トルコのネジメッティン・エルバカン大学(NEU)などが参加した最新の研究によると、胸の大きさが女性の自尊心と関係していることがわかりました。
この研究では、医療用の専用器具を使って胸の体積を正確に測定しました。
その結果、胸の体積が370cm³を超える女性は、それより小さい女性と比べて自尊心がやや高い傾向にあることがデータで確認されました。
胸の大きな女性は、なぜ自分に自信を感じやすいのでしょうか?
この研究結果は、2025年9月29日に学術誌『The Journal of Turkish Family Physician』で発表されました。
目次
- 胸のサイズと自信の関係、なぜ今“測る”のか?
- 375cm³を境に見えた自信の高まり
- 『自信』は胸の中だけでは測れない
胸のサイズと自信の関係、なぜ今“測る”のか?

胸というのは、女性にとって特別な意味をもつ体のパーツです。
心臓や肺、胃など、人間の体には生きていく上で大事な器官がたくさんありますが、胸はただ体の一部というだけでなく、なぜか特別な存在として注目されます。
それは、「女性らしさ」や「母性」という目に見えない価値やイメージが、胸という部分に昔から強く結びつけられてきたからです。
実際に古代から現代にかけて、女性の胸をモチーフにした絵画や彫刻は世界中の美術館や博物館に数多く展示されています。
こうした芸術作品に女性の胸が繰り返し描かれてきた理由は、胸が単なる体の特徴を超えて、女性の象徴として文化的な意味を帯びてきたからでしょう。
だからこそ、現代でも胸というテーマは人々の関心を引きつけ、美容やファッションの世界でも非常に大きな注目を集めています。
雑誌の表紙やテレビ、インターネットでも、胸のサイズや形に関する話題は人気があります。
特に「胸が大きい女性は魅力的」とか「理想的なバストはこうだ」というイメージは、私たちの日常生活のなかで当たり前のように目にします。
でも、実際に女性たちが自分の胸に満足しているかといえば、実はそうでもありません。
世界40か国、1万8000人以上の女性を対象にした大規模な調査によると、自分の胸を「もっと大きくしたい」と願う女性は約半数の48%、逆に「もっと小さくしたい」と思う女性は23%、いまの自分の胸に満足している女性はたったの30%ほどでした。
言い換えれば、世界の女性の約7割が、自分の胸のサイズに対して何らかの不満や希望を抱えていることになります。
胸のサイズというのは、単に外見の問題ではなく、多くの女性にとっては自己評価や自信、心の問題とも深く関係しているのです。
では、そもそもなぜ胸の大きさがそこまで女性の自尊心や自信に影響を与えるのでしょうか?
その理由のひとつとして考えられるのが、「社会や文化が作り出す理想的な女性像」です。
例えば映画や漫画、雑誌などに登場する女性キャラクターの多くは、胸が大きいほど魅力的に描かれますよね。
こうしたイメージが繰り返されることで、「胸が大きい=女性らしい」という考え方が無意識のうちに人々に浸透してしまうのです。
すると当然のように、胸が大きい女性は社会的に肯定されやすくなり、自尊心(自分を認めて大切にする気持ち)が自然と高まる可能性があります。
逆に胸が小さい女性は「自分は女性らしくないのかも」といった不安や劣等感を持ちやすくなります。
これは個人の内面だけの問題ではなく、社会が作り出した理想的なイメージからくるプレッシャーも関わっているのでしょう。
これまで行われてきた多くの研究では、女性が胸のサイズについてどう感じているかという「主観的な満足度」をアンケートで調べるものが中心でした。
しかし、主観的な満足度というのはあくまで自分の感覚ですから、実際に胸が大きいかどうかを客観的に調べた上で、心理的な影響を調査した例は非常に少なかったのです。
そこでトルコの研究チームは、これまでのアンケート調査とはまったく異なる方法を採用しました。
それは、「実際の胸の大きさを正確に測定して、その数値と女性の自尊心との関係を分析する」という新しい試みです。
従来、胸の大きさを比較する場合、「Aカップ」「Cカップ」といったブラジャーのカップ数が一般的に使われてきました。
でも実は、カップ数というのはメーカーや国によって基準がバラバラで、同じ「Cカップ」でも実際のサイズにかなり差が出てしまいます。
そこで今回の研究では、「グロスマン=ラウドナー・ディスク」という専用の医療用測定器を使いました。
この器具は透明な円盤状で、胸の上に当てるだけで実際の胸の容積(体積)を直接測定することができます。
この方法を使えば、胸の大きさを主観的な感覚ではなく、客観的な「数字」で測定できるわけですね。
こうして研究チームは、胸の大きさという客観的なデータを使って、女性の自尊心との関連を科学的に調べました。
では、胸のサイズを数字で測ったとき、女性の自尊心と胸の大きさとの間にはどんな関係が見えてきたのでしょうか?
