衣類の黄ばみを「青色LEDライト」で落とせると判明【デリケートな素材もOK】

「白いシャツの脇の下や襟が、いつの間にか黄色っぽく変色してしまう」

どんなに清潔に着ていても、洗っても落ちない黄ばみは、多くの人にとって気になる悩みとなっています。

これまで黄ばみ対策には、漂白剤やクリーニングといった方法が頼りでしたが、今回、日本の化学メーカーである旭化成の研究チームが新たな解決策を示しました。

彼らは、高輝度の青色LEDライトの光で衣類の黄ばみを落とせるという、画期的な方法を発表したのです。

この研究成果は、2025年8月1日付の『ACS Sustainable Chemistry & Engineering』誌に掲載されています。

目次

  • なぜ衣類は黄ばむ?新しい漂白法は「青色LED」を使う!?
  • 青色LEDの「黄ばみを消す効果」とそのメカニズム

なぜ衣類は黄ばむ?新しい漂白法は「青色LED」を使う!?

シャツの黄ばみの主な原因は、汗や皮脂に含まれる成分にあります。

汗や皮脂に含まれる油分、特にスクアレンやオレイン酸は、肌に直接触れる脇や襟元、袖口などに染みつきやすくなります。

また、トマトやオレンジジュースに含まれるβカロテンやリコペンといった天然色素も、食べこぼしや飲み物のシミを通じて生地に入り込み、やがて黄ばみの原因となります。

これらの成分は、空気に触れたり、洗濯やアイロン、日常の摩擦や熱によって酸化しやすく、時間が経つほどに生地を黄色く変色させてしまうのです。

今まで黄ばみ対策として最も一般的だったのは、漂白剤や過酸化水素を使った方法です。

これらの薬剤は強い酸化力を持っており、しつこい汚れも分解してくれますが、その反面、生地自体を傷めやすいという問題があります。

生地が弱くなったり、破れやすくなってしまうだけでなく、シルクやウールなどのデリケートな素材には使えません。

また、強い薬剤や大量の水、加熱などが必要なため、環境負荷も大きくなってしまいます。

紫外線(UV)照射も、漂白剤を使わない方法として一部で検討されてきましたが、こちらも生地の劣化や新たな黄色い色素ができてしまうリスクが残ります。

こうした現状を踏まえ、旭化成の研究チームは、これまで合成樹脂の黄ばみ除去に成功していた高出力の青色LEDライトを衣類の黄ばみ除去に応用できないかと考えました。

研究の目的は、漂白剤やUV照射よりも生地にやさしく、環境にも配慮した新しい黄ばみ対策を開発することでした。

本当に光だけで、汗や皮脂、食べ物由来の黄ばみが落ちるのか、その科学的根拠と実用性を明らかにするために、さまざまな実験が行われました。

まず、黄ばみの原因となるスクアレン、βカロテン、リコペンなどの成分をガラス容器に入れ、強い青色LED光(波長445nm、1.25W/cm²)を3時間照射しました。

その結果、すべてのサンプルで色が薄くなり、元の色素が無色の物質に変わっていることが確認できました。

次に、白い綿の布にスクアレンを塗りつけて加熱し、人工的な黄ばみを作成しました。

この布を、青色LEDライトで10分間照射、紫外線ライトで10分間照射、過酸化水素溶液に10分間浸すという3つの方法でそれぞれ処理し、漂白効果を比較しました。

さらに、コットンだけでなく、シルクやポリエステルといったデリケートな素材でも同様の処理を行い、また、食べ物由来のオレンジジュースやトマトジュース、加齢オレイン酸由来の黄ばみにも挑戦しました。

青色LEDの「黄ばみを消す効果」とそのメカニズム

実験の結果、青色LEDライトを使った処理が最も強力に黄ばみを除去できることが明らかになりました。

しかも、青色LEDによる処理は生地へのダメージがほとんどなく、紫外線照射や過酸化水素処理よりもはるかに効果的であることがわかりました。

シルクやポリエステルなどデリケートな素材でも生地が傷まずに効果を発揮していたのです。

また、トマトやオレンジジュース、加齢臭成分など複数の天然由来汚れにも十分な除去効果が認められました。

この光漂白の仕組みは、青色LEDの光エネルギーによって退色プロセスが促進されるというものです。

空気中の酸素が黄ばみ成分の分子の結合を切断し、アルデヒドやカルボン酸などの無色な物質に分解されるのです。

この反応は薬剤や加熱を必要とせず、繊維そのものの分子構造はほとんど壊しません。

そのため、生地にやさしく、環境にもやさしい技術といえます。

今回の実験では、汗や皮脂の黄ばみ(スクアレンやオレイン酸)、食べ物や飲み物の色素(βカロテンやリコペン)、加齢による黄ばみなど、実生活で発生しうる多様な黄ばみに効果があることが示されました。

しかも、コットンだけでなく、シルクやポリエステルなど幅広い繊維にも応用可能で、高級衣類、デリケートな素材にも使える可能性があります。

現在は実験室レベルの成果ですが、研究チームは今後さらに色止め性(色落ちや色移り防止)や安全性の検証を進め、家庭用や業務用のクリーニング装置への応用を目指しています。

また、青色LEDは抗菌効果でも注目されているため、衛生面でも新たな活用法が期待できます。

もしかしたら近い将来、お気に入りの白いシャツを、黄ばみや傷みを気にせず、より長く着ることが可能になるかもしれません。

全ての画像を見る

参考文献

Ugly yellow sweat stains may be no match for blue LED light
https://newatlas.com/science/yellow-sweat-stains-blue-led-light/

Removing yellow stains from fabric with blue light
https://www.eurekalert.org/news-releases/1096697

元論文

Environmentally Friendly Photobleaching Method Using Visible Light for Removing Natural Stains from Clothing
https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.5c03907

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

タイトルとURLをコピーしました