「緊急避妊薬ノルレボ錠」はどう体に作用するのか?常用のリスクは?

どんなに慎重な人でも避妊の失敗などで「想定外の妊娠リスク」が生じることはありえます。

こうした中で、アフターピルとも呼ばれる緊急避妊薬ノルレボ錠が、日本でも薬局で手に入るようになりました。

しかしこの薬について、どんな仕組みで体に働きかけどこまで妊娠を防げるのか、また、緊急避妊薬だけに頼って避妊をすることにはどんなリスクがあるのか――正確に知っている人は多くないでしょう。

今回の記事では、妊娠の仕組みやピル・緊急避妊薬にどのような違いがあるのか、そして「緊急避妊薬だけ」に頼るリスクと限界について、最新の資料や科学的根拠をもとに分かりやすく解説します。

「知っているつもり」を抜け出し、自分と大切な人の健康を守るために、避妊薬の“本当の働き”を一緒に学んでみましょう。

目次

  • 妊娠の仕組みと、“ピル”と“緊急避妊薬”が働くタイミング
  • なぜ”緊急”なのか? アフターピルを常用するリスク

妊娠の仕組みと、“ピル”と“緊急避妊薬”が働くタイミング

なんとなくやったら確率で妊娠してしまう、という雑な認識の人もいるかも知れませんが、実際妊娠が成立するには、意外と複雑なタイミングと偶然が必要になってきます。

まず、女性の体は月に一度「排卵」と呼ばれるタイミングで卵子を放出します(排卵:卵子が卵巣から飛び出す現象)。

この排卵が起きた直後から、卵子が受精できる期間はわずか24時間程度しかありません

また、精子は女性の体内で最大5日間しか生存できません

そのため、妊娠するためには排卵後24時間以内に性交するか、排卵の「数日前」に性交し、精子が卵子を待ち構えることでしか妊娠することはできません。

このように、妊娠はいつでも起きるわけではなく「排卵日を基準にした6日間(排卵日の5日前から排卵日当日まで)」が“妊娠可能な期間”なのです。

俗説で「安全日」というものを聞いたことがあると思いますが、これはこの排卵のタイミングを避けて性交すれば妊娠しにくい、という考え方に基づきます。確かに理論上この約6日間を避ければ妊娠を避けることは出来ますが、実際は排卵日の正確な予測は難しく、ストレスや体調によるずれも大きいため、「安全日を狙っても上手くいかない」ことは論文でも強調されています。

では、避妊薬はこのプロセスのどこに作用して妊娠を防いでいるのでしょうか?

まず、通常のピル(経口避妊薬)は、毎日服用することで体内のホルモンバランスを人工的に調整し、一時的に妊娠時に似た環境を作り出すことで排卵そのものを起こさせないようにする薬です。

具体的には、毎日ごく少量の女性ホルモン(エストロゲンやプロゲスチン)を継続的に体に補給し、脳下垂体から分泌される「排卵を促すホルモン」の働きを抑えて卵子の排卵をストップさせます。

また、頸管粘液の粘度を高め、精子の子宮内への侵入を妨げたり、子宮内膜を薄くして受精卵の着床を妨げたりする三重の作用によって、正しく使えば99%以上の避妊率を誇ります。

一方、緊急避妊薬ノルレボ錠(アフターピル)は、性交後に“即効性”で作用します。

これは女性ホルモンのひとつである“黄体ホルモン(プロゲステロン)”に似せて人工的につくられた「レボノルゲストレル」という成分を、1回だけ高用量で服用します。

これによって体に緊急で「排卵しなくていい」というサインを送り、もし排卵前であれば排卵を遅らせ、妊娠を防ぐことができるのです。

もしも、排卵がすでに起きて24時間を過ぎているのなら、どちらにしろ卵子の受精能力は急速に低下しているためリスクは大きく下がります。

こうした作用で妊娠を防いでいるため、性交が排卵直後から24時間以内に重なっていた場合には、緊急避妊薬であっても完全に妊娠を防げない可能性が高くなります。

そのため、緊急避妊薬は性交後24時間以内の服用で90~95%、25~48時間以内では約85%、49~72時間以内では約58%と高い妊娠阻止率を示していますが、約8300例の利用者を大規模に追跡調査した結果、全体の約1~2%程度は避妊に失敗していることが示されています。

