英ダービー大学(University of Derby)はこのほど、世界61カ国・約5万7000人を対象とした最新研究で、国ごとの「自然とのつながり(Nature Connectedness)」の強さを調査。
これは日常生活、あるいは自らのアイデンティティにおいて、個々人が自然とのつながりをどの程度感じているかを調べる指標です。
では、最上位と最下位はどこの国だったのでしょうか?
また、日本はどの位置にランクインして居たのでしょう?
研究の詳細は2025年11月1日付で学術誌『journal Ambio』に掲載されています。
目次
- 「自然とのつながり」ランキングを発表!
- なぜ日本は「自然と遠い国」になったのか?
「自然とのつながり」ランキングを発表!
「自然とのつながり」とは、個人がどれだけ自然を自分の一部のように感じているかを心理学的尺度で測定したものです。
この感覚が強いほど、日々の幸福感が高まり、環境を守ろうとする意識や行動が増えることが過去の研究からわかっています。
では、その「自然とのつながり」が最も強い国はどこなのでしょうか?
今回の調査結果によると、61カ国中のトップに来たのはネパールでした。
さらにイラン、南アフリカ、バングラデシュ、ナイジェリアと、宗教的・精神文化が根付いた国々が上位に続きます。
ヨーロッパ勢では、クロアチアやブルガリアが上位10カ国にランクイン。フランスは19位でした。
このランキングは、都市化率や経済発展度、ビジネス環境など「物質的な豊かさ」を競うランキングとはまったく異なります。
たとえば、調査の中で「生物多様性が豊かな国」「都市化が進んでいない国」「精神文化や宗教を重視する国」は、自然との一体感が強い傾向を示しました。
研究者らは、「日常生活の中で神聖性や意味を感じる文化や、自然と人間の境界があいまいな価値観」が重要な役割を果たしていると指摘しています。
一方、ランキングの下位には、イギリス、カナダ(英語圏)、ドイツ、イスラエル、オランダといった先進国が名を連ねています。
最下位に位置したのはスペインで、そして日本はなんと下から2番目という低さでした。
なぜ日本は「自然と遠い国」になったのか?
なぜ日本を含む先進国が下位に沈んだのでしょうか。
調査では、「都市化の進行」「ビジネス環境の発達(商業のしやすさ)」「インターネット利用率の高さ」などが自然とのつながりを弱める要因として挙げられています。
都市化が進み、日常的に自然を体感する機会が減ることで、「自然は遠いもの」「ただのリソース」と感じやすくなるのです。
さらに注目すべきは、「精神性・宗教性」の高さが自然とのつながりを強めるというデータです。
信仰心やスピリチュアルな価値観が社会全体で共有されている国ほど、自然を「神聖な存在」「自分たちの一部」とみなしやすい傾向がありました。
反対に、合理性や科学万能主義が支配的な社会では、自然は“コントロールすべき対象”となり、心理的な距離が生まれやすくなります。
興味深いことに、環境団体への加入率や、環境保護を重視する姿勢(たとえば「SDG」スコア)は、自然とのつながりとはほとんど関係がないことも明らかになりました。
つまり、「環境を守るための行動」や「社会的なキャンペーン」よりも、「日常的な精神文化や人生観」が、自然との心理的距離に深く関わっているということです。
チームは「都市の中に公園を作るだけでは不十分で、都市生活の中で“自然を神聖に感じる場”や“意味を見出す体験”をいかに増やせるかが、これからの課題だ」と指摘しています。
今回の調査は、日本を含む先進国が「物質的な豊かさ」の裏で、自然との心の距離を拡げている現実を突きつけました。
しかし見方を変えれば、都市化や技術発展の進んだ社会であっても、文化や精神性を見直すことで“自然との再接続”は可能だというヒントも示しています。
参考文献
Britain one of least ‘nature-connected’ nations in world – with Nepal the most
https://www.theguardian.com/environment/2025/nov/01/britain-one-of-least-nature-connected-nations-in-world-with-nepal-the-most
元論文
Macro-level determinants of nature connectedness: An exploratory analysis of 61 countries
https://doi.org/10.1007/s13280-025-02275-w
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部
