名前で悪い印象のある貧乏ゆすりですが、実はふくらはぎの筋肉を動かすことは健康にかなり良い可能性があるようです。
米国のヒューストン大学(University of Houston)の研究によれば、ふくらはぎの筋肉であるヒラメ筋をカカトを上げるように収縮させることで、たとえ座ったままであっても、血中の糖分と脂肪を素早く消費させられる可能性があるという。
これまで血中の糖分や脂肪分を消費するにはジョギングなどの運動がいいとされてきましたが、研究では座った状態で行われる僅かな運動でも、激しい運動に匹敵する効果が得られる可能性が示されています。
そして、この報告はいわゆる貧乏ゆすりのような運動のことを言っているようなのです。
研究内容の詳細は2022年8月4日に『iScience』にて公開されています。
目次
- 座ったままでも糖代謝と脂肪燃焼を促進する運動方法を発見
- 足を床に置いてカカトを上げる「貧乏ゆすり的」な動き
座ったままでも糖代謝と脂肪燃焼を促進する運動方法を発見

現在、平均的なアメリカ人は1日約10時間座っているとされています。
これまでの研究で、座りすぎは心臓病・糖尿病・認知症などのリスクを高めることが知られており、散歩など定期的な運動が推奨されています。
しかし推奨されてはいても、多くの人々は行動に移しておらず、座りがちな生活から抜け出すことは難しくなっています。
そこでヒューストン大学の研究者たちは以前から、座ったままの簡単な運動でも、全身の代謝を数倍に上げる方法を探しており、今回、ふくらはぎの筋肉として知られるヒラメ筋の収縮運動の有効性を調べることにしました。
ヒラメ筋は歩行時のエネルギー消費を最大限に節約するように作られていますが、通常の歩行時には行われない収縮運動を行った場合の反応は未知数でした。
結果、座っている間にヒラメ筋の収縮運動を繰り返すことが、血中の糖分や脂肪の消費を促進する効果があることが判明します。
通常の筋肉はグリコーゲンと呼ばれる糖を分解したときに発生するエネルギーを利用して運動を行っています。
(※グリコーゲンを分解したときに発生するのが乳酸です)
しかしヒラメ筋の収縮運動ではグリコーゲンがほとんど消費されず、代わりのエネルギーとして血中の糖分や脂肪分が流用されていることが判明しました。
このような性質がヒラメ筋にあったことは知られておらず研究者たちも「この筋肉(ヒラメ筋)に血中の糖や脂肪を選択的に燃料とするような能力があるとは夢にも思わなかった」と述べています。
研究ではヒラメ筋にターゲットを絞った運動法が試されており、分析の結果、食後の血糖値の変動幅が52%改善され、インスリンの必要量も最大で60%減少することが示されています。
またヒラメ筋の収縮運動を続けている間、食事と食事の間の「断食時間帯」において、脂肪代謝率を通常の2倍にする効果も判明しました。
このような高い効果が得られた背景には、ヒラメ筋が疲れ知らずであることも大きな要因であるようです。
ヒラメ筋収縮はグリコーゲンの消費が非常に緩やかであるため乳酸が溜まりにくく、長時間の運動が可能でした。
そのため研究に参加した被験者たちは、座った状態で行われるヒラメ筋収縮運動を、何時間でも続けることが可能であり、持続的に血中の糖分や脂肪分を消費することにつながりました。
では、ヒラメ筋を収縮させる運動とは実際にはどんなものなのでしょうか?
足を床に置いてカカトを上げる「貧乏ゆすり的」な動き

どのようにしてヒラメ筋収縮を行うのか?
簡単に言えば、足の裏を平らな床に置いて、つま先を動かさないようにしながらカカトを上げる運動である、とのこと。
カカトを上げることにより、ヒラメ筋は収縮を起こします。
一見するとスローな貧乏ゆすりにも見えますが、1回1回の動きでちゃんと足裏の後ろが床に着地している点が違うと言えるでしょう。
しかし研究者たちによれば、見た目よりも複雑で特殊な動きであり、完璧な動きをマスターするには、研究者たちが開発した特別な練習方法が必要になってくると述べています。
研究ではヒラメ筋の運動を適切に行えているかどうかを測定するウェアラブル端末が使用されていましたが、将来的には誰もがヒラメ筋の最適な運動が行えるようなマニュアルを作成していくとのこと。
研究者たちは「ヒラメ筋は体重の1%もないにもかかわらず、全身の炭水化物(糖)の代謝を2倍、3倍にすることも可能だ」と述べています。
もし研究者が言うような劇的な効果がある場合、糖尿病などをはじめとしたメタボリックシンドロームに対して決定的な効果を与える運動法となるでしょう。
参考文献
‘Special’ Muscle Can Promote Glucose and Fat Burning to Fuel Metabolism for Hours While Sitting
https://neurosciencenews.com/soleus-pushups-metabolism-21471/
元論文
A potent physiological method to magnify and sustain soleus oxidative metabolism improves glucose and lipid regulation
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(22)01141-5?_returnURL=https%3A%2F%2Flinkinghub.elsevier.com%2Fretrieve%2Fpii%2FS2589004222011415%3Fshowall%3Dtrue#%20
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部