これまで、あらゆる年代のあらゆる古生物による化石が発掘されてきました。
その中で今回、南アフリカのネルソン・マンデラ大学(NMU)の研究チームが、世界初となるタイプの化石を発見しました。
それは「お尻を引きずった跡」の化石です。
調査の結果、お尻を引きずって跡を残したのは「イワダヌキ」という動物であることがわかりました。
研究の詳細は2025年8月16日付で科学雑誌『Ichnos』に掲載されています。
目次
- イワダヌキの「お尻引きずり」行動
- 12万年前の「お尻引きずり痕」を発見
イワダヌキの「お尻引きずり」行動
イワダヌキは南アフリカやアラビア半島に暮らす、ウサギほどのサイズの草食哺乳類です。
短い足と目立たない尾、がっしりした体型で、岩場のすき間に隠れて暮らします。
英名では「ケープハイラックス」、現地では「ダシー(dassie)」とも呼ばれ、日向ぼっこをしたり、身を寄せ合って眠ったりする姿が地元の人々に親しまれてきました。

しかし、彼らの習性のなかには“ユニークすぎる”ものがあります。
それが「お尻を地面にこすりつけて移動する」という行動です。
この行動は犬にも見られ、お尻についた寄生虫をこすり落とす目的があると言われています。
ただイワダヌキの場合、寄生虫の有無とは関係ないらしく、なぜお尻を引きずるのか、いまだによくわかっていません。
その一方で、砂地の上では、このユニークな行動が独特な線状の跡を残すことになるのです。
12万年前の「お尻引きずり痕」を発見
研究チームは南アフリカのケープ南海岸にて、長さ約95センチ、幅13センチの線状痕が刻まれた砂岩ブロックを発見しました。
この痕跡は、片端がはっきりとした盛り上がりを伴い、内部には5本の平行な筋が確認されました。
調査チームは形状・寸法・周辺環境・他の動物の痕跡などを総合的に検討。
その結果、「これはイワダヌキが地面にお尻をこすりつけて引きずった際にできた“お尻引きずり痕”の化石であり、おそらく世界初の発見である」と結論づけたのです。
【こちらがイワダヌキの残した「お尻の引きずり跡」とされる化石の画像】
この痕跡のすぐ横に見られる盛り上がりは、イワダヌキの糞が化石化した「コプロライト」である可能性も指摘されています。
つまり、イワダヌキは歩きながらお尻を引きずり、途中で“うんちの落とし物”までしていったのかもしれません。
チームはこの痕跡の発見に際し、ヒョウやゾウ、人類、他の動物や自然現象が生んだ可能性も慎重に検討しましたが、「お尻引きずり+糞化石」という組み合わせは、現生イワダヌキの行動習性と最もよく一致するものでした。
さらに、イワダヌキは長年同じ岩場に集団で排尿・排便することで、尿や糞が混ざり合い「ハイラシウム」と呼ばれる黒っぽい堆積物を形成します。
この堆積物は数万年単位で保存され、花粉や植物DNAなど古環境データの宝庫でもあり、気候変動や生態系の変化を読み解く“天然アーカイブ”となっています。
今回発見された「お尻引きずり痕」の化石は、ただ珍しいだけでなく、「動物のささいな日常行動も地層の中に残り、数万年後の科学者たちに“その生態”を伝える証拠になりうる」ということを教えてくれています。
参考文献
World’s first known butt-drag fossil trace was left by a rock hyrax in South Africa 126,000 years ago
https://phys.org/news/2025-10-world-butt-fossil-left-hyrax.html
元論文
The unusual, unique ichnology of the rock hyrax (Procavia capensis) and possible Pleistocene tracks and traces from South Africa
https://doi.org/10.1080/10420940.2025.2546373
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部