SMの「夢を夢で終わらせない人」にはある特徴があった

心理学

ベルギーのアントワープ大学(University of Antwerp)で行われた最新の研究により、BDSM(日本では一般に「SM」と呼ばれる)を実際に実践できる人たちは、実践できない人たちに比べて、人間関係における愛着の不安が少なく、より安定した心理傾向を持っていることが分かりました。

ここ最近になってBDSMの実践者の心理について似たような研究結果が相次いでおり、BDSMが非常に高い社会スキルや心理的安定性を必要とする高度な技能である可能性がみえてきました。

しかし、なぜ心理的に安定した人ほど、このような特殊な世界に踏み込むことができるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年7月1日に『Psychology & Sexuality』にて発表されました。

目次

  • 空想と実践の間にある壁
  • 夢を夢で終わらせない力はどこからくるのか?
  • 「心の安定」がSM実践のラインを超えさせる

空想と実践の間にある壁

空想と実践の間にある壁
空想と実践の間にある壁 / Credit:川勝康弘

日本で一般に「SMプレイ」として知られている用語は、性科学の世界ではBDSMと呼ばれています。

これは「ボンデージ(拘束)」、「ディシプリン(しつけ)」、「ドミナンス(支配)」、「サブミッション(服従)」、「サディズム(苦痛を与えること)」、「マゾヒズム(苦痛を受けること)」など複数の言葉の頭文字を組み合わせた略称です。

つまりBDSMとは、縄などを使った拘束や、パートナー間での支配や服従の役割分担、痛みを与えたり受けたりすることを含む、特殊な性的または心理的なプレイを総合した言葉です。

この特殊性のため、BDSMに興味を持つ人々に対して、「心に問題がある人がすることでは?」、「子どもの頃にトラウマがあるのでは?」というネガティブなイメージや偏見が持たれがちでした。

しかし近年の科学研究は、このイメージが実は正しくないことを徐々に明らかにしています。

たとえば、BDSM的な空想(こうした刺激的な行為を想像すること)自体は、約65~69%の人が、一度はしたことがあると報告しています。

この結果が正しければ、BDSMは人類の過半を大きく超えたかなりメジャーな嗜好と言えます。

一方で、その行動を経験したことがある人は、それよりずっと少なく、2~17%程度、一部の調査では8~12%程度と報告されているのです。

つまり、多くの人は空想の段階にとどまり、実際に行動に移す人は非常に限られていることになります。

ちょうど観覧車に乗ってみたいと多くの人が思うけれど、実際に乗る人はそれほど多くないのと似ています。

実際に乗るとなると、待ち時間や安全の確認、何より一緒に乗る相手への信頼など、乗る前にクリアしなければいけない条件が多いのです。

こうした現状をふまえ、ベルギーのアントワープ大学(UAntwerp)の研究チームは、BDSMへの空想を実際に行動に移せる人と、空想にとどまる人とでは何が違うかを調べることになりました。

夢(SM)を実現させる人たちには、どんな秘密があったのでしょうか?

夢を夢で終わらせない力はどこからくるのか?

夢を夢で終わらせない力はどこからくるのか?
夢を夢で終わらせない力はどこからくるのか? / Credit:川勝康弘

夢(SM)を実現させる人たちには、どんな秘密があったのか?

謎を解明するため研究者たちはBDSMに興味を持っている成人263人と、まったく興味のない成人300人の、合計563人を対象にオンラインでアンケート調査を行いました。

調査では最初に、それぞれの人がBDSMについてどのくらい関心を持ち、どれくらい実際に体験しているのかを尋ねました。

具体的には、BDSM的な行為や状況を頭の中で想像する「空想(ファンタジー)」の頻度と、実際にパートナーと行った「実践(実際の経験)」の頻度について、それぞれ細かく質問しました。

またBDSMに関心があるグループの人には、自分がどのような役割を主に好むのかも報告してもらいました。

役割には主に3種類があり、「支配的な役割(Dom:ドミナント)」が好きな人が約25%、「服従的な役割(Sub:サブミッシブ)」が好きな人が約46%、どちらの役割も状況に応じて切り替えることを好む「スイッチ派」が約29%という割合でした。

次に研究者たちは「愛着スタイル」という人間関係のクセに注目しました。

愛着スタイルとは、人が幼少期の経験を元に形成され、大人になってからも人間関係に影響を与えるもので、成人では「不安」と「回避」の2つの尺度で連続的に測られることが一般的です。

例えば、他人に見捨てられることへの不安が強い「愛着不安傾向」や、他人に頼ったり甘えたりするのを避けがちな「愛着回避傾向」などがあり、これらが低い人は逆に安定した愛着スタイル(人を信頼し親密な関係を築きやすい傾向)を持つとされます。

