今から約6600万年前、巨大隕石の衝突によって恐竜は地球上から姿を消しました。
私たちはその出来事を「生物の大量絶滅」として記憶していますが、実は失われたのは恐竜だけではありません。
恐竜が絶滅した後、地球の「景色」そのものが劇的に変化していたのです。
米ミシガン大学(UM)の研究によると、恐竜がいなくなった瞬間から森林は一斉に繁茂し、川の流れ方や地形の姿が根本から変わっていったことが、地質記録に刻まれていたといいます。
恐竜は単なる巨大な生物ではなく、生態系全体を形作る「エコシステム・エンジニア」だった可能性が浮かび上がってきました。
研究の詳細は2025年9月15日付で科学雑誌『Communications Earth & Environment』に掲載されています。
目次
- 恐竜が作っていた景色、いなくなったあとの景色
- 恐竜は生態系の「エンジニア」だった
恐竜が作っていた景色、いなくなったあとの景色
研究チームが注目したのは、恐竜時代から哺乳類時代へ移り変わる「白亜紀–古第三紀境界(K-Pg境界)」と呼ばれる地層の変化でした。
アメリカ西部のモンタナ州やノースダコタ州に広がる「ウィリストン盆地」では、恐竜絶滅の前後で岩石の姿が一変していました。
恐竜時代の地層は、水浸しの土壌や、氾濫原の縁にある泥っぽい地形を示していました。
しかし絶滅後に堆積した「フォートユニオン層」は、まるでパジャマの縞模様のように色鮮やかな層が積み重なっていたのです。
当初、これらは「海面上昇によってできた池の跡」と考えられていました。
しかし調査を進めた結果、実際には「大きく蛇行する川の内側にできる堆積物」だと判明しました。
つまり、恐竜絶滅の直後から川の姿そのものが変わり始めていたのです。
【恐竜がいなくなった後(上)と恐竜がいたころ(下)の生態系のイメージ画像がこちら】
なぜ川が蛇行するようになったのでしょうか。
カギを握るのは「森林」でした。
恐竜が生きていた時代、彼らは巨体で森をなぎ倒し、樹木の間を開けた空間をつくっていました。
そのため景色は草や雑草に覆われ、川も広がりやすく、自由に流れていたのです。
ところが恐竜が消えた瞬間、森林は爆発的に繁茂しました。
根を張った木々は土壌を安定させ、水の流れを狭い川筋に閉じ込めるようになり、川は次第に大きく蛇行していったのです。
この変化は地質記録にもはっきりと刻まれています。
絶滅直後の地層には「リグナイト(亜炭)」と呼ばれる低品質の石炭層が多く見つかります。
これは有機物が洪水で流されずに蓄積した証拠であり、森林による土壌安定が川の氾濫を抑えていたことを示しています。
恐竜は生態系の「エンジニア」だった
恐竜の絶滅が隕石衝突によるものであることは広く知られています。
今日のメキシコ・ユカタン半島付近に落ちた「チクシュルーブ隕石」は、地球全体にイリジウムを含む薄い層を残しました。
これは地質学者たちがK-Pg境界を特定する「イリジウム異常」と呼ばれる痕跡です。
チームは、ワイオミング州ビッグホーン盆地の地層から、このイリジウム異常を含む赤い粘土層を発見しました。
それは恐竜の地層と哺乳類の地層のちょうど境目にあり、恐竜絶滅と景観の変化が同時に起きたことを示していました。
【恐竜亡き後(上)と恐竜がいた頃(下)の景観のイメージ画像がこちら】
では、なぜ景色がここまで急激に変化したのでしょうか。
研究者は、現代のゾウがアフリカのサバンナを形作っている例を引き合いに出します。
ゾウは木を倒し、草原を保つことで生態系を作り替えています。
同じように、恐竜も地球規模で景観をコントロールしていた「エコシステム・エンジニア」だったと考えられるのです。
恐竜が消えたことで、地球の景色は一変しました。
森は繁茂し、川は蛇行し、風景はまったく異なる姿になったのです。
かつて恐竜が押し広げていた草原や湿地は、静かに森へと飲み込まれていきました。
この研究が示すのは、生命そのものが景観を変える力を持ち、絶滅という出来事が地球の顔を一瞬で塗り替えることもあるという事実です。
参考文献
Your ecosystem engineer was a dinosaur
https://news.umich.edu/your-ecosystem-engineer-was-a-dinosaur/
元論文
Dinosaur extinction can explain continental facies shifts at the Cretaceous-Paleogene boundary
https://doi.org/10.1038/s43247-025-02673-8
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部