375cm³を境に見えた自信の高まり

さて、これまで女性の胸のサイズと自尊心というテーマの背景を紹介してきましたが、ここからは具体的な研究内容に踏み込んで見ていきましょう。
今回、研究に協力してもらったのは、トルコに住む18歳以上の女性343名です。
彼女たちはみんな健康な一般女性で、胸に関係する病気や手術の経験はありませんでした。
つまり、特別な条件や問題を持った人ではなく、あくまで普通の女性を対象にしていることになります。
次に研究チームが行ったのは、「胸の大きさ」を正確に測定するという作業です。
みなさんが普段よく耳にする「Aカップ」や「Cカップ」といったブラジャーのサイズは、メーカーや国ごとに基準が違ったり、胸以外の体型の影響も受けたりするので、実は客観的な比較にはあまり向いていません。
そこで今回使われたのが「グロスマン=ラウドナー・ディスク」という専用の測定器具でした。
この器具は透明な円盤のような形をしていて、胸に当てるとその体積(容積)を正確に測れる、医療用の特別な装置です。
例えるなら、果物の大きさを測るために重さを量るように、女性の胸を数字で正確に測定できる器具なのです。
このような方法なら、感覚や主観に頼らず、実際の胸のサイズを数字として客観的に比較できますよね。
胸のサイズが測れたら、次は女性たちに心理的なアンケートに答えてもらいます。
主に2つのアンケートが使われました。
ひとつは「ローゼンバーグ自尊感情尺度(RSES)」というもので、これは心理学で広く使われる有名なアンケートです。
質問に答えると、自分自身をどれだけ肯定的に見ているかを数字のスコアで評価できます。
ただ、このテストにはちょっとややこしい特徴があります。
普通、点数が高い方が良さそうですが、RSESでは逆で「点数が低いほど自尊心が高い」という仕組みになっています。
具体的には、0〜1点はかなり高い自尊心、2〜4点が普通レベル、そして4〜6点が低い自尊心という感じですね。
少しややこしいですが、まあそういうルールがあるんだな、と覚えておいてください。
もうひとつ使われたアンケートが、「ボディ・カテクシス尺度(BCS)」というものです。
これは、「自分の体にどれだけ満足しているか」を調べるもので、質問の項目は40個もあります。
たくさん質問があることで、自分の体に対する満足感をより細かく調べることができます。
BCSでは点数が高いほど自分の体を好きだと感じている、というわかりやすい仕組みですね。
つまり、この研究では、「胸のサイズ」という目に見える客観的な数値と、「自尊心」や「体への満足感」という目に見えない心理的な状態の両方を測定して、それらの関係を統計的に調べようという試みだったのです。
では実際に、胸のサイズと自尊心のあいだにはどんな関係があったのでしょうか?
また、体への満足感とはどんな関係になったのでしょうか?
まず結論から言うと、「胸が大きい女性ほど、自分を肯定的に見る傾向がある」という関連が、今回のデータから確認されました。
さらに詳しく見てみましょう。
今回の研究では、参加した女性たちを胸のサイズによって3つのグループに分けました。
小さいサイズ(275立方センチメートル未満)、平均的なサイズ(275〜375立方センチメートル)、そしてマクロマスティアと呼ばれる大きめのサイズ(375立方センチメートル以上)の3グループです。
具体的な数字を見ると、最も胸が大きいグループは平均0.8点、中間サイズは1.0点、最も小さいグループは0.9点でした。(※点数が低いほど自尊心が高い:なお375cm³というのは大きめのリンゴと同じくらいの体積となります)
そしてこの差は統計的に有意な「意味のある違い」だと判断されました。
ところが、「自分の体全体に満足しているか?」という質問(身体満足度)では、胸のサイズとの明確な関係はありませんでした。
胸が大きい女性たちは胸そのものには比較的満足しているものの、「自分の体全体」への満足度と胸のサイズは直接的に結びつかなかったのです。
つまり胸の大きさは、あくまで自尊心に限った話で、自分の体全体の満足度とはまた別の問題だということです。
では一体なぜ、胸が大きいと自尊心が少しだけ高まるのでしょうか?
