ハンバーガーやフライドポテトなど、私たちの身近にあふれるジャンクフード。
忙しい現代社会ではつい手軽に選びがちですが、実はこれらの食事が、脳の「記憶力」に深刻なダメージをもたらす可能性があることが、米ノースカロライナ大学(UNC)の最新研究で明らかになりました。
たった数日ジャンクフード中心の食事を続けるだけで、脳の中で“記憶をつかさどる神経回路”に異変が起き、将来的な認知症リスクまでも高める危険性があるというのです。
では、なぜジャンクフードはこれほどまでに脳に悪影響を及ぼすのでしょうか?
研究の詳細は2025年9月11日付で科学雑誌『Neuron』に掲載されています。
目次
- 「脳の記憶回路」を壊すジャンクフードの作用
- 「たった数日」で記憶力低下、“回復の道”も明らかに
「脳の記憶回路」を壊すジャンクフードの作用
まず、今回の研究で着目されたのは、脳の記憶の司令塔ともいえる「海馬」です。
海馬は、体験したことを記憶として保存したり、必要な情報を呼び出したりする重要な役割を担っています。
研究チームは、マウスにハンバーガーやフライドポテトに代表されるような「高脂肪・高カロリー」のジャンクフードを与え、その脳の変化を詳しく観察しました。
その結果、海馬の中にある「CCK介在ニューロン」と呼ばれる特殊な神経細胞の集団が、ジャンクフードを食べた直後から“異常に活性化”してしまうことが判明したのです。

それはわずか4日間という短期間の食事でも、記憶を支える神経回路に強いダメージが現れるという、驚くべき結果でした。
この異常は、脳が「グルコース(血糖)」を十分に利用できなくなることに起因していました。
高脂肪食を続けると、脳は糖をうまく取り込めなくなり、エネルギーが不足します。
その結果、CCK介在ニューロンは「非常事態」と認識して過剰に働き始め、逆に記憶形成に必要な神経ネットワークを乱してしまうのです。
研究ではさらに、脳細胞のエネルギー利用をコントロールする「PKM2」というタンパク質が、この現象に深く関わっていることも発見されました。
「たった数日」で記憶力低下、“回復の道”も明らかに

今回の研究が明らかにしたのは、ジャンクフードの悪影響が「体重増加や糖尿病になる前」、つまり食べ始めてわずか数日の段階で、脳に先行して現れるという点です。
これまで肥満や生活習慣病と認知症リスクの関係は知られていましたが、「食べた直後」から脳の記憶回路がダメージを受けるとは、多くの専門家も驚きをもって受け止めています。
しかし希望もあります。
チームは、脳のグルコース濃度を人工的に回復させたり、食事パターンを「断続的断食(インターミッテント・ファスティング)」に切り替えたりすることで、過剰に活性化した神経細胞が正常な働きを取り戻し、記憶力も改善することを発見しました。
このことから、「食生活の改善」や「適度な断食」といった身近な工夫が、ジャンクフードによる脳ダメージの“回復”につながる可能性が示唆されます。
また、高脂肪食が続くことでアルツハイマー型認知症などのリスクも高まることが予想されますが、早期からの生活改善や介入が“脳の健康”を守る重要なカギであると考えられます。
参考文献
Junk food diet can quickly disrupt memory circuits in the brain, study finds
https://medicalxpress.com/news/2025-09-junk-food-diet-quickly-disrupt.html
元論文
Targeting glucose-inhibited hippocampal CCK interneurons prevents cognitive impairment in diet-induced obesity
https://doi.org/10.1016/j.neuron.2025.08.016
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部