「人は見た目が9割」とよく言われます。
顔立ちの美しさやスタイルの良さは、確かに第一印象を左右する大きな要素です。
しかしオーストリア・インスブルック大学(University of Innsbruck)の最新研究によれば、魅力度を決めるカギは見た目の良し悪しだけではないようです。
声の響き、身体の動き、そして体の自然な匂いまでもが、異性への印象を変える要因となることが示されました。
研究の詳細は2025年4月1日付で学術誌『British Journal of Psychology』に掲載されています。
目次
- 顔だけでは説明できない「人の魅力」
- 見た目の良し悪しを超えた「シグナル」を受け取っている
顔だけでは説明できない「人の魅力」

これまでの研究では、外見的な美しさ、とくに「顔」に注目が集まってきました。
たとえば、顔の左右対称性、多くの顔の特徴を平均したような平均的特徴、そして男女らしさを強調する性的二型性が、一般的に「魅力的」とされてきました。
これらは健康や生殖能力と関係していると考えられ、多くの人が共通して好ましいと感じやすいとされています。
しかし現実の人間関係は、履歴書の証明写真だけで決まるわけではありません。
日常生活では、声のトーン、話し方、動きのしなやかさ、さらには体の自然な匂いといった非言語的なシグナルが常に発せられています。
今回の研究では、オーストリアとドイツの研究者らが61人の「エージェント」(評価対象者)の顔写真、声の録音、無音・有音の動画、そして運動後の体臭サンプルを用意しました。
これを71人の若者たち(評価者)に提示し、それぞれの刺激を「どれくらい魅力的に感じるか」を7段階で評価してもらいました。
その結果、もっとも高く評価されたのは「声と映像が同時に伝わる動画」でした。
表情や声、身体の動きが組み合わさることで、よりリアルでダイナミックな印象が伝わり、魅力を強く感じさせたのです。
逆に、平均すると体臭のサンプルが最も魅力度が低いと評価されました。
顔写真や声、無音動画は中間的な評価にとどまりました。
ただし、それぞれの差は大きくなく、どの感覚も少なからず「魅力の判断」に関わっていることが示されました。
見た目の良し悪しを超えた「シグナル」を受け取っている

研究チームはさらに、魅力の感じ方に「共通の好み」と「個人的な好み」がどのように作用しているかも分析しました。
異性を評価する場合、多くの人が共通して好む特徴(たとえば顔のバランスの良さ)と、各人の独自の好み(例えば「声の高さが好き」「仕草が落ち着いている人に惹かれる」など)が、ほぼ同じくらい影響していることがわかりました。
一方、同性を評価する場合は結果が異なりました。
同性への評価では「個人的な好み」の影響がより強く出ていたのです。
これは同性への評価が恋愛や配偶者選びよりも、むしろ「一緒にいて心地よいか」「仲間として気が合うか」といった要素、つまり相性や主観的な好みに左右されやすいことを示しています。
さらに興味深いのは、異なる感覚同士の関連性です。
たとえば、声が魅力的だと評価された人は顔の魅力度も高いと見られる傾向がありました。
また、体の動きと体臭の魅力度には一貫した関連があったことも判明しました。
これは、動きや匂いが「その人の健康状態やホルモン状態」といった変動的な特徴を反映している可能性を示しています。
このように、私たちが誰かに惹かれる理由は単純な「美男美女かどうか」ではなく、多感覚的な情報と個人ごとの好みが織りなす複雑なパターンに基づいているのです。
今回の研究は「魅力=見た目」という従来の固定観念を大きく揺るがすものでした。
人は顔の美しさだけでなく、声の響きや体の動き、さらには匂いといった多様なシグナルから相手の魅力を感じ取っているのです。
参考文献
Attraction goes beyond looks: Study shows voices, scents, and motion all matter
https://www.psypost.org/attraction-goes-beyond-looks-study-shows-voices-scents-and-motion-all-matter/
元論文
Attraction in every sense: How looks, voice, movement and scent draw us to future lovers and friends
https://doi.org/10.1111/bjop.12787
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部