座り時間の30分を“軽い運動”に替えるだけで、翌日のやる気や気分が高まる

最近は、「長く座っているのは健康に良くない」という話をよく耳にします。

確かに、1日中座りっぱなしの生活は、肥満や心臓病のリスクを高めるだけでなく、気分の落ち込みや集中力の低下にもつながることが指摘されています。

しかも最近の研究では、「運動をしていても、座りすぎの悪影響は完全には打ち消せない」ことが分かってきました。つまり、1日のうちにどれだけ座っているか自体が強く影響しているのです。

では、私たちはどうすればいいのでしょうか。

この問題について、オーストラリアのモナシュ大学(Monash University)の研究チームは、「座り時間の一部を、軽い動きに入れ替えるだけでも効果がある」と報告しています。

研究者によると、普段座っている時間の内30分程度を、立つ、歩く、家事をするなどの簡単な動きに置き換えるだけで、翌日の気分や集中のしやすさが向上したという。

この研究の詳細は、2025年9月16日付で科学雑誌『Psychology of Sport & Exercise』に掲載されています。

目次

  • 座り仕事の最中にたまに立ち上がるのは有効なのか?
  • 座り時間を30分”置き換える”だけで翌日の調子が変わる

座り仕事の最中にたまに立ち上がるのは有効なのか?

一日中座って過ごす生活は、心血管疾患や10年以内の死亡率を上昇させるなど、健康に良くないということが近年の研究では数多く報告されています。

これはコロナ禍以降、テレワークの増加、運動量の低下などの生活スタイルの変化が世界的に見られたことを受けて、その影響に関心が集まったためです。

またこうした座りっぱなしの影響は、運動を取り入れても解消されないという研究報告もあります。

無念…もはや座して死を待つのみ。「座り時間と死亡率の関係は運動で改善できない」

つまり、多くの研究は座り続ける時間を減らす以外、この健康の悪影響を解消する方法はないと報告しているのです。

しかし、そう言われても、デスクワークをする人たちにとって、長時間の座り状態は避けようがありません。

そのため、座りっぱなしにならないよう、ときどき席を立って伸びなどの運動をする、立ってできる作業や軽い散歩を取り入れているという人も多いでしょう。ただ、こうした軽い動作で座り続ける状態を解消することに、意味があるのかどうかは、いまひとつよくわかりません。

そこで、モナシュ大学の研究チームは、座り時間の一部を座る以外の動作に「置き換える」ことにどのような効果があるかを調べました。

彼らは、座りっぱなしの時間ではなく、1日24時間という枠の中で、座る、歩く、寝るなどの動作をどのくらいの割合で行ったか、という視点でこの問題を考えて見ました。

そして座る時間を別の行動に何分置き換えると翌日にどう影響するかを検証したのです。

この研究では健康な若年成人354人(平均年齢は22.6歳)を対象に、7〜15日間、手首に加速度センサー(ActiGraph)を装着して睡眠・座位・立位・歩行・運動の時間をすべて記録しました。 さらに1日3〜4回、スマートフォンでアンケートを取り、そのときの心理状態を答えてもらいました。

心理の測定では、感情を「ポジティブかネガティブか」と「覚醒度(高い・低い)」の2軸で分類しました。 たとえば、どちらも高い状態なら前向きで活気のある状態、どちらも低ければ不安で活力のない状態を意味します。

この研究の狙いは、1日の時間が24時間という限られた枠の中で、一つの行動を増やせば別の行動が減るという関係から、「同じ人がその日どの行動をどれだけ行ったか」によって、翌日の心理にどう影響するかを調べることです。

座り時間を30分”置き換える”だけで翌日の調子が変わる

結果は明確でした。 座る時間を30分だけ軽い動きに置き換えただけで、翌日の前向きさややる気が少し高まっていました。

つまり、座り仕事の最中に、たまに立ち上がって歩いたり、軽く体を動かしたりするだけでも、翌日の頭の働きややる気に違いが生まれていたのです。

また、日中の「スマートフォンを見ている」「ゴロゴロしている」などの休憩時間の一部を動く時間に変えた場合でも、同じように翌日の前向きさが高まる傾向が見られました。 逆に、座って過ごす時間が長くなった日は、翌日に前向きさが下がり、不安やいらだちがやや増える傾向が強まりました。

さらに、座る時間の一部を少し息の上がるような運動(速歩など)に替えた場合には、翌日の「だるさ」や「気力の低下」がわずかに減る傾向も見られました。

興味深いことに、睡眠時間の長さは翌日の気分や集中力とほとんど関係が見られませんでした。 つまり、「よく眠ること」も大切ですが、それ以上に日中に少しでも体を動かすことのほうが、翌日の頭の冴えを左右していたのです。

この結果から分かるのは、「強い運動をがんばる」よりも、まず“座る時間を簡単なものでいいので動きのあるものに変換する”ことが効果的だということです。 立ち上がる、ゆっくり歩く、部屋を片づける——こうした軽い動きでも、翌日の気分や集中のしやすさに確かな違いが現れます。

重要なのは、本来なら座って過ごしている時間を、別の動作に変換するという点です。

ただ、この研究は心理学研究で使われる「経験サンプリング法(Experience Sampling Method:ESM)」(日常生活の中での瞬間的なな感情の変化を答えてもらう)という手法を用いて定量的に評価を行っていますが、生理的な測定ではなく、参加者自身がスマートフォンで回答した主観的な報告に頼っています。

確認された効果は非常にささやかなものであり、また調査対象も健康な若年成人に限られているため、高齢者や体調に悩む人では結果が異なる可能性もあります。

それでも研究チームは、この発見が現代人の生活にとって大きなヒントになると強調しています。 日常に取り入れやすい座り時間の「30分の置き換え」で、デスクワーク中心の生活による悪影響を少しでも改善できr現実的な方法だからです。

これは今までも一般の人から言われていた、仕事中にたまに立ったり歩いたりするのは有効なのか、という疑問について、実際に意味があるということを示唆しています。

たとえば、長時間の会議には休憩時間を挟んで立ち上がるようにする。 電話を立って受ける。 昼食後に10分ほど歩く。 そんな小さな工夫が、翌日の自分の集中力や疲れに違いを生むかもしれません。

「座る30分を、動く30分に」 このシンプルな行動が、毎日のパフォーマンスを支える鍵になりそうです。

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参考文献

UTA study: Just a little movement can lift your mood
https://www.uta.edu/news/news-releases/2025/10/23/uta-study-just-a-little-movement-can-lift-your-mood

元論文

Daily, prospective associations of sleep, physical activity, and sedentary behaviour with affect: A Bayesian multilevel compositional data analysis
https://doi.org/10.1016/j.psychsport.2025.102997

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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