これらの数字は、服用タイミングや個人差による排卵ずれが影響し、正しく服用しても妊娠することがあることを示唆しています。

こうして作用だけ効くと、決められたタイミングで飲み続けなければいけない通常のピルよりかなり使いやすく、効能はあまり変わらないという印象を受けます。

なら、なぜノルレボ錠は”緊急時の最後の手段”とされるのでしょうか? コンドームの代わりのように常用すると何が起きるのでしょうか?

なぜ”緊急”なのか? アフターピルを常用するリスク

もしアフターピルも通常ピルも同じホルモンで避妊するなら、アフターピルをコンドーム代わりに避妊してもいいのでは?

そんなことを考える人もでてくるかもしれません。しかし、ノルレボ錠はあくまで”緊急時の最後の手段”とされています。では、なぜこの薬の常用は推奨できないのでしょうか?

緊急避妊薬ノルレボ錠は、通常のピルの何倍ものホルモン量を一度にまとめて服用します。

そのため、服用直後から月経周期が乱れ、不正出血が起きたり、強い頭痛や吐き気、倦怠感が生じたりと、ホルモンバランスの急変による体調不良が起こりやすくなります

ホルモンバランスの乱れによって次の生理が大幅に早まったり、逆にかなり遅れたり、普段とは全く違う体調の変化が出たりと、一時的でも明確な影響が現れる場合があります。

では、緊急避妊薬をコンドームの代わりに普段から繰り返し使うとどうなるのでしょうか。

実際には「月経周期中に複数回の使用は推奨されない」「頻繁な使用による長期的な安全性は確認されていない」となっています。

繰り返しの使用によってさらにホルモンバランスが乱れやすくなり、生理不順や予測不能な出血、持続的な体調不良が慢性化するリスクもあります。

そのため、緊急避妊薬を「普段の避妊薬」や「コンドームの代用」として使うのは、医学的に極めて危険です。

さらに重要なのは、長期的な常用リスクを調査した研究自体が現時点で存在しないという事実です。

そもそも危険性が明白なので、何度も使い続けた場合に将来どんな影響が出るかを示す科学的な調査データはまだありません。そのため予期せぬ深刻な健康被害のリスクを否定できません

まとめると、アフターピルは本来“最後の切り札”であり、体のホルモンバランスを強制的に急変させる薬です。

単回利用の安全性は確認されていますが、繰り返しの利用や安易な常用は、短期的にも長期的にもどんな悪影響があるか分からず、安全性が全く保障されていません。

低用量ピルなどの計画的な避妊法とは長期的なリスクの考え方が全く異なるため、“緊急用”以外でのアフターピルの常用は絶対に避けるべきです。

正しい性教育とは、ただ知識を持つだけでなく、

自分の体を守るために“どんな選択肢があり、どんなリスクがあるのか”をきちんと理解し、賢く行動できるようになることです。

便利なものがあると雑に理解するのではなく、アフターピルは“本当に必要な時”だけ使うリスクの高い薬と認識することが、自分自身と大切な人を守るために大切なことです。

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参考文献

Plan B One-Step (1.5 mg levonorgestrel) Information (decisional memorandum)

Click to access 021998Orig1s005SumR.pdf
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2022/021998Orig1s005SumR.pdf

緊急避妊薬のスイッチ OTC 化
https://dl.ndl.go.jp/view/prepareDownload?itemId=info%3Andljp%2Fpid%2F12648893

元論文

Effect of levonorgestrel emergency contraception on implantation and fertility: A review
https://doi.org/10.1016/j.contraception.2022.01.006
Emergency contraception review: evidence-based recommendations for clinicians
https://doi.org/10.1097/grf.0000000000000056

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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