グロ過ぎて報道されないクマ被害の実際の症例報告

近年、クマの人里出没が全国で相次ぎ、特に北海道のヒグマは人身被害の危険性が高い動物として大きな話題を呼びます。

一方で、「本州にはヒグマはいないし、いるのは体の小さいツキノワグマだけ」と油断している人も多いのではないでしょうか。

ニュースで取り上げられるのは軽傷で済んだケースが中心であり、致命的な被害の実態や外傷の写真が報道されることはほとんどありません。そのため「本州のクマ被害は大したことがない」という誤解も生じやすくなっています。

しかし実際には、ツキノワグマによる攻撃も極めて深刻で、命に関わる重傷や後遺症を残すケースが少なくありません

今回は実際の医療現場で報告された、ツキノワグマによる重篤な外傷の症例をもとに、その危険性を具体的に解説します。

目次

  • 本州・秋田や山梨で明らかになったクマ外傷の実態
  • 多くは対処する間もなく襲われている

本州・秋田や山梨で明らかになったクマ外傷の実態

ここ数年、クマが人里に出没し、人を襲う事件が全国で相次いでいます。
特に2023年度には、環境省のまとめで全国198件・被害者219人・死亡者6人と、統計史上最多を記録しました。これは10年前の2016年度(被害件数101件、被害者数105人)と比べると、被害件数・人数ともにほぼ2倍に増えたことになります。

そして2025年もその勢いは衰えていません
環境省などの報告によると、2025年4月から8月までのわずか5か月間で、全国で69人がクマに襲われ、このうち5人(ツキノワグマ3人、ヒグマ2人)が命を落としています。死亡者数は前年同期より多く、被害の深刻さが浮き彫りになっています。

このように、クマによる人的被害は全国的に増加傾向が続いており、2025年も高い水準で推移していることが分かります。
被害は山奥だけでなく、住宅地や畑、里山周辺など、私たちの身近な場所でも起きています。

全国でクマによる人的被害が増える中、ニュースやワイドショーでは「運よく軽傷で済んだ」体験談や、かすり傷程度で済んだケースが多く紹介されています。確かに、クマに襲われた場合でも「引っかき傷」や「軽度の咬傷」だけで済む人もいます。しかし、実際には命に関わるような重傷や、深刻な後遺症が残るケースも少なくありません

クマによる人身事故のほとんどは、予期せぬ状況でクマとばったり出会ったというケースが多く、クマもパニックになっているため、その被害の程度は非常に幅広いのが実情です。

実際の被害報告を見てみると、軽症例は引っかき傷や浅い咬み傷にとどまることもありますが、重傷例の内容は想像を超えるものです。

クマ被害は「グロすぎて報道出来ない」

秋田大学のまとめた重症例(1995年〜2017年、13例)では、すべての症例で顔面への外傷が見られ、そのうち10例で顔の骨(鼻骨、頬骨、顎骨など)の骨折が発生しています。さらに4例では眼球が破裂して失明し、頭蓋底骨折や髄液漏、硬膜下血腫など脳にもダメージが及んだケースもありました。

山梨県立中央病院で報告された9例でも、顔面の外傷は全例で確認され、眼の重い損傷が6例(うち眼球摘出2例)、さらに外鼻全欠損(鼻が失われる)症例も報告されています。顔や頭、なかでも目や鼻など「顔の中心」が集中的に狙われる傾向があるのです。

加えて、顔の皮膚や筋肉が大きく失われてしまい、何度も形成手術や植皮を繰り返す必要があった人もいます。さらに、顔を守ろうとしたときに腕や体にも深い傷や骨折を負い、出血性ショックに陥る例も確認されています。

これら重傷例では、受傷後も複数回の大手術や長期入院が必要となり、気管切開による気道確保輸血を要することもあるようです。また、一見すると小さな裂傷であっても、その内部では筋肉や神経が断裂していることも多く、見た目以上に重篤なダメージを負っている場合が少なくないという。

このような重篤な外傷の画像や詳細な手術経過は、一般向けのメディアではグロテスクすぎて掲載できません。しかし、下記の専門論文では医学的な資料として、実際の被害者の状態や傷の状態が公開されています。

その内容はテキストで述べると次のようなものです。

  • 顔面の皮膚や筋肉、骨までえぐり取られる

  • 眼球が破裂・脱落し、視力を永久に失う

  • 鼻が根元から全てちぎれ取れる

  • 下顎骨や口唇の大部分が失われる

  • 頭蓋骨が露出するほど頭皮が剥がれる

  • 全身にわたる広範な裂傷や骨折、出血性ショック

上述のような状態を示したクマ被害の現実を本当に知りたい方は、自己責任で論文中の画像や図版をご確認ください(ショッキングな内容を含みますので、閲覧には十分ご注意ください)。

