「先延ばし癖を軽減できる6つの質問」を心理学者が開発!

「あとでやるから」と自分に言い聞かせて、気づけば締切の前日になっている――そんな経験は誰にでもあるでしょう。

とっとと終わらせてしまえばスッキリして楽になるのに、なかなか作業に取りかかれず悩んでいる人は多いはずです。

これは現在のやるべきことに対する面倒さと、やれば楽になるという未来の予想において、現代の気持ちが勝ってしまうために起こる問題です。

そこでアメリカのカリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California Santa Barbara)の心理学者アヌーシャ・ガルグ(Anusha Garg)氏ら研究チームは、心理学の理論に基づいて、答えるだけで面倒さより早く終わらせた方が楽という気持ちになれる簡単な6つの質問を作成しました。

そしてオンラインで集めた1,035人の成人を対象に、この6つの質問に答えてもらったところ、参加者たちは先延ばししていたタスクを「24時間以内に終わらせる可能性」が高まったというのです。

研究者によると重要なのは、「やりたくない気持ち」そのものを消そうとすることではなく、「やる意味」を強化して最初の一歩を踏み出しやすくすることだという。

ではこの先延ばしをやめる6つの質問とは、どんなものなのでしょうか。

この研究の詳細は、2025年10月16日付けで科学雑誌『BMC Psychology』に掲載されています。

目次

  • 先延ばしは「いまの面倒さ」と「あとの楽さ」の天秤
  • 行動のハードルを下げる簡単な方法

先延ばしは「いまの面倒さ」と「あとの楽さ」の天秤

先延ばしの場面を思い浮かべてください。「やらなきゃ」と分かっているのに、つい動画やSNSに手が伸びてしまう。そんな経験は誰にでもあるでしょう。

心理学では、この迷いを「タスクの面倒さ(やりたくなさ)」と「達成のメリット(報酬や開放感)」の天秤として説明しています。面倒さが勝てば先延ばしが起き、達成のメリットが勝てば動き出すわけです。

この考えを整理したのが、時間的意思決定モデルです。

このモデルでは、締切が近づくほど「達成のメリット」が実感として強まるため、行動のスイッチが入りやすくなると説明されています。一方で「いまこの瞬間のやりたくなさ」は常にブレーキになるため、実際行動できるかどうかは、この2つのどちらが上回るかで決まるというわけです。

従来の先延ばし対策では、認知行動療法のように時間をかけて思考パターンを変えていく方法が主流でした。これは確かに効果的ですが、時間も費用もかかり、「いま先延ばししている」という瞬間にサッと使えないという課題がありました。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームは、これを数分で完結する「問いかけ」だけで解決できないか、と考え6つの質問を考え出しました。

  1. どんなタスクを先延ばししていますか?
  2. なぜそのタスクを避けているのですか?(感情の言語化)
  3. 終えたらどんな良いことがありますか?
  4. すぐできる小さな作業は何ですか?
  5. それにどのくらい時間がかかりますか?
  6. 終えたら自分にどんなご褒美をあげますか?

そして、米国と英国の成人1,035人をオンラインで募集し、無作為に3つの分けたグループで、その効果を実験で確かめました。

この実験では、まずすべての参加者に対して現在先延ばしにしているタスクについて、1つ上げてもらっています。

その「先延ばししているタスク」について、1つ目のグループ(実験グループ)は研究者が作った意識を変える6つの質問に答えてもらいました。2つ目のグループ(対照グループ)は、タスクの期限や場所など意識変化に影響しない質問だけに答えてもらいました。最後のグループは特に何も介入を行いません。

そして全員に対して9段階で「24時間以内にタスクに取り組む可能性」「達成に感じるメリット」「やりたくなさ」「現在の気分やストレス」「やる気」を評価しました。この実験の所要時間は平均6分程度です。

行動のハードルを下げる簡単な方法

結果は明快でした。

実験グループは対照グループに比べて:

  • 「24時間以内に取りかかる可能性」が有意に上昇
  • タスクを終えたときの「メリット」をより高く評価
  • 気分がわずかに向上
  • 「メリット−面倒さ」の差が拡大

ここで注目すべきは、「やりたくなさ」自体は変わらなかったという点です。つまり、嫌な気持ちを無理に消そうとしなくても、「終わらせると気分がいい」「役に立つ」といったプラスの見通しを少し強めるだけで、行動のハードルが下がったのです。

統計分析からも、この「メリットと面倒さの差」と「気分」の2つが、タスクに取りかかろうとする意欲を押し上げていることが確認されました。

自己申告の調査では、参加者が「良く見られたい」という心理で答えを歪めることがあります。

研究チームはこの影響を統計的に取り除いた上で分析していますが、結果は変わりませんでした。つまり、実際に行動するための動機づけ構造が変わったことを意味します。

「面倒という気持ちをなくす」より「やることの意味付け」が効果的

この研究が示す最大の発見は、「先延ばし対策=嫌な気持ちをなくすこと」という従来の発想を覆した点です。

人はタスクそのものへの面倒臭さをゼロにできなくても、「終えた後のメリット」や「達成感」を上手く思い描くことができれば行動できます。

今まではそのための有効な方法が明確ではありませんでしたが、今回の研究では、たった6分で終わる簡単な質問に答えるだけなので、職場のタスク管理や学生の学習アプリなどにそのまま応用できる可能性があります。

ただこの研究では、実際の行動(本当にタスクを終えたか)までは計測していません。今回測ったのは「やろうと思う気持ち」のアンケート調査です。また、効果の大きさ自体は統計的には有意でも、実生活で体感できるほど大きかどうかはまた別問題です。

研究チームは今後、「意図」と「実際の行動」のギャップを追う追跡調査を計画しています。また、6つの質問のうち、どれが最も効果的かを個別に検証することも重要だとしています。

日常に使える「6つの問いかけ」

研究チームが提案する6つの問いは、いますぐ日常に取り入れられる簡単なものです。

  1. どんなタスクを先延ばししている?
  2. そのタスクの嫌な点は?
  3. 終えたらどんな良いことがある?
  4. すぐできる小さな作業は?
  5. どのくらい時間がかかる?
  6. 終えたら自分にどんなご褒美を?

これらは単なる「やる気アップ術」ではなく、心理学的な根拠に基づいて先延ばしせずに行動に移しやすくなる質問”です。先延ばし癖に悩んでいる人は、この質問に答えてみるだけで自分の中の「やりたくなさ」と「やる意味」のバランスを見直すことができ、先延ばしのクセをやわらげられるかもしれません。

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元論文

Now I feel like I’m going to get to it soon: a brief, scalable intervention for state procrastination
https://doi.org/10.1186/s40359-025-03388-3

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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