お尻も頭に?「2つの頭をもつプラナリア」の自然発生を初確認

再生生物学のスターである扁形動物「プラナリア」において、「体の両端に頭ができる」という珍しい現象が、ついに自然状態で発見されました。

この“二つ頭プラナリア”は、普通の個体と違って尾がなく、お尻の位置にも完全な頭が備わっています。

ポーランド・ワルシャワ大学(UW)の研究チームによると、2つ頭のプラナリアはこれまで、人工的には作られていたものの、自然発生した事例は初めてとのことです。

研究の詳細は2025年10月29日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』に掲載されています。

目次

  • 「2つ頭のプラナリア」はどうやって生まれる?
  • 2つ頭プラナリアを切断すると、どんな個体が生まれる?

「2つ頭のプラナリア」はどうやって生まれる?

プラナリアは、切っても切っても頭や尾が再生する“無敵の再生力”で知られています。

中でも、今回の研究対象となった「ステノストマム・ブレヴィファリンギウム(Stenostomum brevipharyngium)」という種類は、親の体が無性生殖で自ら分裂し、まるでクローンのように子どもを増やしていきます。

これは「パラトミー」と呼ばれる現象で、親個体の体が大きく成長したのち、その体の中央付近から新しい頭が芽吹くように出現し、続いて胴体など他の部分が形成されてクローン個体が分離するのです。

その途中経過の画像がこちら。

 

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しかし今回、研究チームは、実験室内のある培養皿で「なぜか両端に頭を持つプラナリア」が突然現れるのを発見しました。

この「2つ頭のプラナリア」は、見た目はまさに頭と頭が繋がった不思議な生き物です。

チームが詳しく観察したところ、本来なら尾ができるはずの位置に、もう一つの頭部(脳や咽頭)が“逆向き”にしっかり形成されていることがわかりました。

しかも、その頭部は構造的にもほぼ正常で、神経や筋肉の配置が鏡写しのように逆転していました。

この現象はごく一部の個体だけに見られ、同じ環境で育てた他のプラナリアでは見つかりませんでした。

つまり、特別な薬や操作を加えたわけでもない“自然発生”だったのです。

【2つ頭のプラナリアの実際の画像がこちら

では、なぜこんな変わった個体が現れるのでしょうか?

研究によると、2つ頭になる原因は「遺伝」や「老化」ではなく、ごく偶発的な発生エラー、つまりは発生の過程で、尾ができるべき場所に何らかの理由で頭部の組織が作られてしまうため、と考えられています。

一部の幹細胞がまちがった指令を受け取り、尾ではなく頭の組織に分化した可能性が高いようです。

さらに驚きなのは、この2つ頭プラナリアは、普通のプラナリアよりも動きが鈍く、自然界ではすぐに捕食されてしまうであろう不利な存在なのに、実験室ではしばらくの間“生き残って”繁殖にも挑戦していたことです。

2つ頭プラナリアを切断すると、どんな個体が生まれる?

では、2つ頭のプラナリアのその後の運命はどうなるのでしょうか。

チームは、この個体をいくつかの断片に切り分け、再生の様子やその子孫を観察しました。

その結果、ほとんどの断片は、切断された部位に再び「尾」を再生し、正常な体型に戻ることができました。

しかも、こうして生まれた子どもたちは、頭と尾のある“通常型”ばかりで、2つ頭の特徴は遺伝しませんでした。

つまり、「2つ頭」の性質は一代限りの“突発的な現象”だったのです。

さらに興味深いのは、元々頭だった部分が切断された後、そこに尾が再生されることで、「体の前後の向き(体軸)」が180度ひっくり返ってしまう個体が生まれたことです。

本来、動物の体は頭と尾の向きが固定されているのが当たり前ですが、このプラナリアは“逆さまの体軸”でもまったく問題なく生き、分裂・再生を続けることができました。

この柔軟すぎる現象の裏には、「成体でも幹細胞が常に新しい組織を作り続けている」という、プラナリア特有の仕組みが関わっています。

体の設計図(どこが頭でどこが尾か)さえも、状況に応じて柔軟に組み替えることができる――それが、扁形動物の持つ“発生可塑性”の本質なのです。

このような“体軸の逆転”が無事に適応できる生き物は、動物界全体でも非常に珍しいとされています。

チームも「こんなに劇的な体の作り変えに適応できる生物はほとんどいない」と驚きを語りました。

全ての画像を見る

参考文献

Rare Two-Headed Flatworms Produce Topsy-Turvy Offspring, Scientists Discover
https://www.sciencealert.com/rare-two-headed-flatworms-produce-topsy-turvy-offspring-scientists-discover

Freaky “Frankenstein” Worms Can Get Reproduction Wrong And End Up With Two Heads
https://www.iflscience.com/freaky-frankenstein-worms-can-get-reproduction-wrong-and-end-up-with-two-heads-81358

元論文

Spontaneous ectopic head formation enables reversal of the body axis polarity in microscopic flatworms
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.1941

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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