太陽が未知の理由で「11年周期」の予想を超えた活動増加を示している

私たちの暮らしや地球環境に大きな影響を与えている太陽は、「約11年周期で活動を強めたり弱めたりしている」ことが知られています。

低緯度でもオーロラが観測されたり、太陽嵐によって通信障害が起きたりするのも、この太陽活動のリズムが関係しています。

ところが最近、太陽活動がこうした周期では説明できない動きを見せていることが明らかになりました。

2008年以降、太陽から吹く風(太陽風)や磁場などの指標が、11年周期で予想される活動の上限よりも高い状態に移行しているというのです。

この現象に注目したのは、NASAジェット推進研究所とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームです。

太陽はなぜ今までのリズムを超えて活動を強めているのでしょうか? NASAはその理由は解明できていないと述べていますが、このまま続けば地球や太陽系全体にもさまざまな影響があるかもしれません。

今回の研究の詳細は、2025年9月に科学雑誌『The Astrophysical Journal Letters』に掲載されています。

目次

  • 実は観測史上最も弱いサイクルに入っている太陽
  • 上限解放した太陽の不可解な活動増加

実は観測史上最も弱いサイクルに入っている太陽

太陽は、約11年ごとに活動が活発になったり静かになったりする「太陽活動周期(Solar Cycle)」というリズムを持っています。

このリズムは、太陽の表面に現れる黒点の数が増えたり減ったりする現象として観察できます。

黒点が多い時期は太陽から出るエネルギーや風(太陽風)が強くなり、地球ではオーロラがよく見えたり、通信機器への影響が出たりすることがあります。

この11年周期は今から約180年前に、ドイツの天文学者ハインリッヒ・シュワーベ(Samuel Heinrich Schwabe)によって発見されました。

それ以降、世界中の科学者が黒点の数や太陽風の強さを観測し続け、「太陽はまるで呼吸しているかのように11年周期でリズムを刻んでいる」と分かってきました。

さらに現代では、太陽にはこの11年周期以外にも、もっと「長期的な変化」があることがわかっています。

例えば17世紀後半(1645年から1715年の約70年間)太陽に黒点がほとんど見られず太陽活動が非常に低下した「マウンダー極小期」と呼ばれる時代があったことが知られています。このときは地球全体の気温が下がる“ちいさな氷河期(小氷期)”が起きていました。

また、19世紀初めにも「ダルトン極小期」と呼ばれる、やはり太陽活動が低下した時代がありました。

そして実は現代も、1990年代から2008年の観測結果で太陽活動が弱まる流れが報告されており、「宇宙時代(人工衛星観測が始まった時代)以降で最も弱いサイクル」だと言われているのです。

そのため、専門家の間では「太陽はまた長い静かな時期に入るのかもしれない」と予想されていました。

2025年現在は、11年周期でいえば太陽は活動が強まる時期に当たっています。しかし長期的な傾向としては11年周期で最大になる活動の上限自体は下がっていたのです。

ところがNASAの最新の観測結果は、この予想からは説明のつかない太陽活動が示されました

今回の研究では、NASAの人工衛星が集めた「ラグランジュ点L1」と呼ばれる場所でのデータ(OMNI-2データ)を使い、太陽風や磁場の記録を2008年から2025年まで16年分にわたって詳しく分析しました。

黒点の数だけでなく、太陽風のスピード・濃さ(密度)・温度、そして「動圧(太陽風の強さ)」や「エネルギーの流れ(エネルギー流束)」など色々な指標を組み合わせ、太陽活動の変化を細かくチェックしています。

その上で「短い変動」に惑わされないように、太陽が1回自転するごとに平均をとって、“太陽全体の長期的な傾向”をなるべく正確につかむよう工夫しています。

こうした詳細な長期観測は一体何を報告したのでしょうか。

上限解放した太陽の不可解な活動増加

分析の結果、2008年以降、太陽は「これまでにない変化」を見せ始めました。

太陽の11年周期の活動上限は長期的な活動サイクルや傾向から決まっていますが、2008年以降その上限が従来予想より高まっていて、太陽活動が想定以上に強くなっていたのです。

たとえば――

  • 太陽風の速さはおよそ6%速くなり、

  • 含まれる粒子の数(濃さ)は26%も増え、

  • その粒子の熱さ(温度)も29%上がっていました。

さらに、太陽風が地球などにぶつかる「圧力(動圧)」は34%増加し、粒子が持つ「熱の圧力(熱圧)」も45%増えています。また、流れ込むエネルギーの量(エネルギー流束)は40%、運ばれる質量(質量流束)も27%増えていました。

数字だけ並べると難しく感じますが、要するに太陽から吹き出す風が“速く・濃く・熱く”なり、それが地球や惑星にぶつかる圧力や、運ばれるエネルギー量も大きくなっているということです。

これまでの太陽活動は、周期ごとに強くなったり弱くなったりしながら、全体としては“徐々にパワーダウン”していました。ところがその流れが、不可解な形で2008年以降逆転していたのです。

今回の研究で大きなポイントは、「なぜ太陽が今、少しずつ活動を強めているのか、その理由が分かっていない」という点です。11年ごとのリズムや黒点の増減だけでは説明できない、もっと長いスパンで変動する“謎の仕組み”が太陽にはあるのかもしれません。

また、論文では太陽風の長期的な増加は、単なる観測データの変化にとどまらず、惑星の磁気バリアの大きさ太陽系全体を包むバリア(ヘリオスフィア)の広さにまで関係しているため、今回のような太陽の変化は地球規模を超えて太陽系全体の姿を変えるかもしれないと述べられています。

太陽活動の不可解な増加傾向は温暖化と関係するのか?

このような太陽活動の不可解な増加という話を聞くと、昨今の地球温暖化の原因と結びつけて考える人も多いかもしれません。

確かに歴史的には、太陽の活動が低下した時期と地球の気温が下がった「小氷期」が同じ時期に起きているため、太陽活動が地球の気温に影響しているという予想は自然なものです。

ただ科学的には、太陽活動と小氷期の関連は偶然の一致の可能性もあり、直接の因果関係自体は明確に示せていません。

そのため、今回の研究はあくまで「太陽風」や「磁場」といった宇宙空間の変化を報告しているだけであり、それが地球の気温や気候変動と関係しているか、という点までは検証されていません

現代の温暖化の主な原因は、人間の活動による温室効果ガス(二酸化炭素など)が中心だと多くの科学者は考えています。

太陽活動の変化が地球の気温にどれだけ影響しているかは、今後さらに詳しい研究が必要なようです。

この“ゆるやかな増加傾向”がこのまま続くのか、それとも落ち着いていくのかはまだ分かっていません。太陽には私たちがまだ知らない隠れたリズムや新しい仕組みがあるのかもしれません。

研究チームは、これからも太陽活動を継続的に観測し、この変化の正体を解き明かそうとしています。

太陽は地球や私たちの暮らしにとって、とても大切な存在ですが、まだまだ多くの謎に包まれているのです。

全ての画像を見る

元論文

The Sun Reversed Its Decades-long Weakening Trend in 2008
https://doi.org/10.3847/2041-8213/adf3a6

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました