感”を体験した女性たち21人の証言を集めました。
これまでタブー視されてきた「運動による快感」を、偏見ではなく科学の視点で理解することが目的です。
参加者の年齢は10代から60代まで幅広く、初めて体験した時期も多様でした。
多くの参加者が「小児期〜初期思春期に経験した」と語っており、鉄棒で体を持ち上げていたとき、ロープ登りをしていたとき、体育の時間に腹筋をしていたときなど、性的な意識がまったくない状況で突然、体の奥から“波のような感覚”がこみ上げたといいます。
多くの人が「理由がわからなくて怖かった」「誰にも話せなかった」と振り返っており、長年ひとりで戸惑いを抱えていたことが明らかになりました。
その一方で、体験を重ねるうちに「自分の体の自然な反応」と理解するようになった人もいます。
一部の人は、パートナーとの関係の中で「この体の反応を意識的に活かすようになった」とも語っています。
つまり、運動誘発性オーガズムは単なる偶発的な出来事ではなく、筋肉や呼吸の使い方に密接に関わる身体反応として、一定の再現性をもつ可能性があると受け止められているのです。
報告によると、現象が起きやすいのは腹筋運動、懸垂、ヨガ、ピラティス(ストレッチの一種)、スイミングなどの体幹を強く使う動作でした。
呼吸や腹圧の変化を伴う局面や、動作を繰り返すときに現れやすく、下腹部の内部がぎゅっと締め付けられるような感覚を伴うと語られています。
中には、タイトなウェアの圧迫や、特定の姿勢(脚を組む、腹を圧迫する姿勢など)が引き金になったと語る人もいました。
こうして明らかになったのは、「運動誘発性オーガズム」はごくまれな異常反応ではなく、誰にでも起こりうる身体の自然な反応のひとつだということです。
そのため研究チームは、この現象を「性的なもの」として恥ずかしがるのではなく、体の自然な反応として前向きに理解することが大切だと述べています。
なぜそんな現象がおきるのか? 一体快感はどこから来るのか?
今回の研究は仕組みを直接検証したものではありませんが、これまでの知見や参加者の証言から、いくつかの有力な仮説が考えられます。
まず、体幹の強い収縮によって骨盤底筋(こつばんていきん)が反射的に働き、骨盤内の感覚神経が刺激される可能性があります。この神経刺激が繰り返されるうちに、脳が「快感」として知覚する閾値に達することがあると考えられます。
また、腹筋運動やヨガ、ピラティスなどで息を止めたり、強く吐いたりすることで腹圧が上がり、骨盤内臓に軽い圧迫がかかります。この圧迫による内部刺激が、感覚を強める要因になっている可能性も指摘されています。
さらに、運動中には交感神経が活発になり、心拍数や血流、呼吸が上昇します。これらの変化はオーガズム時の身体反応と非常に似ており、脳が「運動による高揚感」と「性的快感」を部分的に重ねて処理している可能性があります。
そしてもう一つの要因は、心理的な集中状態です。運動に没頭しているとき、人は外界への意識よりも自分の身体感覚に注意を向けやすくなります。この「内側への集中」が、感覚をより強く、鮮明に感じさせている可能性があります。
こうした要素が同時に重なったとき、脳が複数の身体反応を“ひとつの快感体験”として統合し、運動中にオーガズムに似た感覚を生じさせるのではないかと考えられています。
今回の研究は、性的刺激がなくても身体の動きや呼吸、姿勢の変化によって快感に似た反応が起きうることを、丁寧な聞き取りを通して明らかにしました。
ただ、そのメカニズムは未だ不明であり、曖昧な説明に終始しています。
女性がこの現象を報告することが多いため、この研究では女性のみから聞き取りを行っていますが、実際には男性からもこの現象についての報告があります。
研究者も述べている通り、おそらくこの現象はあまり語られないだけで、経験している人たちは意外と多い可能性があると考えられています。
もしかすると、この記事を読んだ人の中にも、思い当たる人がいるかもしれません。報告でも特に幼少期に体験したという人が多く、性的なオーガズム体験するより前に運動誘発性オーガズムを体験したことで、その感覚がなんであったのか、あとになって理解したという人もいるようです。
ネットではたまに登り棒でオーガズムを経験したという話を聞くことがあり、多くの人はこれは性器が棒にこすれたからだと解釈している場合がありますが、この研究では、参加者からロープ登りで体験したという報告があり、登り棒の話の中にも動誘発性オーガズムが含まれる可能性は高いかもしれません。
未だ人体には謎に包まれた問題が多くあり、特にこうした恥ずかしくてあまり語られづらい問題や、真面目に研究する人が少ないテーマの中にそうした問題が隠されていることもあります。
さまざまな報告や、発生の状況がわかってくれば、こうした現象もより明確な生理メカニズムが語られるようになるかもしれません。