実は「子供の気持ちの軽視」していた親の言動とは?

「感情を出すのが怖い」とか、「自分の気持ちは間違っている」と感じることはありませんか。

もしかしたらその気持ちは、子どもの頃の経験が原因かもしれません。

アメリカの臨床心理士ジョニス・ウェブ(Jonice Webb, Ph.D.)は、感情を認めること(エモーショナル・バリデーション:emotional validation)の重要性について長年研究してきました。

彼女は、子ども時代に感情を受け止められなかったり無視されたりした経験が、その後の人生にどのような影響を与えるかを明らかにしています。

目次

  • 感情を認める 「エモーショナル・バリデーション」とは?
  • 子どもの気持ちの軽視する“親の言動”とは?

感情を認める 「エモーショナル・バリデーション」とは?

子どもが健やかに成長するためには、衣食住などの物理的なケアだけではなく、心のケアも欠かせません。

その中心にあるのが、エモーショナル・バリデーション(emotional validation)です。

エモーショナル・バリデーションとは、子どもが感じていることを否定せず、「あなたの気持ちは大切だよ」と受け止め、理解しようとする態度のことを指します。

たとえば子どもが学校で悲しい思いをして帰ってきたとき、「そんなことで泣かないの!」と否定するのではなく、「つらかったね」と共感し、話を聞いてあげることがエモーショナル・バリデーションの実践です。

このような経験を積み重ねることで、子どもは「自分の感情は大事にされている」「自分はここにいてもいいんだ」と感じられるようになります。

反対に、子どもの気持ちが十分に認められなかった場合、「自分の感情はおかしいのかも」「感じること自体が悪いのかも」と、自分を否定する思考が知らず知らずのうちに染みついてしまいます。

ウェブ博士は、エモーショナル・バリデーションが十分に与えられず、子どもの感情が見過ごされることを「子ども時代の感情的ネグレクト(childhood emotional neglect)」と呼んでいます。

これは必ずしも親の愛情が足りなかったわけではありません。

多くの場合、親自身がエモーショナル・バリデーションの重要性やその方法を学ぶ機会がなかったために、無自覚のうちに起きるものです。

そうした背景にあって、子どもが感情を認めてもらえない経験を重ねるなら、大人になってからも「感情を表現するのが不安」「自分の気持ちは理解されない」と感じやすくなります。

自己肯定感が低下したり、人とつながることへの安心感が揺らいだりする“生きづらさ”を生み出すのです。

では、どのような親の態度や行動が、子どもの感情を軽視することにつながるのでしょうか。

次項で具体的な例を見てみましょう。

もしかしたらあなたも経験したかもしれません。

子どもの気持ちの軽視する“親の言動”とは?

ウェブ博士は、こうした「親による子供の気持ちを軽視する行動」の具体例をいくつか挙げています。

たとえば、親が子どもの話を聞いているふりをしながら、実際はテレビやスマートフォンに夢中で心ここにあらずという状態です。

このような態度が続くと、子どもは「自分の話は価値がないんだ」と感じるようになります。

また、子どもが悲しみや不安、困難を打ち明けても「気にしすぎ」「我慢しなさい」と言って受け止めない場合も、子どもの感情を否定し、軽視していることになります。

そして、学習障害や特性など子どもなりの悩みを伝えても、親が「努力が足りない」と片付けてしまうことも原因となります。

本人のつらさや努力は見逃され、「自分は劣っている」「悩みを話すのは無駄なんだ」と感じてしまうのです。

さらに、家族の中で離婚や病気、死などの重大な出来事が起こったとき、それについて親と子が話し合うことなく過ごすことも、子どもの気持ちを軽視することにつながります。

子どもは不安や悲しみを抱えていても、どう表現したらいいのかわからず、結果的に孤独感を深めてしまいます。

加えて、「そんなふうに思うのは変だ」「怒るのはお前が悪いからだ」などと、子どものせいにし、感情をねじ曲げて返す言動も大きな問題です。

このようなやりとりが続くと、子どもは自分の感情や直感を信じられなくなり、慢性的な不安や怒りを抱えやすくなります。

「何かを頼むことはワガママだ」「助けを求めてはいけない」と繰り返し言われる経験も、子どもが自分のニーズを悪いものだと思い込み、本当に困っても我慢するようになります。

もしかしたら、あなたも子どものころにこうした経験をしたことがあり、その影響が大人になっても残っているかもしれません。

それでもウェブ博士によると、それは決して一生消えない傷ではありません。

大人になってからでも、自分の気持ちを否定せず認めること、感じたことに意味があると受け止めること、つらかった自分を優しく受け入れること、こうした「セルフ・バリデーション」を少しずつ実践していけば、自分を信じる力や人とつながる安心感を取り戻していくことができます。

「感情を出すのが怖い」「自分の気持ちは間違っているのかも」と悩むなら、まずは「その気持ちを大切にしていい」と自分に許可を出すことが回復の一歩です。

自分の気持ちを大切にすることは、誰にでも許されている権利なのです。

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参考文献

10 Ways You May Have Been Emotionally Invalidated as a Child
https://www.psychologytoday.com/us/blog/childhood-emotional-neglect/202510/10-ways-you-may-have-been-emotionally-invalidated-as-a

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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