背痛(はいつう)は、ほとんどの人が一生に一度は経験すると言われるほど、一般的な痛みです。
とくに、成人になってから発症しやすくなり、背痛を持つ人の4人に1人は、痛みが慢性化し、仕事や日常生活に支障をきたしています。
そんな中、世間では「背痛を予防・緩和するには”よい姿勢”を守ることが大切である」と声高に主張されています。
ここで「よい姿勢」とは、座ったり、立ったり、物を持ち上げるときに、背中を丸めず背筋をまっすぐ伸ばした体勢と定義されます。
しかし意外なことに、「背痛」と「よい姿勢」の間に密接な関係があることを示す証拠は存在しないのです。
豪カーティン大学(Curtin University )の研究チームによると、これまでの調査をまとめて評価した結果、「よい姿勢を守ることは、背痛の予防や治療に寄与しない」と指摘します。
では、誰もがなりうる背痛は、どう予防し、いかに対処すればよいのでしょうか?
目次
- 「よい姿勢」は、背痛の予防にならない?
- 背痛の発症を防ぐ方法とは?
「よい姿勢」は、背痛の予防にならない?
カーティン大の研究チームは、これまで、背骨の姿勢と背痛の関連性を探る研究をいくつか行ってきました。
その一つとして、青少年の大規模集団を対象とした調査を例にあげています。
それによると、頻繁に背中を丸めたり、猫背であっても、将来の背痛リスクを増大させることには繋がりませんでした。
背痛を患う成人と背痛のない成人を比較しても、日常における姿勢に一貫した違いは見られていません。

これは、重い荷物を持ち上げるリフト姿勢に関しても同じでした。
興味深いのは、5年以上肉体労働に従事している人を調べたところ、背痛のない人は、より前かがみで背中を丸めたリフト姿勢を取る傾向にありました。
反対に、背痛を患っている人ほど、背筋をまっすぐに維持する、いわゆる「よい姿勢」を取っていたのです(PLoS One, 2021)。
背痛持ちの人ほど、「よい姿勢」のアドバイスをよく受け入れていましたが、皮肉なことに、「よい姿勢」を守らない人の方が、背痛リスクは低くなっていました。
また、別の小さな研究では、背痛の症状が緩和するほど、人々は「よい姿勢」を気にしなくなることがわかっています。
これらの結果からは、背痛と姿勢の良し悪しはあまり関連していないことがわかります。
しかし、姿勢の良し悪しが関係しないというなら、背痛はどう予防し、いかに対処すればよいのでしょうか?
背痛の発症を防ぐ方法とは?
これらの先行研究から、背痛を予防・緩和するための「よい姿勢」というのは存在しません。
背骨の形や大きさは人それぞれなので、身体が心地いいと感じる姿勢には、どうしても個人差が生まれます。
また、背中に限らず、身体の健康には「運動」が重要ですから、特定の”心地よい姿勢”に固執するよりも、いろいろ動かしてみる方が効果的です。
加えて、研究チームは、次のような健康状態が悪化すると、並行して、背痛も起きやすいことを指摘しています。
・ストレスを感じている
・気分が落ち込んでいる
・疲労感や倦怠感が高まっている
・睡眠の質が悪く、時間も足りていない
・日中の活動量が少ない
それから、次の2点に思い当たる節があるなら、背痛が長引きやすくなる可能性があります。
・背痛を過度に心配して、不安がる
・背中を保護しようとし過ぎて、適度な運動や身体活動、社会との関わりを避ける
背痛はときに、骨折や悪性腫瘍、感染症、神経圧迫といった重い病気が原因で起こることがあり、これに関しては、医療機関での受診が必須です。
しかし、その割合は全体の1〜5%に過ぎず、残りの95%以上は、背中の組織に識別可能な損傷がなく、何らかの重い病気とも関係していません。
これらの人々の背痛は、「よい姿勢」を守ろうとし過ぎたり、心身の疲労やストレスが原因になっていることがほとんどです。

そこで研究チームは、背痛の予防・対処の方法として、以下の点を心がけるよう促します。
・日常的に背中を動かして、筋肉をリラックスさせる
・自分の好きな(体が心地よいと感じる)運動を定期的に行う
・健康的な睡眠習慣と体重を維持する
・精神的な疲労感やストレスを溜め過ぎないようにする
これらのことを守れば、大抵の背痛は発症を防ぐことができるでしょう。
参考文献
The Relationship Between Posture and Back Pain Isn’t What You Think
https://www.sciencealert.com/the-relationship-between-posture-and-back-pain-isnt-what-you-think
元論文
Exploring lumbar and lower limb kinematics and kinetics for evidence that lifting technique is associated with LBP
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34288926/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部