すると、はっきりとした違いが見えてきました。

BDSMに関心があるグループの人たちは、関心がないグループの人たちよりも「愛着の不安」も「愛着の回避」も低かったのです。

つまり、BDSMに興味がある人々は、一般の人々よりも、他人との関係に対して安心感を持ちやすく、不安や警戒心が少ないという結果になりました。

分かりやすく言うと、BDSMを好む人は、人に対して比較的心を開きやすく、信頼関係を築くことが苦手ではないという傾向がある、ということです。

同様の結果は過去に行われた研究でも得られており、BDSM実践者たちの心理的安定性の高さが報告されています。

今回の結果は既存の研究結果をさらに補完する形になり、BDSMについてのネガティブな偏見が実情と合わないことを示しています。

性科学研究により「SMを実践する人」は一般人より心理的に健全だと判明

 

さらに研究チームは、BDSMへの興味の「空想」と「実践」が、それぞれどのように愛着スタイルと関係しているのかをより詳しく調べました。

その結果、面白いことが分かりました。

まず、BDSM的な空想をすること自体は、愛着スタイルとの関連性がほとんど見られませんでした。

つまり、誰でもBDSM的な状況を想像することはありますが、それが特定の愛着スタイルに限ったことではなく、ごく普通に起こることだということです。

ただし、服従する側の空想だけは少し違っていて、「愛着不安」がやや高い人ほど、その空想をする頻度が少し高かったことも分かりました。

一方、実際にBDSMをパートナーと体験する「実践」については、明確な傾向が現れました。

愛着の不安や回避が低く、安定している人ほど、実際にBDSMを体験した回数が多かったのです。

特に、他人との親密さを避けたり、心を許すことを難しく感じたりする「愛着回避」が低い人ほど、BDSMの実践に積極的であることが明らかになりました。

これは、支配的な役割を好む人でも、服従的な役割を好む人でも同じでした。

まとめると、誰でもBDSM的な空想はするけれど、それを実際に行動に移すことができるのは、安心して人と親しくなれる「安定した愛着スタイル」の持ち主だと言えそうです。

空想だけで終わる人と、実際にBDSMを楽しめる人の間には、人間関係への安心感や信頼感という心理的な差があるということなのです。

「心の安定」がSM実践のラインを超えさせる

「心の安定」がSM実践のラインを超えさせる
「心の安定」がSM実践のラインを超えさせる / Credit:川勝康弘

今回の研究結果を一言でまとめるなら、「相手を信頼し、安心して関係を築ける人ほど、BDSMの世界を実際に楽しめる可能性が高い」と言えます。

この研究が示した一番大切なポイントは、BDSMへの関心や実践と「人との関係の安定性」が深く結びついているということです。

つまり、相手を信頼しやすく、安心して親しくなれるタイプの人は、BDSMという刺激的でちょっと特別な行動を実際に行うことができる、ということなのです。

実際、BDSMのような行動を安全に楽しむためには、パートナーとのコミュニケーションが欠かせません。

例えば、プレイをする前には必ずお互いに話し合って、どこまでがOKでどこからはダメなのかという許容範囲を決めます。

さらに、途中で嫌になったり、やめて欲しいと思ったときにすぐ伝えられるように、あらかじめ特別な「合図」を決めておくことも一般的です。

こうしたやりとりは、相手に安心感や信頼がないと難しいため、コミュニケーション能力が非常に重要になります。

つまりBDSMは、単に変わった遊びをするだけではなく、互いの気持ちを確かめ合いながら信頼関係を深めていくプロセスでもあるのです。

このように考えると、今回の研究結果は、「BDSMに興味がある人=心に問題がある人」という、これまでの間違ったイメージを覆す重要な発見と言えるでしょう。

これまでBDSMという言葉にはネガティブな印象がつきまとい、「何か心の傷や問題を抱えている人が好むもの」といった誤解が根強くありました。

しかし実際には、むしろ他人と安心して親しくなれるような、安定した人間関係を築ける人ほど、BDSMの行動を実際に楽しめる傾向が強いということが今回のデータから明らかになったのです。

とはいえ、誤解してはいけないこともあります。

この研究はアンケート調査によって行われたものであり、「安心して他人と関係を築ける性格」と「BDSMの実践者」の間には相関関係があるものの、因果関係を立証したものではありません。

さらに、文化的な違いによっても今回の結果は変わってくる可能性があります。

この調査はベルギーというヨーロッパの国で行われましたが、性に対してオープンであるベルギーと、性についての話題に抵抗感が強い文化を持つ国では、BDSMへの関心の持ち方や実践のしやすさが異なる可能性があるからです。

それでも、「BDSMを実践する人ほど愛着スタイルが安定している」という発見は、少なくとも相手を思いやるコミュニケーションや信頼こそが刺激的な体験を支える基盤であることを示唆しています。

誰かと観覧車のてっぺんから新しい景色を見たいと思ったら、まずは地上でしっかり手を取り合う――そんな当たり前のことが、実はとても大切なのです。

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元論文

Associations of BDSM fantasies and practices with insecure attachment styles
https://doi.org/10.1080/19419899.2025.2527641

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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