クリスマス島固有のトガリネズミが外来種によって絶滅【正式認定】

オーストラリアのクリスマス島には、とても小さくて珍しいネズミが存在していました。

その名もCrocidura trichura(本記事では『クリスマス島のトガリネズミ』と呼称)。

非常に小さな哺乳類で、尖った鼻と短い脚が特徴の、島の固有種です。

そんな“幻の小動物”が、ついに2025年、国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅種と正式に認定されました。

この絶滅は、自然消滅ではなく、人間による「外来種の持ち込み」と、その結果広がった感染症や新たな捕食者が引き金となったものでした。

目次

  • 「オーストラリアのクリスマス島」固有のトガリネズミとは? 繁栄から「幻の存在」へ
  • クリスマス島のトガリネズミはどうして絶滅したのか?

「オーストラリアのクリスマス島」固有のトガリネズミとは? 繁栄から「幻の存在」へ

クリスマス島は、インド洋に浮かぶオーストラリア領の小さな孤島です。

19世紀末までほとんど人の手が入っておらず、独自の生態系が発展してきました。

クリスマス島のトガリネズミは、そんな島の熱帯雨林の中で、落ち葉の下や木の根元、岩のすき間を住処とし、小さな昆虫を主な餌にして生きていました。

夜になると細い声で鳴き、1890年代のある報告でも「島中でよく見かける普通の動物」と記録されています。

クリスマス島のトガリネズミは、Crocidura属の他の種と同様に、特徴的な尖った鼻先をもちます。

体重は4.5~6gほどであり、非常に小さく可愛らしい存在です。

他のトガリネズミとは異なり、「細長い毛」「長い尾」といった特徴を持っています。

このトガリネズミは、はるか昔に東南アジアのどこかから流木などに乗って島にたどり着いたと考えられています。

天敵がほとんどいなかったクリスマス島で一族を増やし、まさに“島の主”として繁栄してきたのです。

ところが近年では、クリスマス島のトガリネズミは滅多に見かけない「幻の生物」となっていました。

そして2025年、IUCNが「クリスマス島のトガリネズミ」を絶滅種に分類しました。

正式に絶滅が認定されたのです。

いったい、この島の小さな主に何が起こったのでしょうか。

クリスマス島のトガリネズミはどうして絶滅したのか?

クリスマス島のトガリネズミの絶滅は、外来種の持ち込みと、それに付随する新たな感染症・捕食圧が直接の引き金でした。

その最大の転機は、1900年ごろ、ヨーロッパ人の移住に伴って「クマネズミ(Rattus rattus)」が島に持ち込まれたことでした。

クマネズミ自体も餌や巣を奪う存在でしたが、さらに深刻だったのは黒ネズミが運んできた寄生虫や感染症です。

島の動物たちにとって未知の病原体は猛威をふるい、クリスマス島のトガリネズミや他の固有ネズミを急速に追いつめていきました。

1908年までに「すでに絶滅した可能性」が報告されていましたが、その後も奇跡的に生き残った個体が森の奥でひっそり息をつないでいました。

1950年代と1980年代の2回にわたって、それぞれ2匹ずつの個体が記録され、再発見に希望が持たれました。

しかし、これが最後の目撃例となります。

その後も島には、さらにさまざまな外来生物が入ってきます。

20世紀後半には、猫やヘビ、アシナガキアリ(Anoplolepis gracilipes)なども持ち込まれ、少数生き残っていたトガリネズミは捕食や環境変化にさらされ、さらに生存が難しくなりました。

絶滅危惧種に指定されて以降も、調査は続けられました。

カメラトラップ調査や、野良猫500匹以上の胃内容物調査、現地での集中的な探索も行われましたが、トガリネズミの痕跡は一切発見されませんでした。

2023年の論文では、クリスマス島のトガリネズミが絶滅している確率は96.3%と算出されており、以前としてその姿は確認できていませんでした。

そして2025年、ICUNにより、正式に「絶滅」と認定されました。

この悲劇は、「人間活動がもたらす外来種や感染症が、島嶼生物に壊滅的な打撃を与える」ことを如実に示しています。

島の生物はもともと個体数が少なく、外来種や環境変化への耐性が極めて弱い存在です。

一度バランスが崩れると、いくら広い保護区ができても、元に戻せない場合が少なくありません。

クリスマス島のトガリネズミがたどった道は、外来種による絶滅が世界中で起こり続けている現実への、私たちへの大きな警鐘といえるでしょう。

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参考文献

Australia’s Only Shrew is Now officially Extinct, Killed by Non-native Species Introduced by Humans
https://www.zmescience.com/science/news-science/christmas-island-shrew-extinct/

Christmas Island Shrew
https://www.iucnredlist.org/species/136379/254622730

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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