大豆の「青臭さ」を抑える研究で成果。大豆の風味の改善は必要?

大豆はアジアで何世紀も前から日常的に食べられてきました。

豆腐や納豆、味噌、しょうゆなど、日本の食卓にも欠かせない存在です。

しかし今、アメリカのミズーリ大学コロンビア校(UMC)などの研究チームが「大豆の青臭さを抑える」品種改良に取り組み、国際的な注目を集めています。

この研究では、成分分析技術と専門パネルによる官能評価を組み合わせて、“豆特有の青臭さを抑えたマイルドな風味”の大豆を開発する道筋が示されました。

研究成果は2025年7月1日付で科学誌『Food Chemistry』に掲載されています。

目次

  • 味を変える必要がある? 大豆の“青臭さ”の正体と文化のギャップ
  • 4品種の“生大豆ペースト”を徹底評価。「スーパー大豆」は最も青臭さがない

味を変える必要がある? 大豆の“青臭さ”の正体と文化のギャップ

日本では、豆腐や豆乳などの“豆らしい風味”は親しみのある味として受け入れられています。

一方、欧米ではこの風味が「不快な香り」「青臭い」とみなされることがあり、豆乳や豆腐の普及を妨げる要因となってきました。

もちろん、単なる文化の違いだけでなく、個人差も大きいはずです。

日本人でも大豆が苦手だと感じる人は、特に「大豆の青臭さ」が気になるかもしれません。

では、この「豆の青臭さ」そのものはどのように生じているのでしょうか。

大豆に豊富に含まれる多価不飽和脂肪酸は、「リポキシゲナーゼ(LOX)」という酵素の働きで分解される際、「ヘキサナール(hexanal)」をはじめとする20種類以上の揮発性化合物が生じます。

ヘキサナールはごく微量でも“刈りたての芝生”のような青臭さを感じさせ、これが豆乳や豆腐の独特の香りの主な原因となります。

大豆の細胞が傷ついたり、水に浸してすりつぶしたりすると、酵素が一気に脂質と反応し、大豆特有の“豆臭さ”“青臭さ”が強まるのです。

つまり、これらの成分に対応すれば、大豆の「青臭さ」を抑制できます。

そして研究者たちは、「どうすれば豆特有の青臭さを抑えたマイルドな風味の大豆ができるか」を追求してきました。

その方法の一つは脂質組成を変えることです。

高オレイン酸・低リノレン酸の大豆(HOLL)は酸化しにくく、「不快な風味」の原因にもなりにくいとされます。

もう一つはリポキシゲナーゼ自体を持たない品種(LOX-null)を育種すること。

また、消化不良を起こしにくい、難消化性オリゴ糖を減らした大豆(ULRFO)も開発されています。

そして研究チームは、これらの改良大豆の味や香りを実際に検証しました。

4品種の“生大豆ペースト”を徹底評価。「スーパー大豆」は最も青臭さがない

研究チームは、①従来型、②HOLL(高オレイン酸・低リノレン酸)、③Tiger(HOLL+難消化性オリゴ糖低減)、④Super(HOLL+難消化性オリゴ糖低減+リポキシゲナーゼ欠失)の4品種を同じ条件で栽培しました。

そして、それぞれの大豆を「生の大豆をすりつぶして水と混ぜた“生大豆ペースト”」の状態にして、タンパク質・脂質・糖質・繊維などの栄養成分を分析。

ガスクロマトグラフィーなどで21種類の揮発性成分を測定し、9人の専門的な味覚評価者(パネリスト)が、色・香り・味など12項目で官能評価を行いました。

その結果、従来型は「塗料のような独特のにおい(不快な香り)」やヘキサナールを最も多く含み、クセが最も強いことがわかりました。

一方、HOLLやTigerはこのクセがかなり抑えられ、Superに至っては「エンドウ豆のような」マイルドな香りと滑らかな味わいで、不快な香りが最も少ないことが示されました。

つまり、いくつかの要素を詰め込んだ”スーパー大豆”は揮発性の不快な香り成分と官能特性の両面で従来品種より良好な結果を示したのです。

この研究は、「生の大豆ペースト」という加工前の段階で、どの品種がどれだけ青臭さを持つのかを示した点で興味深いものです。

特にSuperのような青臭さが抑えられたマイルドな大豆は、豆乳や豆腐、代替肉、スナック菓子など幅広い食品に活用しやすくなり、従来は敬遠されがちだった欧米の消費者にも受け入れられる可能性があります。

今後は、このSuper品種などを実際に豆乳や豆腐、植物性タンパク食品などに加工し、「加工後にも美味しさやマイルドさが保たれるか」を検証する研究が進められる予定です。

「大豆の味を改良する必要はあるのか?」という問い答えは一つではありません。

伝統の“豆らしさ”を残す食品と、青臭さを抑えたマイルドな大豆を使う新しい食品。

それぞれの良さを活かしながら、共存と使い分けによって、私たちの食卓はさらに豊かになっていくはずです。

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参考文献

Scientists strive to make soybeans taste better
https://newatlas.com/science/soybeans-improve-taste/

Mizzou researchers enhancing soybean taste to win over more consumers
https://showme.missouri.edu/2025/mizzou-researchers-enhancing-soybean-taste-to-win-over-more-consumers/

元論文

Novel soybean type with improved volatile and sensory characteristics of raw soy slurries
https://doi.org/10.1016/j.foodchem.2025.145253

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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