メディアでは軽症の被害談がクローズアップされがちですが、実際にはこのような命を脅かす重篤な被害も多数報告されているということを忘れてはなりません。

ここで紹介されているのは全て本州のツキノワグマによる被害です。クマというと北海道のヒグマが恐ろしいという話はよく話題に出るものの、ヒグマに比べて体の小さい本州のツキノワグマは、そこまで危険ではないと考える人も少なくありません。

特にツキノワグマは基本的に人を避ける習性があると言われるため、出会っても適切に対処すれば、安全にやり過ごせると考える人もいるようです。

しかし上述の通り、本州の「体が小さいツキノワグマ」であっても、襲われれば命に関わるような重傷を負う危険性が非常に高いことが、実際の医療現場から明らかになっています。

ではこの報告にあるような被害は、実際どのような状況で起きているのでしょうか?

多くは対処する間もなく襲われている

今回紹介した症例の被害者は、決して「対処を誤ったから」クマからひどい攻撃を受けたというわけではありません。

秋田大学の調査(1995〜2017年の13例)や山梨県立中央病院の報告(2000〜2020年の9例)を見ると、ツキノワグマによる重傷被害は普段の生活や仕事の延長線上で発生していることがわかります。

たとえば秋田大学の13例では、被害が起きた主な状況は以下のようにまとめられています。

  • 畑仕事や農作業中(5例)

  • 山菜採りやキノコ採り(2例)

  • 釣りや川沿いでの活動(2例)

  • 林業作業や山中での作業(2例)

  • 自宅敷地や納屋周辺(2例)

被害の多くは日中(朝から夕方)に発生しており、自宅のすぐ近くや生活圏の畑、日常的に出入りする場所でクマと鉢合わせしてしまったケースが目立ちます。

また、山梨県の9例も同様で、

  • 山林での作業や登山(7例)

  • 自宅周辺や果樹園・飼料室での活動(2例)

と、やはり日常生活の一部や生活圏の中で突然被害に遭っているケースが含まれます

そして被害のきっかけは、次のような状況だったとされています。

  • 出会い頭で突然襲われた

  • 作業に夢中になっていてクマの接近に気づかなかった

  • 農作物の収穫や下草刈り、納屋や倉庫の出入りなど普段通りの作業中

多くの被害例で共通するのは「出会い頭」の事故です。クマも本来は人を避けて行動していますが、突然の遭遇や至近距離での接触がきっかけとなり、クマが防衛本能からパニック状態で攻撃に転じることがほとんどです。

そのため、被害者の多くは、よく聞くようなクマと出会ったときの対策や防衛手段を取る暇もなかったと考えられます。

これはクマとの遭遇そのものが極めて危険であり、誰にでも起こりうる被害であることを示しています。

加えて、クマが食糧不足だったり、子連れ個体だった場合、防衛本能が強まり攻撃性が増すことも知られています。一度攻撃が始まれば、そのパワーとスピードは人間の想像を超え、ほんの数秒で重傷を負う危険性があるのです。

また実際のクマ被害の症例を見ていくと、その多くが顔や頭部に致命的な損傷を受けていることがわかります。これは決して偶然ではありません。

攻撃時クマは後ろ足で立ち上がり前足の鋭い爪強力な咬みつきで人間を攻撃します。こうした姿勢では、ちょうど人間の頭部や顔面がクマの前肢や口と同じ高さになります。

また、動物行動学の観点からも、クマを含む大型哺乳類は「相手の急所=顔や頭」を本能的に狙う傾向があります。顔には視覚や嗅覚、呼吸器といった生命維持に欠かせない器官が集中しているため、ここを攻撃することで短時間で相手の抵抗力を奪えるということをクマも理解しており、意図的に狙ってきます。

実際、今回紹介した論文でも、すべての症例で顔面の損傷が確認され、10例で顔面骨折、4例で眼球破裂による失明頭蓋骨が露出するほどの頭皮剝奪鼻や顎が丸ごと失われるなどの重傷が記録されています。さらに、顔を守ろうとする「防御行動」で手や腕を負傷する例も多く、四肢や体幹にも裂傷や骨折が併発しています。

このように、本州のツキノワグマでも顔面や頭部を狙う重篤な被害が日常的に起きています。

そして恐ろしいのは、被害者がクマと出会って不適切な行動を取ったからではなく、ほとんどは対処する間も無く襲われているケースが多いという点です。

そのため、不幸な被害をなくすためには、人とクマが生活圏で接触することがないように調整するしかないでしょう。

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元論文

クマによる顔面外傷 13 症例の検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/28/2/28_183/_article/-char/ja/
当院におけるクマ外傷9例の検討
https://doi.org/10.11310/jsswc.12.98

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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