「自分は社会的に上の立場だ」と感じている人。
皆さんのまわりにも、どこか自信に満ちた自称ハイスペックな人はいませんか?
お金持ちやエリート、あるいは会社で役職についている人など、現代社会では社会的地位が高い人ほど羨ましがられがちです。
しかし米デューク大学(Duke University)の最新研究で、「自分の社会的地位が高い」と感じている人ほど、意外な“ある能力”が低くなっている可能性が示されました。
その能力とは「他人の感情を読み取る力」でした。
実は自信満々な人ほど、他人の気持ちを察するのが苦手なのかもしれません。
研究の詳細は2025年5月17日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 高い社会的地位と「感情を読み取る力」の意外な関係
- なぜ「自称ハイステータス」な人は共感力が低くなるのか?
高い社会的地位と「感情を読み取る力」の意外な関係
アメリカの研究チームが行った最新の心理学調査によると、「自分の社会的地位が高い」と思っている人ほど、他者の感情を読み取る能力が低くなっていたことが明らかになりました。
研究を行ったのは、ヴィクトリア・K・リー氏らのチームです。
彼らは1197人のアメリカ在住の成人(参加者の平均年齢は38歳、男女比は半々)を対象に、オンラインでさまざまな心理テストを実施しました。
参加者はまず、写真に映る人物の表情から「今どんな感情を抱いているか」を推測するテストを受けました。
これは相手の喜怒哀楽を“表情から見抜く”力を測定するものです。
次に、参加者自身の社会的地位について、「自分はどれくらい社会で成功しているか」「人生で地位が上がったと感じるか」といった主観的な評価も行いました。
その結果、「自分の社会的地位が高い」と感じている人ほど、他者の感情を正確に読み取る力が低い傾向が見られたのです。
この傾向は「グループ全体の感情」や「物の特徴を見抜く力」にはあてはまりませんでした。
あくまで“個人の気持ちを読み取る能力”だけが、主観的な社会的地位と反比例していたのです。
なぜ「自称ハイステータス」な人は共感力が低くなるのか?
なぜ自分を“ハイステータス”と感じている人は、他人の感情を読むのが苦手なのでしょうか?
研究チームは、社会的地位と人間の進化・心理に着目しています。
人間は昔から、集団の中での地位や立場が生き残りに大きく関わってきました。
社会的地位が低い人は、周囲の空気や他人の表情を敏感に察知する必要がありました。
なぜなら、資源や安全を確保するには、他人の意図をうまく読み取り、上手に立ち回る力が欠かせなかったからです。
一方で、地位が高い人は自分の意見や行動が周囲に受け入れられやすく、細かく他人の感情を察知しなくても、困ることは少なかったと言えます。
現代社会でもこの傾向は続いており、低い地位にある人ほど「空気を読む力」や「人の気持ちを察する力」を強く求められがちです。
逆に、社会的な成功や自信が高まると、自分中心の視点が強くなり、他人の感情を読み取る力がさびついてしまう――。
今回の研究は、そんな人間社会の“皮肉な一面”を科学的に証明したと言えそうです。

今回の研究は、「社会的地位」と「他人の気持ちを読み取る能力」の意外な関係性に光を当てました。
もちろん、これは写真に写った人物の感情を判断する“実験上の結果”であり、現実の人間関係すべてに必ず当てはまるとは限りません。
しかし、自信や地位を得ることで、知らず知らずのうちに「人の気持ちに鈍感」になってしまうのかもしれません。
参考文献
Individuals perceiving their social status as higher tend to be worse at perceiving emotions of others
https://www.psypost.org/individuals-perceiving-their-social-status-as-higher-tend-to-be-worse-at-perceiving-emotions-of-others/
元論文
Higher self-assessed subjective social status is associated with worse perception of others’ emotions
https://doi.org/10.1038/s41598-025-01493-2
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部