愛犬をビーガンにしても栄養的には問題ないのか?

近年、ビーガンやベジタリアンといった植物中心のライフスタイルを選ぶ人が増えています。

そして自分と同じように「愛犬にも動物性食品を与えたくない」「環境への負担が少ない方法で犬を飼いたい」と考える飼い主も増えています。

しかし、本来は肉食寄りの雑食動物である犬に、肉を使わないビーガンフードだけを与えて健康は保てるのでしょうか。

この問いに答えるため、イギリスのノッティンガム大学(University of Nottingham)の研究チームは、市販されているビーガン(植物由来)ドッグフードと従来の肉ベースドッグフードの栄養価を徹底的に比較分析しました。

この最新の研究成果は、2025年9月3日付の『PLOS ONE』誌で発表されました。

目次

  • 愛犬をビーガンにできるのか?ビーガン・ドックフードの栄養素を調査
  • 一部を除いて肉ベースも植物ベースも栄養素に大差はない

愛犬をビーガンにできるのか?ビーガン・ドックフードの栄養素を調査

ビーガンとは、肉や魚、卵や乳製品など動物性食品を一切口にしないライフスタイルを指します。

近年は健康だけでなく、動物愛護や環境負荷の軽減のためにビーガンを選ぶ人が世界中で増えています。

そしてその価値観はペットにも広がり、犬もビーガンにできるのかという議論が活発になっています。

実際、欧米のスーパーやペットショップでは、「植物100パーセント」や「ビーガン対応」といった表示のドッグフードが増えています。

こうした製品は、肉を使わずに犬に必要なすべての栄養を与えられると宣伝されているようです。

しかし犬はもともと肉を主なエネルギー源としてきた動物です。

そのため、本当にビーガンフードだけで健康が保てるのかという疑問や不安の声も多く聞かれます。

この疑問に科学的な答えを出すために、ノッティンガム大学の研究チームは、イギリス国内で市販されているドライタイプの完全食ドッグフード31種類を集めました。

サンプルは肉ベース、植物ベース(ビーガン・ベジタリアン)、獣医療用の3つのグループに分けて調査されました。

肉ベースは鶏肉や牛肉、羊肉などが主原料の19種類、植物ベースは豆類や穀物など動物性原料不使用の6種類、獣医療用は腎臓病など特定の疾患対応で低タンパク設計の6種類です。

分析項目はタンパク質、犬が体で作れないため食事から摂る必要がある必須アミノ酸9種類、脂肪酸、カルシウムや鉄、ヨウ素など13種類のミネラル、ビタミンD、ビタミンB群(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12)です。

さらに、欧州ペットフード工業連合会(FEDIAF)の基準をもとに、すべての成分が基準を満たしているかどうかも調べました。

このようにして、1つ1つのフードを細かく分解・分析し、本当にビーガンフードだけでも犬に必要な栄養がすべて揃うのかを明らかにしました。

一部を除いて肉ベースも植物ベースも栄養素に大差はない

今回の研究でまず分かったことは、肉ベースと植物ベースのフードのタンパク質量や必須アミノ酸のバランスに大きな差はなかったということです。

植物性原料、たとえば豆や大豆、エンドウ豆なども上手に組み合わせることで、肉と同じくらいのタンパク質やアミノ酸量を実現できると分かりました。

脂肪酸、特にオメガ3やオメガ6といった必須脂肪酸も必要量を満たしており、亜麻仁やチアシードなどの原料が活用されています。

一方で、ビーガンフードではヨウ素とビタミンB12、B9(葉酸)、B3(ナイアシン)などのB群ビタミンが不足しやすいことも明らかになりました。

ヨウ素は海藻や藻類を原料に加えることで補える場合がありましたが、それ以外の製品では不足が見られました。

ビタミンB12も動物性食品が主な供給源となるため、ビーガンフードを与える場合は、サプリメントや添加剤で強化する工夫が今後も必要でしょう。

ちなみに、調査した31製品のうち、すべての栄養基準を100パーセント満たしたものはごくわずかでした。

肉ベースか植物ベースかに限らず、栄養面で完璧なものはほとんどないのです。

具体的には、必須アミノ酸の基準を満たした製品は全体の約55パーセント、ミネラル基準をクリアした製品は16パーセント、B群ビタミンの基準をクリアした製品は24パーセントでした。

ビタミンDについては、すべての製品で基準をクリアしていました。

ただし、基準を下回っていた成分も、すぐに健康被害につながるほどの極端な不足ではありませんでした。

メーカー側が今後サプリメントや強化原料を活用すれば、簡単にクリアできる範囲だと考えられます。

飼い主としては、どんなフードでもラベルや原材料をよく確認し、気になる成分の基準が満たされているかをチェックすることが大切でしょう。

今回の研究にはいくつかの限界があります。

まず、イギリスで流通している大人の犬用ドライフードが対象でした。

そのため、子犬や妊娠中、授乳中の犬、病気を持つ犬にはそのまま当てはまらない場合もあります。

また市販されているビーガンフードすべてを網羅したわけではない点も考慮すべきです。

一方で、この研究がペットフード企業と無関係に独立して行われ、成分分析も客観的かつ精密に行われた点は評価に値します。

「ビーガン=危険」「肉だけが絶対安全」といった極端な意見を支持することを目的としたのではなく、科学的に分析して「選択肢の幅が広がっている」ことを実証した意義は大きいといえます。

今後は長期間にわたって犬にビーガンフードを与え続けた場合の健康への影響や、成分が体内でどれだけ利用されるか、つまり消化吸収率などを調べる研究が期待されています。

この研究は、極端な主張を推奨するものではありません。

飼い主としては、最新の情報を参考に、愛犬ごとに合った最適なフードを選ぶことが大切です。

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参考文献

Vegan diets for dogs likely as healthy as meat-based ones
https://newatlas.com/pets/dog-vegan-diet-healthy-nutrition-study/

Vegan dog food provides similar nutrients to meat-based diets, new study finds
https://www.nottingham.ac.uk/news/vegan-dog-food-study

元論文

Nutritional analysis of commercially available, complete plant- and meat-based dry dog foods in the UK
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0328506

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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