最近では「腸活」という言葉をよく聞くようになりました。
その一方で、腸内環境を整えるだけでなく、睡眠の質や美肌、快便にもつながる食品グループがあることをご存知でしょうか。
摂南大学の研究チームは最近、「発酵性食物繊維」を含む食品の摂取が、腸内細菌のバランスを改善し、便通だけでなく、肌の透明感や睡眠の質にも良い影響をもたらす可能性があることが明らかになりました。
では、この「発酵性食物繊維」とは具体的にどんな食べ物を指すのでしょうか?
研究の詳細は2025年9月5日付で科学雑誌『Microorganisms』に掲載されています。
目次
- 「発酵性食物繊維」とは?
- 「美肌」「快便」「快眠」が促される
「発酵性食物繊維」とは?
昔から「腸は健康の源」と言われてきましたが、近年では科学的にも、腸内細菌が免疫や代謝、さらには脳や皮膚の健康にまで関わることが次々と明らかになっています。
特に注目されているのが、腸内細菌が食物繊維を分解して生み出す“短鎖脂肪酸”という物質です。
短鎖脂肪酸は、腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑えたり、腸のバリア機能や蠕動運動(ぜんどううんどう:便を押し出す動き)を促したりするなど、腸そのものの健康に役立つことがわかっています。
さらに近年は、短鎖脂肪酸が血流に乗って全身に運ばれ、脳の働きや皮膚の状態にも影響を及ぼすという「腸–脳–皮膚軸」の考え方も提唱されており、「腸を整える=全身が整う」時代に入りつつあります。
こうした健康効果の鍵となるのが、発酵性食物繊維です。
発酵性食物繊維は、腸内細菌(特に善玉菌)がエサにしやすく、腸内で発酵・分解されることで短鎖脂肪酸を生み出します。
発酵性食物繊維は「水溶性食物繊維」や「難消化性でん粉(レジスタントスターチ)」などに多く含まれます。
善玉菌の種類や活動部位によって、発酵速度や効く場所が異なるため、いろいろな種類を組み合わせて摂ることが理想的です。
具体的な食品リスト
発酵性食物繊維は、私たちの身近な食品に多く含まれています。
例えば――
-
穀類:大麦、オーツ麦(オートミール)、小麦全粒粉、玄米
-
野菜・果物:バナナ、キウイ、玉ねぎ、ごぼう、らっきょう、とうもろこし、アボカド
-
豆類:大豆、小豆
-
海藻類:わかめ、昆布、ひじき
-
いも類:さつまいも、長いも
さらに、これらの食品には以下のような発酵性食物繊維成分が含まれています。
-
大麦、オーツ麦:β-グルカン
-
小麦全粒粉:アラビノキシラン
-
キウイ、柑橘類:ペクチン
-
バナナ、玉ねぎ、豆類:難消化性オリゴ糖
-
ごぼう、らっきょう:イヌリン
-
海藻類:アルギン酸
-
さつまいも、長いも:レジスタントスターチ
これらの食品を日常の食事に意識的に取り入れることで、腸内細菌のバランスを整え、全身の健康維持に寄与することが期待できます。
「美肌」「快便」「快眠」が促される
今回の臨床試験は、20〜50歳の健康な成人105人を対象に行われました。
試験は、発酵性食物繊維の摂取量が異なる2グループ(低摂取:2.2g/日、高摂取:8.2g/日)で比較。
介入期間は4週間。
腸内細菌叢、便通、睡眠、肌の状態など多角的に評価されました。
主な研究結果
-
便通とQOLの改善
摂取2週間後、低摂取・高摂取いずれのグループでも、便通や排便関連QOL(生活の質)が有意に改善。4週間で排便日数も増加しました。 -
肌の透明感の向上
低摂取グループでは2週間後に肌の透明感が「改善した」と感じる人が増加。高摂取グループでは2・4週間ともに有意な改善が認められました。 -
腸内細菌の“善玉菌”が増加
ビフィズス菌を筆頭に、短鎖脂肪酸を産生する有用菌が増加。他種の善玉菌との相乗効果も確認されました。 -
睡眠や肌との関連性も明らかに
増加した有用菌の占有率が高い人ほど、「起床時の眠気が少ない」「夜中に目覚めず眠れる」「疲労回復が良い」など、睡眠の質に関する指標も良好でした。
また、「シミ」「吹き出物」「鼻の周りの皮脂」など肌の悩みに関する指標とも有意な相関がありました。 -
摂取量と効果の違い
もともと食物繊維の摂取量が少ない人では、少しの追加摂取でも大きな効果がみられました。一方、もともと多く摂取していた人がさらに追加摂取(平均25g/日)した場合、腸内細菌叢の改善に加えて睡眠時間の延長も観察されました。
どれくらい食べればよいのか?
厚生労働省が定める食物繊維の目標摂取量は男性22g、女性18g/日です。
研究では、これらの目標量の80%以上(男性17.6g、女性14.4g)を摂れている人がより高い効果を示していました。
今回の研究で、「発酵性食物繊維」を多く含む食品グループを日常的に摂取することで、単なる「快便」だけでなく、「美肌」や「快眠」といった全身の健康効果も期待できることが示されました。
現代の食生活ではどうしても不足しがちな発酵性食物繊維ですが、オートミールや玄米、豆類や野菜、海藻、いも類などを意識して取り入れるだけで、腸内環境はもちろん、睡眠や肌のコンディションまで大きく変わるかもしれません。
参考文献
腸内環境を整えるだけではなく美容をサポートする働きに期待 ~発酵性食物繊維の摂取が睡眠の質や肌の状態にもつながる可能性~
https://www.setsunan.ac.jp/news/detail/7826
元論文
Effects of Dietary Fiber Supplementation on Gut Microbiota and Bowel Function in Healthy Adults: A Randomized Controlled Trial
https://doi.org/10.3390/microorganisms13092068
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部