強烈な重力で何もかもを飲み込んでしまう天体、ブラックホール。
天文学者たちはこれまで、ブラックホール単体の姿を電波望遠鏡を駆使して捉えてきました。
しかし今回、フィンランド・トゥルク大学(University of Turku)は、史上初となるブラックホールのペアの観測に成功したのです。
研究の詳細は2025年10月9日付で科学雑誌『The Astrophysical Journal』に掲載されています。
目次
- 12年ごとに明滅する光源の正体とは?
- 2つのブラックホールが見えた!
12年ごとに明滅する光源の正体とは?
今回の観測対象となったのは、地球から約50億光年彼方にある活動銀河核「OJ 287」です。
この天体が天文学者の注目を集める理由は、約12年ごとに“ものすごい明るさの大フレア”を繰り返すという、不思議な周期パターンにあります。
この周期的な明るさの変化は、まるで宇宙の灯台が光をパッと照らすように訪れ、100年以上も前から世界中の望遠鏡や写真乾板に記録されてきました。
では、なぜOJ 287は12年ごとに強烈な輝きを放つのでしょうか?
その謎に最初に迫ったのは、1980年代のフィンランド・トゥルク大学の若き天文学者たちでした。
彼らは「もし銀河核の中心にブラックホールが2つあって、それらが互いの周りを公転しているなら、接近のたびに周囲のガスがかき乱され、巨大な閃光が生まれるのでは?」と予測したのです。
このモデルでは、「主役」の超大質量ブラックホール(太陽の180億倍)と、その周りを回る「相棒」のやや小さいブラックホール(太陽の1.5億倍)が12年かけて壮大な軌道ダンスを繰り広げています。
実際、光度変化のタイミングは理論計算とピタリ一致し、最新の観測では予測どおりの“宇宙花火”も捉えられました。
けれども、ブラックホールは「真っ暗闇」です。
その本体を直接撮ることはできません。
そこで天文学者たちは、ブラックホールから噴き出す「ジェット」と呼ばれる超高速の粒子流を追いかけることで、その位置や動きを間接的に探る方法を編み出しました。
2つのブラックホールが見えた!
それでも、ブラックホール同士が重なって見えたり、ジェットの方向が複雑にねじれていたりと、「2つ」を画像として分離して捉えるのは“ほぼ不可能”だと思われてきました。
この壁を打ち破ったのが、ロシアの宇宙電波望遠鏡「RadioAstron」と、地上の巨大アンテナを連携させた“地球スケール”の電波干渉計技術です。
チームはこれらの観測システムを駆使して、史上最高の解像度でOJ 287の中心を撮影し、1つの点にしか見えなかったはずの中心部に“2つの明るいジェット源”を発見しました。
解析の結果、片方は予想通り「主ブラックホール」から出ているジェット。
そしてもう片方は、公転する「相棒ブラックホール」から噴き出すジェットであることが判明したのです。
【観測されたブラックホールペアの画像がこちら】
このジェットは、相棒ブラックホールが動くことで進行方向が次々と変わり、理論計算どおり“尻尾を振るような軌跡”を描いていました。
さらに、相棒ブラックホールのジェットは主ブラックホールに比べて、
・スピードが遅い(秒速で見ても1/4程度)
・磁場が強い
・明るさのピークがより高い周波数にある
という特徴もピッタリ理論と一致していました。
これにより「2つのブラックホールが互いの周りを回り、しかも両方からジェットが噴き出している」というモデルが、観測画像で初めて実証されたのです。
チームは今後、さらなる高解像度での電波観測や新しい望遠鏡によって、2つのブラックホールの詳細を明らかにしていく予定です。
参考文献
Scientists capture an image of two black holes circling each other for the first time
https://www.utu.fi/en/news/press-release/scientists-capture-an-image-of-two-black-holes-circling-each-other-for-the-first
Groundbreaking image shows two black holes orbiting each other for first time
https://www.livescience.com/space/black-holes/groundbreaking-image-shows-two-black-holes-orbiting-each-other-for-first-time
元論文
Identifying the Secondary Jet in the RadioAstron Image of OJ 287
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ae057e
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部