日常生活でよく笑うと「うつ」になりにくくなると判明

うつ病

日常の中で自然に生まれる「笑い」が、実はあなたの心の健康を大きく左右している。

そんな驚きの研究結果が、東北大学大学院歯学研究科により報告されました。

日本の高齢者を対象とした大規模調査により、「ほぼ毎日笑う人」は「ほとんど笑わない人」と比べて、6年後にうつ状態になるリスクが約1.5倍も低いことが明らかになったのです。

この発見は、これまで短期的な介入や一時的な「笑い療法」にとどまっていた知見を大きく前進させるもの。

「自然な笑い」の積み重ねが、将来の心の健康を守る鍵になるかもしれません。

研究の詳細は2025年9月9日付で学術誌『Journal of Affective Disorders』に掲載されています。

目次

  • 「笑い」と「うつ」の関係とは
  • 「笑わない」人はうつリスク1.5倍に

「笑い」と「うつ」の関係とは

「よく笑う人は心が健康」――そんな話を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

しかし、これまでの研究では「笑わないからうつになるのか」「うつだから笑えなくなるのか」という因果関係がはっきりしていませんでした。

そこで注目されたのが、日本老年学的評価研究(JAGES)による大規模追跡調査です。

研究チームは、全国の65歳以上の高齢者約3万2000人を対象に、2016年から2022年まで6年間にわたって調査を実施しました。

調査では、参加者に「普段の生活で、声を出して笑う機会はどれくらいありますか?」と質問。

その回答を「ほぼ毎日」「週に1~5回」「月に1~3回」「ほとんどない」の4つに分類し、その後6年間で新たにうつ状態になったかどうかを判定しました。

うつ状態の評価には、国際的に用いられる「老年期うつ病評価尺度(GDS)」を使用。

5点以上を「うつ」と判定し、調査開始時点ですでにうつ傾向がある人は分析対象から除外しました。

この方法により、「笑いが少ないからうつになるのか」という“順番”の問題や、もともと心の健康がすぐれない人が笑えなくなるだけではないか、という従来の疑問点を克服した設計となっています。

「笑わない」人はうつリスク1.5倍に

研究の結果は明快でした。

6年間の追跡期間中、参加者のうち約15%(4805人)が新たにうつ状態に陥りました。

「ほぼ毎日笑う」グループと比べ、「週に1~5回」笑う人のうつリスクは1.25倍、「月に1~3回」では1.26倍、そして「ほとんど笑わない」人は1.49倍も高いという結果になったのです。

つまり「笑う頻度が低いほど、将来うつになるリスクが高くなる」という、明確な“用量反応関係”が確認されました。

この傾向は年齢や性別、経済状況、生活習慣病、社会参加など、さまざまな要因を統計的に調整した後でも揺るぎませんでした。

さらにチームは、笑いが心の健康に与えるメカニズムにも注目しています。

笑いにはストレスホルモンを減少させたり、免疫機能を高めたりする効果があるほか、友人や家族とのコミュニケーションを通じて「社会的つながり」を強め、孤独感や不安を和らげる働きも期待されています。

つまり「よく笑う人」は、日常の小さな楽しみを共有したり、社会とつながる機会が多いことで、うつ病の予防につながっている可能性が高いのです。

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Credit: canva

「笑い」が心のバリアに

今回の研究は、「よく笑うこと」が単なる気分転換にとどまらず、将来的なうつ予防に実際に役立つことを初めて大規模かつ長期間のデータで証明しました。

特別なユーモアや笑いのセンスは必要ありません。

友人や家族と楽しい話をしたり、ちょっとしたことで声を出して笑う――そんな毎日の小さな習慣こそが、心の健康を守る“バリア”になり得るのです。

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参考文献

日常生活でよく笑う人はうつになりにくい ~毎日笑う人と比べて、ほとんど笑わない人は抑うつ状態に至るリスクが1.5倍~
https://www.dent.tohoku.ac.jp/news/view.html#!1248

元論文

Frequency of laughter and depression onset among older adults: A 6-year longitudinal study from the Japan Gerontological Evaluation Study
https://doi.org/10.1016/j.jad.2025.120209

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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