研究チームはその理由として、「女性らしさ」や「魅力」といった文化的な価値観が影響している可能性を指摘しています。
つまり、社会の中で「胸が大きい女性は女性らしくて魅力的だ」というイメージが共有されていることで、本人も胸の大きさを自己肯定感につなげやすくなる、というわけです。
イメージとしては、胸の大きさが「自信を支える見えないお守り」のような働きをしているのかもしれません。
また、今回の研究ではもう一つ面白いことがわかりました。
それは「結婚しているかどうか」も自尊心に関連していた、という点です。
実は、結婚している女性は未婚の女性よりも、平均的に自尊心が高いという結果が出ました。
結婚が自尊心に関連する理由としては、社会的な安定感や周囲からの肯定的な評価が関係している可能性があります。
胸のサイズだけではなく、女性が置かれている環境や社会的な要因もまた、自信や自己肯定感に影響を与えることが明らかになったのです。
『自信』は胸の中だけでは測れない

今回の研究から見えてきた一番のポイントは、「胸のサイズ」という目で見えるシンプルな数字が、女性の「自信」と呼ばれる目に見えない心理と、ゆるやかなつながりを持っていることです。
昔から俗に「胸が大きい女性は自信がある」という話を聞くことがありますが、今回の研究はそのような通説に対して初めて科学的な視点から統計的な根拠を示しました。
重要なのは、この研究が「胸のサイズ」と「女性の心の状態」を、はっきりした数字で比較して見せたという点です。
これまでこうした話題は、個人の印象や感覚に頼ることが多かったため、正確な関係性を捉えることが難しかったのです。
今回のように客観的な測定値を用いることで、「体の特徴」と「心の状態」の関連が目に見える形になりました。
こうした結果は、女性が抱える美容や外見に関する問題を考える上で、社会的にも意義があります。
たとえば、世間で語られる「理想的な体型」や「理想的なバストサイズ」といった価値観が、知らないうちに女性の自己評価に影響を与えている可能性があることを示唆しています。
このように、「外見が心理に与える影響」を数字で捉えることは、ボディポジティブ(どんな体型でも自分を受け入れる考え方)を進める上でも大切な材料になるでしょう。
とはいえ、この結果を解釈するときには注意が必要です。
まず、研究の設計が「横断的」であり、ある一時点でのデータを分析したものです。
そのため、「胸が大きいから自尊心が高くなる」といった因果関係を断定することはできません。
明らかになったのは、あくまで胸の体積と自尊心の間に関連があるという点です。
また、参加者の多くが既婚で出産経験があるという特徴も考慮が必要です。
出産や授乳によって胸の形や大きさが変わることもあり、結婚や出産自体が女性の自己評価に影響している可能性もあります。
したがって、胸のサイズと自尊心の関連は、単純な身体的要素だけでなく、人生経験や社会的状況も関係していると考えられます。
研究チームは今後、こうした条件をより厳密に整えた研究を提案しています。
たとえば、出産経験のない若い女性や特定の年齢層を対象にすることで、胸の体積そのものが自尊心に与える影響をより正確に検証する必要があると述べています。
さらに、同じ胸の大きさでも文化や社会によって感じ方が異なることから、文化的背景を考慮した比較研究の必要性も指摘しています。
それでも、この研究は一歩前進といえるでしょう。
女性の身体的特徴が心理的な自己評価にどのように関係するのかを、客観的な数値で示したことに価値があります。
今後、異なる国や文化圏で同様の研究が積み重なれば、より深く包括的な理解につながっていくはずです。
元論文
The psychological correlates of breast volume in women: Implications for self-esteem and body perception
https://turkishfamilyphysician.com/articles/research-article/the-psychological-correlates-of-breast-volume-in-women-body-perception/
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部