恐竜時代の新たなミステリーが、スコットランド西部の小さな島で発見されました。
まるで「ヘビ」と「トカゲ」が合体したかのような不思議な姿を持つ、その生き物の名前は「ブリュグナサイル・エルゴレンシス(Breugnathair elgolensis)」。
この奇妙な古生物の化石が、約1億6000万年以上前のジュラ紀の地層からほぼ完全な形で見つかり、世界の古生物学者たちを驚かせています。
果たして、どんな生き物だったのでしょうか?
研究の詳細は2025年10月1日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。
目次
- スカイ島で見つかった“融合体”の正体
- 進化の迷宮、ヘビとトカゲの起源に迫る
スカイ島で見つかった“融合体”の正体
化石が発見されたのは、スコットランドのスカイ島。
この島は恐竜時代から続く化石の宝庫であり、ジュラ紀に生きたさまざまな動物の“進化の物語”が眠る場所として知られています。
今回の発見は、実に10年に及ぶアメリカ自然史博物館(AMNH)ら国際研究チームによる努力の結晶でした。
調査のきっかけは、ごく普通のフィールドワーク中の偶然でした。
水分補給の休憩を挟んだ直後、「もう見つからないだろう」という冗談まじりのやりとりの中で、たまたま一人の研究者が化石の断片を発見。
その小さな発見が、長い分析と調査のスタートとなりました。
最初、見つかった骨片は形も大きさもバラバラで、研究者たちは「2種類の有鱗目(トカゲやヘビの仲間)のものだろう」と考えていました。
しかし、CTスキャンやX線による詳細な解析を経て、それらが一体の生き物、つまりブリュグナサイル・エルゴレンシスの全身骨格であることが判明したのです。
【本種の復元イメージがこちら】
この生物は全長約40センチ。
猫ほどの大きさで、当時の生態系では最大級のトカゲだったと考えられています。
しかし、見た目はまさに「ヘビとトカゲの合体生物」。
顎はパイソンのように伸び、フック状の鋭い歯が並び、胴体は短く、四肢はヤモリのようにがっしりと発達しています。
チームによれば、湾曲した歯と強靭な顎で、小さなトカゲや原始的な哺乳類、さらには幼い恐竜まで捕食していた可能性が高いとされています。
進化の迷宮、ヘビとトカゲの起源に迫る
ブリュグナサイル・エルゴレンシスの発見が注目される理由は、その特異な姿だけではありません。
この古生物は「有鱗目(トカゲとヘビの総称)」の中でも非常に原始的な存在と見なされています。
古生物学者のロジャー・ベンソン博士(アメリカ自然史博物館)は「ブリュグナサイルは、歯や顎こそヘビ的ですが、それ以外は驚くほど原始的です」と語ります。
【本種の全身と口元の復元イメージがこちら】
つまり、ヘビの祖先像がこれまでの想像と大きく違っていた可能性や、あるいはヘビ的な捕食スタイルが別系統でも独立して進化していた可能性が示唆されているのです。
実際、B.エルゴレンシスが「ヘビの祖先」なのか、それともトカゲやヘビすべての祖先(基幹有鱗類)のひとつなのかは、まだ結論が出ていません。
化石記録が乏しいため、研究者たちも「この化石は進化の謎をかなり深くまで解き明かしてくれるが、全ての答えにはたどり着けない」と語っています。
それでも、本種のような“原始的かつ特殊な特徴のモザイク”が、新たな進化の可能性を示す重要な証拠であることは間違いありません。
参考文献
Researchers Discover New Species of Ancient Hook-toothed Reptile
https://www.amnh.org/explore/news-blogs/fossil-lizard
Cat-sized Jurassic reptile had the jaws of a python
https://www.popsci.com/science/jurassic-snake-ancestor-scotland/
元論文
Mosaic anatomy in an early fossil squamate
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09566-y
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部