成功者の結果だけに注目してはいけない理由【成果バイアスの罠】

ビジネスで大きな成功を収めた人の言葉は、どんなものでも正しいように聞こえます。

しかし、それは本当に正しい判断だったのでしょうか。

イギリスのランカスター大学(Lancaster University)の経済学者カルロス・アロス・フェラー教授は、「成果バイアス(Outcome bias)」という心理現象が、私たちの意思決定の評価を大きく歪めてしまうと警告しています。

目次

  • 成果バイアスとは? どうして危険なのか?
  • 研究が示す「成果バイアス」の証拠と、社会・自分への影響

成果バイアスとは? どうして危険なのか?

ビジネスやスポーツ、日常生活まで、私たちはよく「うまくいったから良い判断」「失敗したから悪い判断」と考えてしまいがちです。

たとえば、大胆な決断で成功した経営者の話は、ニュースや本で繰り返し語られます。そんな「成功者の言葉」は、なんとなく正しそうに感じてしまいます。

でも、ここにある心理現象による落とし穴があります。

成果バイアス(Outcome bias)とは、人の判断や決断の良し悪しを、その結果だけで評価してしまう心理のクセです。

しかしこれは非常に危険です。

たとえば、こんなサイコロの賭けを考えてみてください。

「サイコロを振って6が出れば10万円もらえる。ただし参加料は5万円。他の目なら何ももらえない」

冷静に計算すれば6分の1しか勝てず、ほとんどの人が損をする「割の悪い賭け」です。

では、たまたま6を出して勝った人が「この賭けは最高だった!」と語れば、 まわりの人も「やっぱり思い切った行動が大事なんだ」と信じてしまうでしょうか。

「そんなことはない」と感じる人がほとんどでしょう。

しかし、状況がより複雑なビジネスの世界では、成果バイアスに抗うのは簡単ではありません。

たとえば、600人もの経営者が、深く調べもせずに大胆な事業投資をしたとします。

500人は失敗しその会社は倒産してしまいますが、100人は運よく成功し、その会社は一時的に大儲けしました。

そしてそれらの経営者だけがメディアに取り上げられ、彼らの手法がさも良かったように語られます。

この「成功した経営者」の言葉の影響を受けないようにすることは、簡単ではりません。

では、私たちがメディアでいつも見ている成功者たちは、本当の成功者でしょうか。

それともたまたま成功した人たちでしょうか。

このように、運よくうまくいった例ばかりに目を向けると、 「本当に良い決断」や「再現性のある考え方」が見えにくくなってしまいます。

こうした成果バイアスの影響は、実際の研究でも確かめられています。

研究が示す「成果バイアス」の証拠と、社会・自分への影響

1988年の研究(Baron & Hershey)は、意思決定のプロセスが同じ場合でも「結果が良かった方が高く評価される」ことを実験で示しました。

どう考えて決めたかよりも、「どうなったか」だけが重視されるのです。

また2001年の研究(Bertrand & Mullainathan)では、経済学者たちが石油業界の傾向を調査しました。

その結果、 CEOの給料が実力以外にも、「原油価格の変動」に大きく左右されていることが明らかになりました。

つまり、経営判断の腕ではなく、運によって報酬が上がっていたのです。

さらに別の分野でもこの傾向は明らかです。

2019年の研究(Kausel et al)は、PK戦(通常の試合形式より運の要素が強い)で勝利したサッカー選手はパフォーマンス評価が高まると分かりました。

しかもPK戦に直接関わっていない選手まで、「チームが勝った」だけで高評価を受けていました。

このように成果バイアスは、いろんな場面で「本当の貢献」と「評価」をずらしてしまいます。

このバイアスが社会に広がると、どんな問題が起こるでしょうか?

まず、堅実で論理的な判断や、地道な努力は目立たず評価されにくくなります。

たとえば、危機のときにリスクを避けて会社を守った経営者は、大きな成果がなくても「安全に乗り切った」という事実がちゃんと評価されるべきです。

しかし現実は、無謀な賭けで偶然大成功した人の話ばかりが“美談”になりやすいのです。

さらに、成果バイアスは「自分自身の判断」にも影響します。

結果が良ければ「自分の判断は完璧だった!」と思いやすく、 逆にうまくいかなければ「自分にはセンスがない」と落ち込むことも増えます。

本当は、良い判断でも運が悪いと失敗し、悪い判断でも運が良ければうまくいくことがあります。

だからこそ私たちが人や特定の判断を評価するとき、その裏にどんな考え方やプロセスがあったのかにも注目することが大切です。

「運が良かっただけ」の成功談に振り回されず、「なぜその判断になったのか」「他の場面でも再現できるのか」という視点を持つことが、 本当に信頼できる人や判断を見抜く力につながります。

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参考文献

Why You Shouldn’t Judge Decisions by Results Alone
https://www.psychologytoday.com/us/blog/decisions-and-the-brain/202509/why-you-shouldnt-judge-decisions-by-results-alone

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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