「カエルは卵からオタマジャクシになり、そして4つ足の大人になる」
カエルの一生については、多くの人がこのように思っているでしょう。
しかし地球上には、このプロセスから逸脱するカエルがいるのです。
このほど、アフリカ・タンザニアで、オタマジャクシの時期を飛ばして「いきなり小さなカエル」として誕生する新種が発見されました。
研究の詳細はデンマーク・コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)らにより、2025年11月6日付で科学雑誌『 Vertebrate Zoology』に掲載されています。
目次
- オタマジャクシの時期がない新種カエル
- なぜオタマジャクシをすっ飛ばすのか?
オタマジャクシの時期がない新種カエル
今回、科学者たちが注目したのは、タンザニアとケニアにまたがる「イースタン・アーク山脈」と呼ばれる山岳地帯です。
この山々は、数百万年にわたり孤立した環境が続いたことで、動植物の宝庫となっています。
まるで「空に浮かぶ島々」のように、それぞれの山頂で独自の進化が起きてきました。
発見された新種たちは「Nectophrynoides(ネクトフリノイデス)」属のカエル。
最大の特徴は、ほかのカエルのように卵を水中に産み、オタマジャクシになるというステップを経ず、メスの体内で幼いカエルの姿まで育ち、そのまま“赤ちゃんカエル”として産まれてくることです。
【発見された新種の画像がこちら】
この属のカエルたちは元々、1905年に記載された1種だけと考えられてきました。
しかし近年、世界中の博物館に眠る標本をDNAレベルで調べ直す研究が進み、見た目がそっくりでも実は異なる“隠れ新種”が次々と明らかになってきたのです。
最新の研究では、100年以上前の標本を含む250体超からDNAを解析し、形態や鳴き声の違いも比べることで「Nectophrynoides saliensis」「Nectophrynoides uhehe」「Nectophrynoides luhomeroensis」という3種の新種が正式に認定されました。
なぜオタマジャクシをすっ飛ばすのか?
「なぜ、オタマジャクシの時期を持たないのでしょうか?」
この進化は、山岳森林という特殊な環境がカギを握っています。
イースタン・アーク山脈の高地では、安定した水場が少なく、卵やオタマジャクシの天敵も多いため、卵を水中に産む従来型の繁殖は不利です。
そこで、体内である程度まで発生させ、すぐに陸上で動けるカエルの形で産む戦略が選ばれたと考えられます。
実は、世界中のカエル・ヒキガエルの中で、こうした「胎生型(赤ちゃんを産むタイプ)」は全体の1%にも満たないごく少数派。
南米や東南アジアにも同様のカエルがわずかに知られていますが、アフリカのこの山脈では、進化の実験室のように独特な種が生まれています。
しかし、彼らの暮らす森林は今、急速に失われつつあります。
農地開発や気候変動で森が消えると、狭い範囲にしかいないカエルたちは絶滅の危機にさらされます。
すでに野生絶滅となった種や、長年目撃されていない種もあるほどです。
新種の発見と命名は、こうしたカエルたちの存在を世界に知らしめ、保護活動につなげる大切な一歩です。
同時に、急減する森にはまだ未発見の新種が眠っている可能性も高く、「知る前に消えてしまう」恐れすらあります。
参考文献
New species of toads that give birth to live young discovered in Tanzania
https://www.nhm.ac.uk/discover/news/2025/november/new-species-of-toads-that-birth-live-young.html
元論文
Museomics and integrative taxonomy reveal three new species of glandular viviparous tree toads (Nectophrynoides) in Tanzania’s Eastern Arc Mountains (Anura: Bufonidae)
https://vertebrate-zoology.arphahub.com/article/167008/
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

