「最近なんだか体が重い」「どこも悪くないのに、なぜか痛みが続く」
そんな体の不調に、実は「孤独感」が関わっているかもしれません。
英ロンドン大学(UoL)の研究チームは、世界139カ国・25万人超を対象とした大規模調査を実施。
その結果、「孤独を強く感じている人は、体の痛みを感じるリスクが2倍以上になる」という驚きの事実が明らかになりました。
研究の詳細は2025年8月20日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- 孤独が「痛み」とつながる理由
- 「孤独」は“人とのつながり不足”だけじゃない
孤独が「痛み」とつながる理由

この研究では、2023年と2024年の「ギャラップ・ワールド・ポール」から15歳から100歳までの25万6760人分のデータが分析されました。
調査の結果、孤独感が強い人は、そうでない人に比べて「身体的な痛みを感じるリスクが2.14倍」も高くなっていました。
さらに、孤独な人は健康問題を抱える割合も約2倍、心理的な苦痛を感じている割合も25.8%高いことがわかりました。
なぜ、「孤独」は「痛み」とつながるのでしょうか?
チームは、この関連に影響する要因を詳しく分析。
すると、「心理的な苦痛(不安や抑うつ、ストレスなど)」が、孤独と痛みのつながりのうち6割以上を説明できることが判明しました。
つまり、「孤独による心の苦しさ」が、やがて身体的な痛みや不調へと影響を及ぼしているのです。
実際、孤独を感じる人は、失業やパートタイム就労、低所得、学歴の低さといった「社会経済的な不利」にも直面している傾向があり、これらも体の痛みリスクを高めている要因として指摘されました。
しかし、こうした経済的・社会的な要因の影響は全体の1〜2割ほどで、最大の影響を与えていたのは「心理的苦痛」でした。
さらに、調査では「女性でより顕著」「全年齢層で共通」「国や文化によって強さは異なる」といった傾向も明らかになりました。
高齢者は孤独・痛み・健康問題を経験しやすいものの、「孤独と痛み」の関係自体は若者でも大人でも見られました。
「孤独」は“人とのつながり不足”だけじゃない

孤独=「一人ぼっち」「話し相手がいない」というイメージが強いですが、実際には「周りに人がいても孤独を感じる」ケースが多いことも研究から判明しています。
たとえば、孤独感を感じている人の中にも「頼れる友人や家族がいる」「人と会う機会に満足している」と答える人が少なくありませんでした。
それでも「体の痛み」との関連は残っていたのです。
つまり、「孤独」は単なる人間関係の問題ではなく、「心の満たされなさ」や「社会とのつながり感の質」が大きく影響していることが示唆されます。
この「質」の問題は、文化や社会構造、期待値などによっても左右されることが、国ごとの調査結果の違いからも示されています。
また、孤独を感じる人は独身・離別・死別の割合が高く、経済的に困窮している傾向もありましたが、これらの要素だけで説明できない「孤独ならではの痛みのリスク」が存在していることもわかっています。
チームは「孤独は多面的なグローバル・ヘルス課題」であり、「社会的つながりを増やす」だけでなく、「心理的苦痛へのケア」や「社会的・経済的不平等の是正」も同時に必要だと提言しています。
参考文献
Loneliness doubles risk of physical pain, study suggests
https://medicalxpress.com/news/2025-09-loneliness-physical-pain.html
元論文
The association between loneliness and pain, and the role of physical health and distress: an analysis in 139 countries
https://doi.org/10.1038/s41598-025-15151-0
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部