青く澄んだニューカレドニア沖の海で、科学者たちは誰も見たことのない「サメの交尾」をカメラに収めました。
そこに映っていたのは、2匹のオスと1匹のメス、計3匹のヒョウザメ(Leopard shark)が繰り広げる連続交尾の一部始終です。
この貴重な映像は「サメの交尾は謎だらけ」といわれてきた科学界に新たな一石を投じました。
研究の詳細は2025年9月18日付で科学雑誌『Journal of Ethology』に掲載されています。
目次
- 目撃された“3匹の交尾”、野生のサメの知られざる繁殖戦略
- なぜ「2匹のオス+1匹のメス」? 進化と多様性の“秘密戦略”
目撃された“3匹の交尾”、野生のサメの知られざる繁殖戦略
豪サンシャインコースト大学(USC)の研究チームは、1年間にわたり、南太平洋ニューカレドニア沖のアボレ礁でヒョウザメの生態を調査していました。
これまでにもオスがメスを追いかける場面や、交尾直後の様子を見たことはありましたが、「交尾の最初から最後まで」を目撃できたのは今回が初めてだったといいます。
2023年、チームは偶然にも海底で「2匹のオスが1匹のメスの胸ビレをつかむ」という珍しい状況を目にします。
驚かせないようボートを遠ざけ、水面でじっと観察を続けること1時間。
ついに3匹のヒョウザメが動き出し、最初のオスが約63秒、次のオスが47秒かけてメスと交尾を行いました。
実際の映像がこちら。(※ 音量に注意してご視聴ください)
交尾後、オスたちは力尽きて海底に横たわり、メスだけが活発に泳ぎ去ったといいます。
3匹とも体長約2.3メートルで、ヒョウザメとしては成体の平均的な大きさです。
「野生のサメの交尾自体が極めて珍しい観察ですが、絶滅が危惧されている種でそれを映像に収められたのは本当にエキサイティングでした」と研究者は語っています。
なぜ「2匹のオス+1匹のメス」? 進化と多様性の“秘密戦略”
今回観察された「2匹のオスと1匹のメスの連続交尾」は、単なる偶然ではなく、ヒョウザメが生き残るための進化的な戦略である可能性が示唆されています。
ヒョウザメは、個体数の減少時には「単為生殖(パルテノジェネシス)」、つまりはオスなしで卵を産むことができる特殊な能力も持っています。
しかし、単為生殖は遺伝的な多様性が低下するリスクがあり、種としての生き残りには「多様な遺伝子」を維持することが不可欠です。
そこで重要になるのが、「複数のオスによる交尾」です。
複数のオスが1匹のメスと交尾することで、複数の精子が競争し、遺伝的多様性が高まる可能性があります。
実際に、サメの中には「卵管腺」という特殊な器官に精子を長期間保存し、最適な時期に受精できる種も存在します。
メスはこうした仕組みを活用して、より多様な遺伝子を持つ子孫を残す戦略をとっているのです。
今回の観察地となったニューカレドニア沖は、ヒョウザメにとって重要な「繁殖場」である可能性が高いと研究者は指摘します。
この場所を保全することで、ヒョウザメ全体の個体群や遺伝的多様性を守ることにもつながるのです。
参考文献
Leopard Shark ‘Three-Way’ Caught on Tape in a Scientific First
https://www.sciencealert.com/leopard-shark-three-way-caught-on-tape-in-a-scientific-first
Leopard shark sex tape: a scientific first
https://www.usc.edu.au/about/unisc-news/news-archive/2025/september/leopard-shark-sex-tape-a-scientific-first
元論文
Observation of group courtship/copulating behavior for free-living Indo-Pacific Leopard sharks, Stegostoma tigrinum
https://doi.org/10.1007/s10164-025-00866-4
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部