人生の大きな決断をするときには、信頼できる他人のアドバイスを参考にした方がよいと考えるかもしれません。
しかし実際には、多くの人が「自分ひとり」で決断しようとする傾向があるようです。
カナダ・ウォータールー大学(University of Waterloo)の研究チームは、世界12か国(合計20地域)・先住民社会を含む3517人を対象に、人々がどのような意思決定スタイルを好むかを調査しました。
その結果、文化の違いに関わらず「自分で考えて決める」傾向が全体として最も強く見られました。
この研究成果は2025年8月13日付の学術誌『Proceedings of the Royal Society B Biological Sciences』に掲載されました。
目次
- 決断は「助言」より「内なる声」? 世界規模で探った人類の意思決定のクセ
- 世界中で共通する「自分で決めたい」傾向
決断は「助言」より「内なる声」? 世界規模で探った人類の意思決定のクセ
人生は選択の連続です。
転職すべきか、恋人と別れるべきか、引っ越すべきか、大きな投資をすべきか。
こうした重要な決断を前に、多くの人は「誰かに相談しようか」「一人で考えようか」と悩むでしょう。
このとき、私たちは本当に他人の助言に耳を傾けているのでしょうか?
それとも「やっぱり自分で決めたい」と思ってしまうのでしょうか?
この素朴な疑問に正面から取り組んだのが、今回の研究です。
主導したのはウォータールー大学の研究チームです。
彼らは北米・ヨーロッパ・アジア・南米にまたがる12か国(合計20地域)に住む成人3517人を対象にした、かつてない規模の国際比較調査を行いました。
対象者には、人生でありがちな決断の難しい6つのシナリオが提示されました。
例えば、大学をどこに進学するか、財産をどう使うか、隣人を助けるか自分の作業を優先するかといった具体的な場面が描かれています。
そして各場面について、次の4つの意思決定スタイルのうち自分ならどれを選ぶかを答えてもらいました。
1つ目は「直感」で、自分の第一印象や感覚に従って素早く決断する方法です。
2つ目は「熟慮」で、自分の頭の中でじっくりと利点・欠点を考えたうえで判断する方法です。
3つ目は「友人の助言」で、信頼できる友人に意見を求めてそのアドバイスに従うスタイルです。
4つ目は「群衆の知恵」で、複数人の意見を集めて多数意見や平均的な判断に従う方法です。
参加者は、これらのスタイルについて、どれを使いたいと思うか、どれが最も賢明だと思えるか、自分の文化の中でどれが一般的だと考えられているか、また実際に使ったらどれだけ満足感を得られそうか、といった複数の視点から評価しました。
調査はオンラインや紙ベース、また南米の先住民族に対してはインタビュー形式で実施され、データの信頼性を高める工夫がされています。
参加者の年齢や教育レベル、文化的背景も幅広く、まさに「人類全体の傾向」を探るにふさわしい設計となっていました。
世界中で共通する「自分で決めたい」傾向
分析の結果、一貫したパターンが浮かび上がりました。
それは、文化や言語を問わず、人は「自分で決めたい」という傾向を強く持っているということです。
最も好まれたスタイルは「熟慮」で、次点は「直感」でした。
多くの人が熟考にせよ、直観にせよ、他人に頼らず自分で考えて決めることを選んだのです。
一方、他者のアドバイスを受け入れる人の割合は、「友人の助言」で9〜22%、「群衆の知恵」は2〜12%と、圧倒的に少数派でした。
ちなみに、先住民族でも自己完結型のスタイルが優勢であることが確認されました。
これは「自己依存」が、特定の文化に偏った傾向ではなく、人類普遍的な意思決定のクセであることを示唆しています。
なぜ人は助言を避けがちなのでしょうか?
心理学的には、自分の意見が最も正しいと思い込む傾向や、助言を受けた場合に失敗したときの後悔を避けたい心理があるとされます。
文化的にも「他人に頼るのは弱さ」という価値観が根付いていることが多く、さらに、「人を助けるべきか仕事に送れないことを選ぶべきか」という社会的ジレンマの場面では「相談することで利己的に見られる」ことを恐れる傾向も見られました。
一方で興味深いのは、「自分の文化の中でどれが一般的だと考えられているか」という問いに対しては、「友人の助言」も自己完結型の選択と同じくらいよく選ばれているだろうと予測される傾向があったことです。
これは、人々の内心にある理想と、周囲に対して持っている社会的な期待との間にズレが存在することを示唆しています。
この研究にも限界はあります。
調査は仮想シナリオに基づいており、実際の行動とは異なる可能性があります。
また、参加者は国を代表するような無作為抽出ではなく、便宜的なサンプル(学生や地域住民など)である点にも留意が必要です。
しかし、それでもこの研究は、意思決定における「自己完結型思考」が文化を超えて見られることを示した、極めて重要な成果です。
研究チームは、こうした傾向を前提にした上で、今後の組織設計や教育、医療、ビジネスに活かすべきだと提言しています。
そして次のようにも述べています。
「人はまず内省から始めますが、最も賢い判断は、そのように一人で考えたことを他者と共有したときに生まれるかもしれません」
他人からのアドバイスは貴重です。
だからこそ、自分の中に「自分だけで決めたい」という傾向があることを認め、そのことと向き合いつつ、誰かにアドバイスを求める姿勢を意識すると良いでしょう。
参考文献
Globally, people prefer to ‘go it alone’ when making hard decisions
https://newatlas.com/society-health/decision-making-self-reliance-advice-global/
People disregard advice when making tough decisions
https://www.eurekalert.org/news-releases/1094430
元論文
Decision-making preferences for intuition, deliberation, friends or crowds in independent and interdependent societies
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.1355
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部